独自の出店戦略で差別化 米コスメ大手「アルタ・ビューティ」急成長の源とは?:がっかりしないDX 小売業の新時代(2/2 ページ)
Ulta Beautは、米国最大の化粧品小売チェーンとして急速な成長を遂げている。成長を続けるUltaの強みやデジタル改革について紹介する。
幅広い価格帯の品ぞろえ
Ultaは「All Things Beauty. All in One Place.」(美しくなるために必要なものはなんでもそろう)というコンセプトを打ち出しています。取り扱いブランド数では、Ultaは約600ブランド、2万5000以上の商品を展開しているといわれ、手頃な価格の商品から高級ブランド品まで幅広い価格帯の化粧品を取り扱っています。
商品の提供に限らず、サロンや眉毛サロン、その他のサービスも受けられるようにし、これまで複数の場所で行われていたものを一カ所で提供。生活者の美容を変えることで、特に2013年から2018年にかけては年平均20%以上の成長率を達成しました。
AIでパーソナライゼーション技術を強化
Ultaは早くからAI技術の可能性に着目し、セフォラ同様に積極的な投資を行ってきました。2019年にはAI企業QM Scientificを買収し、パーソナライゼーション技術の強化を図りました。その後も複数のAI関連企業への投資を継続し、自社のデジタルイノベーションチームと投資ファンドPrisma Venturesを通じて、AI開発を推進しています。
またセフォラ同様に、個人の顔や肌に合わせたAI活用も行っています。
2016年の導入以来、1150万回以上の利用実績を記録している「GLAMlab Virtual Try-On」は、メークアップ、まつ毛、眉毛、ヘアカラーなど8200万以上の色調を試すことができます。このシステムにより、店舗に足を運ばなくても自宅で製品を試せるため、オンラインショッピングの体験を大幅に向上させています。
2023年10月には、生成AI搭載の仮想ビューティーアドバイザーチャットを導入し、顧客に24時間365日、美容の専門知識とアドバイスを提供しています。このシステムは、顧客の質問や悩みに対してパーソナライズされた製品推奨や美容のヒントを提供し、オンラインでの購買決定をサポートしています。
また、ロボット技術の導入にも積極的です。米スタートアップLuumと提携し、AIを活用したまつ毛エクステ施術ロボットを導入。さらに、10Beautyとも提携し、完全自動化された5つのステップのマニキュアサービスを提供しています。これらのサービスは、美容施術の効率化だけでなく、品質の標準化を実現しています。
従業員教育をデジタル化 研修コスト大幅削減
AI以外のデジタル活用としては、オペレーション教育へのツール活用で大きな成果をあげています。
多種多様な化粧品を取り扱うUltaは、倉庫・在庫管理を効率化するために需要予測と再発注を自動化する「Swift」という高度な倉庫補充システムを導入しましたが、当初はうまく活用できませんでした。
従業員はシステム会社による4日間の研修や180ページに及ぶマニュアルでは効果的な学習ができず、システムの使い方に苦労していました。さらに、従業員はシステムの判断を信頼できずに手動で数値を修正してしまい、その結果としてサポートへの問い合わせが急増する事態となりました。
この状況を改善するため、Ultaは「WalkMe」というデジタル支援ツールを導入しました。このツールは、システム画面に直接ヘルプ機能を表示し、操作手順を段階的に案内することができます。また、よくある質問への回答をその場で提供したり、入力フォームのエラーをリアルタイムでチェックしたりする機能も追加されました。
こうした取り組みにより、大きな成果が得られました。研修コストは40%削減され、新システムへの投資に対する年間収益率は114%になると予測されています。96.4%の従業員が新しいシステムを活用するようになり、特に繁忙期の発注作業では、例年より早く作業を完了できました。何より重要なのは、従業員がシステムに対する信頼を深め、自信を持って業務に取り組めるようになったことです。
新しいシステムを導入する際には、従来型の研修だけでなく、実践的な支援ツールを活用することで、従業員の習熟度と満足度を効果的に高めて成果をあげる、という視点はデジタル時代に欠かせない手法の一つだと考えます。
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