創業77年の町工場が「新規事業で大当たり」 しかし問合せの嵐……人手不足の中、どう解決した?(2/2 ページ)
さまざまな製品を手がける創業77年の町工場「石川樹脂工業」。下請け業者であったが、2020年には食器の独自ブランド「ARAS」(エイラス)を立ち上げ大成功した。しかしその裏では人手不足という課題を抱えていた。どのように解決してきたのか?
AI電話応答サービスを導入
石川氏が生産性向上の3つ目の策として2023年8月に取り入れたのが、AI電話応答サービス「IVRy」(アイブリー)だ。これはAIが電話の内容を理解し、ホワイトリストとブラックリストなども活用しながらフィルタリングして社員が対応すべきものは社員へ回し、そうでないものは自動応答するというツールだ。
実は、ChatGPT-4が登場した際に、石川氏自身でこのような電話自動応答システムを作ろうとしたこともあったという。
「AIが実用的なレベルになり、社内アプリ開発プロジェクトを立ち上げて、細かい事務作業を自動化するマクロや、在庫管理を効率化するツール、Notionとの連携ツールなど従業員自らが業務効率化ツールを作成していました。だから電話自動応答システムも作れるだろうと考えていました」
しかし現実はそうもいかず、既存サービスを導入するという選択に至った。実際に導入してみて効果があったのだろうか。
「日に50件、それぞれに10分かけていたとすると、電話応対に使う500分という時間を日々削減することができています。また、電話に出るというプレッシャーや呼び出しによる緊張感の低下、集中力の低下といった数値化できない精神面でのメリットもありました」(石川氏)
別のメリットもある。
「IVRyを用いてAIにより電話内容を全てテキスト化してくれる。その内容を社内チャットツールのSlackに飛ばすという仕組みを構築して、どの電話内容も全社員が文字で閲覧できます。これによりナイショの電話ができなくなりましたし、お客さまとの“言った言わない論争”を防げます」(石川氏)
IVRy導入に限らず、さまざまなテクノロジーの導入を進めるに当たって、これまでのやり方を維持したいと考える社員からの反発はなかったのだろうか。
石川氏は「このやり方が苦手だと感じる人は、早い段階で辞めていかれた」と振り返る。「年齢に関係なく、趣味嗜好や相性の問題だと思っています。古参の社員でも、すごく頑張ってくださっている方もいます」
地域全体の発展も目指して世界に通用するものづくりを進める
石川氏が人手不足を課題感として強く意識するようになったのは、今後20年で18歳から65歳までの労働人口が半減するだろうという予測がきっかけだった。「加賀市は日本の他のどの都市よりも人手不足が深刻なのです」と石川氏は憂う。
「石川樹脂では、大きい契機ではロボット導入により、またその他のDXへの取り組みで毎年10%近くの生産性アップを行っている。しかし、地域全体へこの動きを波及させていく必要がある」
そこで、学生インターンシップの受け入れや地域住民向けのプログラミング講座の開催など人材育成に力を入れている。「地方の町工場だからこそ、DXや人材育成を通じて地域全体を活性化していきたい」と石川氏は語る。中小企業の成功事例という形でセミナーへの登壇やコンサルティングも手掛けている。
最後に石川氏は次のような言葉でインタビューを締めくくった。
「日本のものづくりが続くためには世界という大きな市場を狙っていく必要がある。そのためには世界に通用するものづくりをして、発信していかなければいけない。そのためにも、人がやるべき仕事は人が行い、それ以外の部分をAIやロボットに任せられるようにしてものづくりの可能性を広げていかなければいけない。この考えを地域全体に波及させることで、新しい形の地域づくりにも少しずつ取り組んでいきたいですね」
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