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【マネーフォワード、フリーを徹底比較】なぜ、市場評価の明暗が分かれた?グロービス経営大学院 TechMaRI 解説(2/4 ページ)

マネーフォワードとフリーは、上場後も海外機関投資家から400億円以上を資金調達し、赤字を継続しながらも事業成長を実現させた。両社はコロナ禍で世界が激変する中で、両社は機関投資家とどう向き合ったのか。

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「海外機関投資家」を重視 なぜ?

 資本市場から資金調達しながら先行投資を続け、赤字を継続してでも成長を実現するために、マネーフォワードとフリー両社とも海外の機関投資家を株主とすることを重視した。比較的新しいビジネスモデルであるSaaS全般に対しての知見が溜まっている米国では理解を得やすく、また、知見のある投資家から経営に対する貴重なフィードバックが得られるからだ。

 もちろん、海外機関投資家を株主に迎えるには英語でのIRが必要となり、コストがかかる。しかし、日本の機関投資家の取り扱う資金量は、北米と欧州を合わせた額の10%に満たない。また、株式を購入する先の発行体が黒字か否かを重視しており、フリーやマネーフォワードといった赤字を継続している会社の株式への投資額は限られた。経済産業省の調査報告資料でも、スタートアップのIPO後の成長阻害要因として「上場したと言っても、まだ事業リスクが高く、積極的に投資が必要となることも多い一方、適切なリスクマネーの供給者や経営支援の提供者が現状では十分でないことも多い」と指摘している。

なぜマネーフォワードは成功できたのか

 マネーフォワードは、2015年8月に米国のVCからマイノリティ投資を受けているが、本格的な海外機関投資家の参加はIPO時だ。キャピタル・グループやJ・P・モルガンなどが株主に名を連ねた。

 マネーフォワードはこうした機関投資家との対話と交わした約束を守り、経営に反映する姿勢が明瞭だ。

 CEO 辻庸介氏もビジネスメディア「FastGrow」の取材において、機関投資家が自分とのミーティングの際に毎回必ずメモをとっている点を挙げ、四半期ごとに進捗を示して信頼関係を積み上げていくことの大切さを述べている(※1)。

 CFO 金坂直哉氏(当時)も、上場以来、業績予想を下回ったことがないと、2024年2月のキャリアインキュベーション社による取材で答えている(※2)。

※1:参照『上場はスタートアップエコシステムへの“恩返し”。マネーフォワード辻庸介が語るグローバルカンパニーへの成長戦略

※2:参照『上場後も成長を続けるスタートアップのCFOが手掛けるM&A戦略

 2021年度決算でEBITDAを黒字で終え、上場来5期連続で売上高・営業利益・EBITDAいずれも期初見通し内で着地させたことは、株主への強い配慮を感じられる。これは、2019年1月に行った通期決算で、2021年11月期EBITDA黒字化を明示していたためだ。

 実は、2021年中にマネーフォワードは海外での大型公募増資に成功している。他社との競争を考えると、投資を優先し、EBITDAを赤字にすることも資金繰り上は可能であった。しかし、投資家と交わした黒字化の約束を果たしたのだ。

 一旦EBITDAの黒字化を実現した後、「ARRが100ミリオンドルの会社はまだ先行投資フェーズであって、マイナス35%のFCFマージン率が平均」という米国SaaS企業のKPIを引き合いに出し、さらなる先行投資に舵を切った。

 その後、2021年末以降の収益性も重視する資本市場への対応のために、2022年11月第三四半期のIRでは、収益性改善を明示した。売上高成長率を維持しつつ、効率的な顧客獲得を目指し、EBITDAの改善と2024年度での黒字化を約束。2024年1月には、2028年11月期売上高1000億円、EBITDA300億円、長期的にはEBITDAマージン40%以上を目指すと発表した。

 こうした、機関投資家との信頼関係が積み重なり、業績を上げ続けるマネーフォワードの株式に対する買いが集まって株価の回復につながった。また、フィンテック領域の新規事業を推進する際に必要な資金として、2023年8月に120億円を新株予約権付社債で調達することもできた。

 戦略的なIRを行いながら、信頼を積み重ね事業成長の後押しも行えた好事例だ。

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