「言われたことをこなす」店員を“経営者マインド”に! ユニクロが導入した教育法
「言われたことをこなす」のが仕事だった店員を、機会損失を最小限にしながら、売り上げや利益を最大化するために各自が自律的に動ける存在に変えたい──。ユニクロは、どのようにアプローチしたのか?
この記事は、『ユニクロの仕組み化』(宇佐美潤祐著、SBクリエイティブ)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
著者プロフィール
宇佐美 潤祐(うさみ じゅんすけ)
東京大学経済学部卒業。ハーバード大学ケネディ大学院修了。アーサー・D・リトル経営大学院修了。2012〜2016年に、ファーストリテイリングの経営者育成機関FRMIC担当役員を務めた。
ユニクロが体制を一気に変えられた理由は、スタッフの教育の仕組みと雇用の仕組みを見直したところにあります。
店舗スタッフの教育はそれまでは店長に一任されていました。本部はノータッチで完全に店長任せなので、当然、教育にはバラつきが生まれます。教育に熱心な店長もいれば、ほとんど関心を示さない店長もいます。熱心でも教え方や内容は千差万別です。
そもそも、店舗スタッフは店長に言われたことを忠実にこなすことが仕事で、自分で考えることは求められていませんでした。店長が最前線である売り場に立ち、指揮官として、本部とコミュニケーションをとり、知恵を絞る。その施策を忠実に履行するのが店舗スタッフの役割でした。本部としても、スタッフ教育にそれほどコストをかける必要もなかったわけです。
「究極の個店経営」になっても組織図は一見変わりません。本部があって、店舗があります。スーパーバイザーやブロックリーダーと呼ばれる本部社員が、各店舗を支援する体制も変わりません。
ですが、誰が「主役」となり、どこを向いて働くのかが変わります。地域にいる店舗スタッフならではの独自の発想で、地域の顧客を呼び込み、その心をつかむことが成長のエンジンになります。
当然、店舗スタッフにしてみればマインドも行動も180度変わることになりますが、そうしたマインドや行動を教えられる店長はあまり多くいません。これまで現場教育に会社としてそこまで力を入れてこなかったのでこれは当然です。
そこで、現場に任せ切りにするのをやめて、本部で仕組みをつくることになったのです。
「ユニクロの理念」を浸透させる
まず、私たちが何をしたかというと「ユニクロの理念」を理解してもらうように努めました。「企業として何をやろうとしているか、その背景にはどうした考えがあるのか」を理解してもらえないと、スタッフの人たちの行動を変えられないからです。
人は「What」だけでは動きません。重要なのは「Why」です。
地域ごとに店舗スタッフを集めて、企業の方針を理解してもらうためのダイレクトミーティングを開催しました。
ユニクロが「店舗スタッフを主役にした地域に根ざした個店経営」をなぜ目指しているかや、企業としての理念を伝えました。その上でユニクロの店舗で働く意味を考えてもらい、ユニクロの理念を「自分事化」してもらうことで、一人一人に経営者マインドを根づかせるように試みました。
もちろん、スタッフだけ変わっても店長が旧態依然の考え方では成果は上がりません。店長は店長だけで集めて、「究極の個店経営」の考え方、つまりスタッフが主役の店づくりの意味を理解してもらいました。
それから各店舗で具体的に店舗スタッフを主役にした店舗経営をどのようにしていくかの試行錯誤が始まりました。
大きな試みの一つが、「部門担当制」です。地域のことを一番よく知っている店舗スタッフにある特定部門(例えばウィメンズのアウター)を担当してもらい、商品構成、売り場づくりを含めその商品群の経営を任せることでした。店舗の特定部門とはいえ、そこに関してはスタッフが一人の経営者として行動することを求めたのです。
本部がいろいろ言うと押し付けになってしまうので、あくまでもスタッフ本人に行動してもらいました。店長は店舗スタッフの自律性を重んじながら店舗スタッフの成功を後押しする支援をしてもらいました。
当然、スタッフはこれまでと全く違う動きになります。
ユニクロの店舗は「在庫を切らさない」が大原則としてあります。これは簡単に思われるかもしれませんがかなりハードルが高い仕事です。
「在庫を切らさない」を重視して、どのような商品でも大量に発注していたら、売れ残りの山になってしまいます。
ニーズを先読みしながら在庫の強弱をうまくつけて販売計画を考える。そこから一人のスタッフが責任を持って判断しなければいけないのです。
もちろん過去のデータを分析するなど、これまでの延長線上で判断できる部分もありますが、それだけだと機会損失を防げません。過去のデータからAIがベースになる販売計画は出してくれますが、AIはデータにもともとない状況には対応できませんので味付けが必要になります。既存のデータだけでは「本当はお客さまが欲しているのに、商品がないから呼び込めていない」状況は防げないのです。
一人一人のスタッフの役割は、自分の担当分野でそうした機会損失を最小限にしながら、売り上げや利益を最大化することになります。カバーする範囲は小さいにしても、やっている仕事はまさに経営者の仕事そのものです。
スタッフは、それまでは店長に言われるがままに機械的に仕事をこなしていただけだったので大きな変化を求められますが、ものすごく特別なことを求められるわけでもありません。
重要なのは考えられるか、想像力を発揮できるかどうかです。どんなお客さまにこの店舗に来ていただけているのか、なぜこの店に来ていただけるのか、シーズンごとにどんなニーズを持っているのかを、自分で考えてみる、想像してみるのがファーストステップになります。お客さまのニーズを自分なりに考えてみます。
例えば「来週はこの地域では運動会が多いから、運動会に参加する保護者用のニーズを取り込む品ぞろえにしてみよう」と仮説を立てて動いてみます。もちろん、店全体での陳列や見せ方もあるので、店長も交えてそこは調整、修正します。
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