この記事は、『ユニクロの仕組み化』(宇佐美潤祐著、SBクリエイティブ)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
ユニクロには「3倍の法則」といわれているものがあります。これは、ユニクロでイノベーションを起こす原動力になっている考え方です。
柳井正さんの頭の中にある経営の原理原則を言語化・体系化した「経営者になるためのノート」には、経営者には4つの力が必要であると書いてありました。「変革する力」「もうける力」「チームを作る力」「理想を追求する力」の4つです。
それぞれ7項目に因数分解できることはお伝えしましたが、「変革する力」の最初の項目が「目標を高く持つ」です。
「目標を高く持つなんて当たり前ですよね」と指摘されそうですが、みなさんの「高い」とユニクロの「高い」は基準が違います。少し背伸びすれば届くくらいの目標ではないからです。「非常識と思えるほどの高い目標」を掲げなければいけません。
柳井さんはよく「大ぼら吹きになってください」と言っていました。常識で考えたらまともとは思えないくらいの高さが、イノベーションをもたらすために必要なレベルになるからです。
では、常識で考えたらまともとは思えないくらいの高さとは、どのくらいの高さでしょうか。
「常識では考えられない高さ」を設定する
「それはちょっと大ぼら吹きでは」と思われる目標は、どんな目標でしょうか。それは現在の3倍の高さです。
今、定めている目標の達成が見えてきたら、次はその3倍という、あり得ないほどの高い目標を掲げます。おそらく、3倍なんてどう頑張っても無理だ……と感じるはずです。それでも、達成しなければいけないとしたらどうしますか。現状の延長線上の発想ではどう頑張っても到底達成できないので、新しい発想を必死に考えるはずです。生み出さざるを得なければ、人間は何かを生み出します。
これは心構えではありません。
本気で目指すことが重要です。
実際、柳井正さんはユニクロの売上高が100億円のときには300億円を目指し、300億円のときには1000億円を目指し、1000億円のときには3000億円を目指し、3000億円のときには1兆円を目指してきました。
周囲からは「そんなことできるはずがない」と言われながらも、そのたびにイノベーションを次々と起こすことで達成してきました。大ぼらを吹いて、それを有言実行してきたのです。
余談ですが、私がユニクロに入社した当時は売上高が約1兆円で、次は2020年までに5兆円を目標に掲げていましたが、しばらくして3兆円に修正されました。やはり「3倍の法則」が正しいのかもしれません。
今もユニクロは「3倍の法則」を実践しています。柳井さんが「CHANGE OR DIE」と発言したのが2011年でしたが、20年で売上高は約9倍に成長しています。10年で3倍くらいの成長速度で進化しています。今の売上高は約2.7兆円ですが、第4創業と位置付けて、売上高10兆円を目指しています。
壮大な計画に映るかもしれませんが、柳井さんは「途方もない目標だとは考えていない」と言い切っています。これまでと同じように、常識で考えたらまともとは思えないくらいの高い目標でイノベーションをドライブさせようとしています。特筆すべきなのは、ユニクロは創業間もないころからこの「3倍の法則」を強く意識していたところです。
ユニクロの会社の基本理念に「経営理念23カ条」があることはお伝えしました。ユニクロの前身の小郡商事時代からの柳井さんの商売の考え方をまとめたものです。17条までは小郡商事時代につくられたもので、小郡商事の経営理念となっていました。
手書きのメモが残っていてアニュアルレポートでも見られるのですが、そのメモに17条とは別に会社の目標として「年率30%以上の売上高、利益の成長率を維持し、10年後に日本を代表するファッション企業になる」と書いてあります。
「3倍」とは言っていませんが、年率30%で成長すれば10年もたたずに3倍になります。このころは自社の売上高が20億円規模にもかかわらず、すでに「日本を代表するファッション企業になる」と、当時の状況からすれば「大ぼら」を吹いているわけです。
当時からかなり目線が高かったことが分かります。周りから「そんな大ぼら吹いて、大丈夫か?」と言われても、その大ぼらを大ぼらではなく、現実に実現し続けてきたのがユニクロの歴史です。
「大ぼらを吹くなんて怖くてできない」と思われるかもしれませんが、これはビジネスの世界では非常に効果的です。
例えば、日本の企業では「今年度は対前年度比で売上高3%増を目指しましょう」というような目標を掲げがちです。
でも、これでやる気が起きるでしょうか。何か本気で考えて業務変革に取り組むでしょうか。みなさんがその企業の営業職で「3%増」が目標でしたら、前年度の延長で期末だけ頑張れば達成できるイメージが浮かぶはずです。
日々の仕事への取り組みに大きな変化も起きないし、起こす必要もありません。「今までのやり方で頑張ればいいや」となりますし、むしろ、方法を変えない方が効率的かもしれません。
ただ、「3倍を目指す」「年率30%増」と言われたらどうでしょうか。明らかに今までのやり方では到達できません。営業職でしたら、新しい売り方を考えて、新しい顧客を開拓しなければ実現できないはずです。
営業職だけでなく、組織全体が新しい方法を考えることに力を注ぐようになるでしょう。イノベーションを起こさざるを得ないのです。ユニクロの歴史を振り返っても、新しいことを常に考え続けてきたことが分かります。
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