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福利厚生の「スタメン」入れ替え 時代と社員のニーズに合う考え方とは?「総務」から会社を変える

福利厚生の「スタメン」が変わり始めている。これまでの福利厚生は「誰のため」のものだったか、そして今の福利厚生に求められる観点は?

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 人手不足という課題が日本を覆(おお)っている。顧客は存在するのに、人手が足りず対応できない。人手が足りずに倒産してしまう。とにもかくにも人手、労働力の確保が必要だ。総務においても、人材の採用、定着、活躍が最重要テーマとなっている。

 どのようにして求職者に「選ばれる」企業として存在していくか。選ばれたとしても、どのようにして「働き続けたい、働き続けられる」企業として存在していくか。その企業の中で、各自のパフォーマンスを最大化していけるか。単に採用できるだけではなく、むしろ採用してからの活躍に結び付けないといけない。

 採用から継続的な活躍をサポートする仕組みの一つに「福利厚生」がある。その福利厚生の「スタメン」が時代のニーズを踏まえて変わりつつある。どういうことか、詳しく説明していく。


継続的な活躍をサポートする仕組みの一つである「福利厚生」(画像:ゲッティイメージズより)

これまでの福利厚生は「誰のため」?

 昭和の高度成長期、従業員は24時間働ける男性正社員がほとんどであった。ライフイベントもほぼ同様、従業員を増やせば売り上げは右肩上がり。24時間働くので、家庭を顧(かえり)みることもなく、価値観の振れ幅もそんなに広くなかった時代だ。

 つまり、福利厚生に多様性は求められなかった。他社と同等もしくはそれ以上のものを提供するという目的のため、特に「箱もの」が提供された。

 代表例が社員寮や社宅だ。給与が低い若い従業員や地方からの採用者の確保のために、大手企業では多数の寮と社宅が提供されていった。仕事もプライベートも一緒。企業の村社会化を進めるには最適な取り組みであったといえる。ジャパン・アズ・ナンバーワンを支えた一つの要因でもあった。レジャーにおいても箱もの全盛だった。日本の代表的な観光地に企業が保有する保養所が数多くつくられた。

 「全員で」というのも一つのキーワードだったように思う。「全社で社員旅行」「全社で大運動会」「部署単位での定期的な懇親会」など、全員でまとまって何かをする、それを会社で企画する、あるいは補助をする、そんなものも多かった。コロナ禍を経て、その必要性に気付き再開する企業も出てきてはいるが、多くは過去の文化となっているのではないか。

 昭和、そして平成にかけて全盛だった福利厚生のキーワードは、先述したように「箱もの」「全員で」であった。それが、社会環境の変化によってなくなりつつある。

 今の福利厚生のキーワードは「多様性」なのではないか。個々人の状況、嗜好(しこう)に合わせてさまざまな選択肢を用意する。箱に人が合わせる時代から、人に合わせて多様な選択肢を提供するという流れである。

現代の福利厚生の「スタメン」が備える要素

 多様性がキーワードではあるが、その中でも中心となってくるのは「両立支援」「自己啓発」「ウェルビーイング」の3つである。両立支援は法律の後押しもあり、育児休業制度、介護休業制度などが充実してきている。リモートワークも一般化してきており、両立しやすい環境だ。

 自己啓発、つまりリスキリングも、e-ラーニングなどのプログラムが充実してきており、環境は整ってきている。企業にとっては制度充実に加え、従業員の取り組むマインドをどこまで上げられるかがポイントとなる。ツールの充実のみならず、自らのキャリアパスを考えるきっかけも提供したい。企業と共に自らも変化が求められる時代、学び続けようとするマインドの醸成がなにより重要となる。

 ウェルビーイングは、身体的、精神的、社会的に良好な状態のことを指す。この状態を実現し維持できるように福利厚生を設計していく。時代がどう変わろうが、生身の人間が仕事をする以上、このウェルビーイングは欠かせないテーマとなる。今回は特にウェルビーイングに関する福利厚生制度の一部を紹介する。

  • フィットネスチャレンジプログラム:従業員がグループで参加し、歩数やエクササイズの成果を競い合うプログラム。ゲーミフィケーションの要素が入り、参加するモチベーションの向上とともに、同一グループ内でのコミュニケーション活性化(社会的良好な状態)にも効果がある
  • 健康診断の充実:法的に必要な定期的な健康診断とともに、産業医との接点を増やし親近感を醸成し、いつでも相談できる状態をつくり、健康リスクの早期発見を支援する。未病対策の充実化。
  • ウェルネスセミナー:栄養、フィットネス、ストレス管理などに関するセミナーを開催し、従業員の知識を深める。ポイントはメニューの豊富さ。どのテーマに関心があるかは特定しづらいので、数多く提供する。どこかで引っかかり、それを契機に健康に関心を持ってもらう取り組み。
  • ヨガや瞑想クラスの提供:マインドフルネスは、生産性の向上に効果があると期待されている。ストレス解消やリラクゼーションのためのクラスを開催し、メンタルヘルスの向上も目指す。瞑想ができるスペースをオフィス内に設ける企業も増えている。
  • 健康食の提供:オフィス内やカフェテリアで健康的な食事やスナックを提供し、栄養バランスをサポートする。ある企業では、社食において納豆や生野菜を食べ放題としている。また別の企業では、健康メニューを提供しつつ、そのレシピも公開し、自宅でも食べられるように促している。
  • 自転車通勤の奨励:自転車通勤を促進するための補助金や施設(自転車置き場やシャワー室)を提供する。ただ、交通事故のリスクもあるので、保険の手当や自転車の安全運転講習会の実施もする必要がある。
  • 健康アプリの利用:従業員が健康状態を管理できるアプリを導入し、日々のアクティビティや食事を記録する。状況が可視化されると、目標に向かって動き出しやすい。また、他の従業員と競わせるような大会を仕組むと、さらに実施率が高まる。

 このような施策を取り入れることで、従業員の健康やモチベーションを向上させ、企業全体の生産性や職場環境の改善につながることが期待できるだろう。

著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)

株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェロー

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』


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