2025年、AIは企業の「決済」をこう変える 取引はより速く、スムーズに……どうやって?
AIは、一般の消費者や事業主が気付かない形で決済業界の様相をすでに変えている。しかし、2025年には、この新興技術が商品やサービスの支払いの場面でより目に見える形で活用される可能性があると、決済業界を研究するアナリストや学者は指摘している。
AIは、一般の消費者や事業主が気付かない形で決済業界の様相をすでに変えている。しかし、2025年には、この新興技術が商品やサービスの支払いの場面でより目に見える形で活用される可能性があると、決済業界を研究するアナリストや学者は指摘している。
例えば、不正対策はAIの主要な実用分野の一つである。ただし、消費者がその恩恵を意識するのは、クレジットカード番号が盗まれたり、銀行口座がハッキングされたりした場合だけかもしれない。しかし、技術が進化するにつれて、消費者はより多様な決済オプションや購買提案をAIから受けられるようになる可能性がある。
チャットbotのChatGPTのようなプログラムが、限定的な会話で人間を模倣したり、時折説得力のあるエッセイを書いたりすることで最近話題を集めている。その一方で、ほとんどのフィンテック企業や決済企業が使用しているプログラムはそれよりも古いものであると、コネチカット大学ビジネススクールのフィンテック修士課程ディレクター、ジョン・ウィルソン氏は強調する。
「多くの人がAIと呼んでいる技術は、革新的でも新しいものでもありません。ただ、計算能力の向上により、これらの技術がより大規模に適用されるようになっただけです」と彼は述べた。
しかし、この計算能力の向上は、AIが人々の支払い方法をいくつかの重要な点で変える可能性を意味している。
AIプログラムは、決済端末における選択肢を増やす可能性がある。例えば「後払い決済」(BNPL)のようなオプションを、より簡単に提供できるようになる。
消費者側
オランダのフィンテック企業Adyenの北米社長であるダビ・ストラッツァ氏は、自社の調査結果を引用し、Z世代は迅速な決済を好み、取引を完了するための複数の方法を求めていると述べている。AIは、消費者の取引履歴を分析し、即座にリスクプロファイルを作成することで、BNPLのような代替決済手段をすぐに利用できるようにして、事業者を支援すると説明した。
「新しい世代の買い物客は、決済端末が提供する選択肢を非常に重視しています」とストラッツァ氏は語った。
さらに、フィンテック企業はAIを活用して顧客の取引履歴を分析し、より多くの購買を促す戦略を進めていると、カリフォルニア大学アーバイン校ポール・メラージスクールの金融学助教授であり、『The Economics of Fintech』の著者であるマイケル・アイマーマン氏は述べている。
「決済から生成される多くのデータ、特に行動分析と組み合わせた場合、それを活用して顧客の好みを把握することができ、さらに顧客への推奨提案を行うことが可能です」とアイマーマン氏は述べている。
米Amazonや米PayPalのような企業はすでにこれを行っているが、AIの進化によりこのプロセスはさらに加速し、より広範囲に普及するとアイマーマン氏は指摘する。
「まるで自分の心を読んでいるかのように感じるかもしれませんが、実際には、取引を通じて生まれたデジタルフットプリントを利用し、顧客の好みや関心に合ったコンテンツを提供しているだけなのです」と彼は述べた。
また、人工知能の導入により、カード決済が予期せず拒否される事例も減少すると、カリフォルニア大学アーバイン校のマネー・テクノロジー・金融包摂研究所(Institute for Money, Technology and Financial Inclusion)のディレクター、ビル・モーラー氏は語る。
AIは、従来の信用情報レポートには含まれないデータ、例えば支出傾向や支払い履歴を基に、顧客のリスクプロファイルを瞬時に作成できるという。
「AIは、請求書の支払い頻度や送金の規則性といった要素を即座に考慮できます」とモーラー氏は述べた。「例えば、3カ月ごとに100ドルをメキシコの母親に送金しているとしましょう。これは通常の信用情報レポートには記載されませんが、このようなデータは銀行や信用組合に対して、私の信用リスクを評価するための重要な情報となります」
事業者側
事業者において、AIは決済プロセスの摩擦を軽減し、コンバージョン率を向上させる可能性を秘めている。
米ダラスに拠点を置く決済プラットフォームTriumphPayは、運輸業界向けのサービスを提供しており、AIを活用して請求書処理をより効率化する予定だ。
同社社長のメリッサ・フォーマン=バレンブリット氏によると、TriumphPayは異なる方法で請求書を処理する企業間の仲介役を務めており、AIを活用することでこれらの違いを埋め、取引をより迅速に完了できるようにしているという。
「各関係者が請求書が正当なものであることを確認し、支払いを実行できるようになります」とフォーマン=バレンブリット氏は述べた。
また、AIは不備やエラーの特定にも役立つと彼女は説明する。「書類に問題がある場合や、必要な情報が欠けている場合、AIを使ってその例外を特定し、迅速に情報を取得することができます」と述べた。
さらに、米マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置くベンチャーキャピタル企業F-Prime Capitalのプリンシパルで、Toastなどの決済企業に投資しているロシオ・ウー氏は、新興技術であるAIが決済プロセスの裏側で多くのタスクを自動化し、スムーズに進行させることができると指摘している。
「毎月の決済照合や帳簿の締め処理、さらには決済自体の処理など、特に取引量が多い企業では、膨大な管理負担と人手が必要です。これは大きな負担です」と彼女は述べた。
ウー氏によれば、AI技術が進化したことで、これらの業務の一部を人間の従業員から引き継ぐことが可能になりつつあるという。
例えば、シンガポールのフィンテック企業Airwallexの米州担当ゼネラルマネジャーであるラビ・アドゥスミリ氏は、AIが新規顧客のリスク評価を支援できると述べている。
「さまざまなAIエージェントやモデルを活用することで、顧客から提供された情報を補完するための外部データを取得できます」と彼は説明する。「これにより、その顧客が高リスクか低リスクかについて、より的確な判断が可能になります」
不正防止と詐欺対策
AIが膨大なデータを高速で処理できる能力は、不正や詐欺を防ぐためのAIの最も実用的な応用例の一つとなっており、この新興技術の役割はさらに進化し続けている。
決済ソフトウェア企業ACI Worldwideは長年にわたりAIを利用してきたが、最近ではこの強力なツールを新たな形で応用している。同社は現在、カスタマーサポート担当者の業務効率向上、ソフトウェア開発者の支援、大規模な不正検出などにAIを活用している。
「AIを活用すれば、これらのパターンを従来よりもはるかに迅速かつ効果的に見つけることができます」と、ネブラスカ州エルクホーンを拠点とする同社のCEO、トム・ウォーソップ氏は2024月11月のインタビューで述べた。
また、米ウィスコンシン州ミルウォーキーに本社を置くFiservもAIを活用して決済データを分析し、不正取引を検出している。同社のCEOであるフランク・ビジニャーノ氏は、2024年7月の決算説明会でアナリストに対し、この取り組みを明らかにした。
一方で、犯罪者もAIを利用している。認証基準を策定する国際コンソーシアムFIDO AllianceのCEOであるアンドリュー・シキアー氏は、生成AIを活用することで詐欺師がさらに巧妙な詐欺を実行できるようになると述べている。
シキアー氏は2024年12月のインタビューで、「生成AIを使えば、文法や言語において完ぺきなフィッシング攻撃を、非常に短時間で作成できるようになります。そして、正規のWebサイトをピクセル単位で再現した偽サイトに誘導することで、フィッシング詐欺を大規模に展開できるのです」と警告した。
「そのため、たとえフィッシングメールを開いてしまったとしても、被害を防ぐための保護策を導入することが非常に重要です。なぜなら、フィッシングメールは本物のメールと見分けがつかなくなるからです」
このように、AIが詐欺や不正行為を拡大させる手段として利用される一方で、それを抑制するためのツールとしても活用できると、シチズンズ銀行のエンタープライズ決済戦略責任者であるタイラ・ホール氏は述べている。
ホール氏によれば、新興技術であるAIは膨大な取引データを瞬時に分析し、即座に異常の兆候を特定することができるという。
「AIはデータを活用して顧客行動をより深く理解し、パターンを認識することで、不正取引をより迅速に特定できるようになります」とホール氏は述べている。
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