小売のDXは「選択と集中」がカギ コンビニ大手の取り組みからヒントを探る(2/3 ページ)
各業界でDXの必要性が高まる中、特に小売業ではどんな点を考えながら推進していけばいいのか。同業界に詳しい著者が、コンビニ大手の取り組みを基にしながら解説していく。
「何のためのDXか?」を考えよう
「DXは何のために推進するのですか?」――こう聞かれたとき「業務効率化のためです」「客単価アップのためです」と回答するケースがよくあります。しかし、これは自社の視点であり、先述した3つのポイントには触れられていません。DXは自社視点だけで考えるのは不十分です。次の図にあるように多層的に考える必要があります。特に小売りビジネスにおいて、顧客が来店するのは業務効率化のためではなく、商品を購入するためだからです。
顧客視点が欠如している分かりやすい例が、セルフレジやセルフ決済です。ユニクロのように無線自動識別(RFID)タグを活用できる商品であれば、顧客のレジ時間など待ち時間の短縮のみならず、棚卸や購入分析、店舗別の在庫状況把握を実現して多くの価値を提供できるでしょう。
しかし、こうした技術を横に置いて単にセルフレジやセルフ決済の導入が目的になると、スーパーなどでセルフレジをフォローするためのスタッフが何人か必要で、結局大した人員削減にならず、逆にセルフレジに行列ができてしまいます。1品だけ買う人が、レジで10分も待つマイナス効果を生み出してしまうのです。こうした事態を招かないように「それは顧客にとってどのような価値があるのか?」という問いに明確に答えられるDXにすることが大前提です。
次の図は小売業のDXの全体像を整理したものです。
上位にある事業戦略とDXが密接である必要があり、ツール導入が戦略と分断されてしまうと「何のためのDXか」という目的を見逃してしまうことになります。
図の左側は、既存事業・既存店の高度化、右側が新規事業の創出となっています。新規事業の創出として代表的な例がリテールメディアです。大手30社以上が既に参入を表明し新たなメディアプラットフォームを確立するべく、デジタルサイネージの設置、データ分析基盤の構築、人流データの活用などが急速に進められています。
右側の既存事業の各テーマに分類してコンビニ3社の主要な取り組みを整理したのが次の図です。
以前はコンサル会社などの提案に積極的に着手したからか、さまざまな失敗も経験してきたようです。しかし、現在推進されているものは地に足のついた、顧客の利便性につながるものが多くあります。
ニーズのある商品や価格を予測し、的確に売場に用意する。その前提となる顧客分析手法を多角的に広げ、精度を高めていく。さらに、顧客対応の高度化を迅速かつ継続的に実現するために倉庫や物流を整備する――個々の取り組みがつながっていると想像できる施策です。
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