電子処方箋、なぜ広がらない? 実体験から読み解く医療DXの課題:がっかりしないDX 小売業の新時代(2/2 ページ)
2023年1月から運用がスタートした電子処方箋。Amazonファーマシーのサービスを実際に筆者が利用してみた体験を通じて、電子処方箋運用の現状と課題について考える。
電子処方箋なぜ広まらない? 薬局と医療機関で温度差
電子処方箋は2023年に本格運用が始まり、2024年末現在では、薬局から先に対応が進んでいます。厚生労働省の公開データによると、電子処方箋を実際に運用中の薬局は全国のおよそ半数程度にまで拡大し、特に大手チェーン薬局では導入率が高い傾向があります。
一方、医療機関(病院や診療所)では、現時点での導入率は1〜2割程度にとどまると推定されています。
薬局の方が先行している背景には、「オンライン資格確認対応を機に、まとめて電子処方箋システムを導入しよう」という意識が薬局業界に強まっていた点があります。2024年度の診療報酬改定でオンライン資格確認の原則義務化が進むなか、薬局は全国チェーンを中心にIT投資の規模化が進みやすかったことが大きいでしょう。
また、患者にとっては処方箋のやりとりが電子化されれば、オンライン服薬指導に加えて、紛失リスクや郵送の手間が減るという分かりやすい利点があり、一度電子処方箋を出した薬局を継続して利用することが想定されます。そのため、薬局側も処方箋獲得の手段として導入に積極的な企業があるのです。
一方、医療機関の場合は、院内全体の電子カルテ更新やセキュリティ強化、さらには医師や看護師・事務スタッフへの操作教育といった課題が重なり、導入を先送りにする施設が少なくありません。特に個人開業のクリニックなどでは、紙の処方箋運用でも大きな不便は感じておらず、電子化によるメリットを即座に実感しづらいという声も聞かれます。
さらに、紙処方箋からの移行期においては、医療機関と薬局それぞれが「電子処方箋」「紙処方箋」の両方を扱わなければならず、二重管理のオペレーションが発生します。これが現場の煩雑さを増す要因にもなります。医療機関にしてみれば、患者が必ずマイナンバーカードを持参するとは限らないため、紙運用を完全にはやめられない現状です。
その反面、薬局からすれば電子処方箋のみの対応に絞り込むわけにはいかないものの、徐々に電子処方箋利用が広がるほどメリットが享受できると考え、先行投資を行うケースも多いのです。
このように、薬局側は利用者(患者)を獲得する競争上の視点や、チェーン企業によるIT投資の強みを背景に、電子処方箋の導入を積極的に進めてきたのに対し、医療機関の導入スピードは、システム更新負担や組織体制の面から遅れがちです。
政府は診療報酬上のインセンティブや財政支援策を強化していますが、まだ少なくとも数年間は、紙の処方箋が中心である状態が続くと考えます。
電子処方箋のメリットとシステム・運用の未成熟
電子処方箋のメリットは明確です。紙の処方箋を患者が持ち運ぶ必要がなくなり、データを介して処方内容を確認できるため、重複投薬や紛失リスクを減らせるうえ、オンライン服薬指導との相性も抜群です。
Amazonファーマシーの場合、従来は郵送に何日もかかった紙の処方箋を送るプロセスを省けるので、患者・薬局双方の負担軽減が期待できます。
現在の薬局では、紙の処方箋に書かれた情報を事務スタッフがキーボードで入力しているため、薬品名・規格・数量の入力ミスが頻繁に発生します。その上、入力が正しいかどうか確認する作業も発生しているのです。データを介して受け取ることができれば、そのような手間もミスも少なくなります。
しかし、筆者の引換番号が使用済み扱いになっていた体験のように、想定外の事象がまだ起こるのも事実です。原因はさまざまで、医療機関のシステムトラブルや事務処理ミス、オンライン資格確認のシステムトラブル、薬局のシステムトラブルなどが起こり得ます。
どこに原因があるかが分かりにくく、問い合わせも医療機関・薬局・システムベンダーなど複数にまたがるため、トラブルシュートに時間がかかる場合もあることが想定されます。
まだ制度とシステムが成熟しきっていないことを象徴していると感じます。
後編でも、Amazonファーマシー体験を通じて、電子処方箋の現状と課題を考察します。
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