SHEIN、Temuだけじゃない 中国発ファスト雑貨のビジネス戦略を深掘り 超高速サイクルどう実現?:がっかりしないDX 小売業の新時代(2/2 ページ)
デジタル技術を生かし、高速サイクルのビジネスモデルを確立する中国発雑貨店YOYOSO。同社のビジネス戦略から日本の小売業が学べるポイントとは?
超高速サイクル 毎月800点以上の商品入れ替えが可能なワケ
YOYOSOの急成長を支えている要因の一つが、高度に効率化されたサプライチェーン管理です。同社は全世界で800社以上の協力サプライヤーを持ち、その中には世界的ブランドと取引する一流メーカーも含まれています。
中国・義烏にある約7万平方メートルの大型物流センターには300人を超える従業員が働き、高度なデジタル技術を活用した在庫管理と迅速な配送体制を構築しています。このデジタル化されたサプライチェーンがあるからこそ、月に500点以上の新商品の企画・投入と、世界各地のフランチャイズ店舗への安定供給が可能になっているのです。
特筆すべきは、こうした物流やサプライチェーンの管理にAIやビッグデータを積極的に活用している点です。商品の需要予測や在庫最適化、さらには地域ごとの消費者嗜好分析までをデジタル技術で効率化しており、これがYOYOSOの毎月800点以上の商品入れ替えという高速サイクルを可能にしています。
実際に店舗に行くと、日本の小売業の多くでは取得するコストをかけていないデータをとっていることが分かります。下の写真で店舗入り口の天井に機器が取り付けられています。これは入店カウンターと推測します。
POSレジの通過数と実際に店舗に入店した客数は異なります。
まず、入店客数のデータがあると、店舗の売り上げが下がった時に入店する客が減っているのか、入店したが商品に魅力がなくてレジまで来なかったのかが分かります。これが分かると入店を増やす販促に投資するべきか、商品の問題を解決すべきかがデータに基づいた判断可能になります。
また、同様に各商品の入店客数あたりの買上率が計算できます。これが分かると商品開発をする際に、店舗ごと地域ごとに買上げ率が落ちている商品が把握できます。
こういったデータがあると、商品の入れ替えはもちろん、新商品の開発にも生かすことができます。
YOYOSOはインド市場参入にあたり、MINISOと同様に現地パートナーと提携する戦略を選択しました。具体的には、アラブ首長国連邦やインドで小売事業を展開するルル・グループ傘下の「Tablez」との協業です。
2018年8月に戦略協力契約を締結し、5年間でインド主要都市に30店舗を開設する計画を発表しました。2020年初頭までにバンガロールなどインド南部を中心にわずか2カ月で5店舗以上をオープンさせており、現地の若者を中心に好評を博しています。店舗形態は他の類似ブランドMINISOと同様にショッピングモール内への出店が中心で、商業施設や大学近郊など集客力の高い立地に展開しています。
以前解説したMINISOのフランチャイズモデルと同様、YOYOSOも「投資パートナーシップモデル」を採用しており、フランチャイジーの初期投資負担を軽減しつつ、本部がサプライチェーンや商品企画を一元管理する仕組みを構築しています。これにより、厳しい外資規制があるインド市場においても、現地パートナーの力を借りながら迅速な出店を可能にしています。
類似ブランド乱立 いかに差別化図る?
YOYOSOが短期間で世界40カ国以上に1000店舗を超える展開を実現できた背景には、デジタル技術の徹底活用があります。サプライチェーンの効率化だけでなく、フランチャイズ管理や店舗オペレーションについても、クラウドベースの管理システムを導入し、リアルタイムでの情報共有や意思決定を可能にしています。
また、ECサイトやモバイルアプリを通じたオムニチャネル戦略も積極的に展開しており、実店舗とデジタルチャネルを融合させたシームレスな顧客体験の提供を目指しています。
今後の課題としては、MINISOやその他類似ブランドとの差別化をいかに図るかという点があります。特にインド市場では、MINISO、MUMUSO、XIMIVOGUE、KIODAなど、東アジア風のライフスタイルショップが乱立しており、生活者からは「どれも似たような商品を扱っている」という印象を持たれがちです。
YOYOSOが持続的な成長を実現するためには、デジタル技術を活用した生活者インサイトの収集・分析と、それに基づく商品開発の迅速化がさらに重要になってくるでしょう。特にインドのような多様性に富んだ市場では、地域ごとの嗜好や文化的背景を踏まえたローカライゼーションが成功の鍵を握ります。
日本の小売業がグローバル展開を目指す際にも、YOYOSOのようなデジタル技術を活用した高速サイクルのビジネスモデルから学ぶべき点は多いのではないでしょうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ユニクロやDAISOにそっくり? ナゾの中国発雑貨「メイソウ」が、世界中で高速出店できるワケ
中国発の生活雑貨店MINISO(メイソウ)をご存じだろうか。日本のユニクロに似た看板と、無印良品とDAISOを組み合わせたような店舗や商品デザイン――。この日本ブランドにそっくりな“謎”の生活雑貨大手が、世界中に高速出店している。躍進の背景を探る。
電子処方箋、なぜ広がらない? 実体験から読み解く医療DXの課題
2023年1月から運用がスタートした電子処方箋。Amazonファーマシーのサービスを実際に筆者が利用してみた体験を通じて、電子処方箋運用の現状と課題について考える。
外資規制が厳しいインド 日本の小売業が成功する条件は? 中国発雑貨大手に学ぶべきポイント
インドのように規制が厳しい海外市場において、日本の小売業が成功を収めるために必要なポイントとは何か? 世界で躍進する中国発の生活雑貨大手のビジネスモデルを参考に考える。
キャッシュレス化は不正抑止にも効果 インドで見た「つり銭がない」店舗の合理性
キャッシュレス社会への移行は、業務効率化のみならず、実は店舗内部における不正行為を抑止する一助ともなる。今回は不正抑止の観点からキャッシュレス化の意義について考える。
キャッシュレス大国インドを支える「UPI」システムとは? 現地視察から見えた、日本で電子決済が進まない理由
筆者がインド視察で衝撃を受けたのは、空港の自販機で現地の携帯電話番号がないと買い物できなかったことだという。インドのキャッシュレス化の動きを追っていくと、日本でキャッシュレス化が進まない要因が浮かび上がってくる。
