PB強化、AI活用で独自色 トライアル傘下入りで西友はどう変わる?:後編(3/3 ページ)
市場に驚きをもって受け止められた、トライアルによる総合スーパー大手西友の買収。後編では、PBの開発やAI活用で独自性を確立していく両社の歩みを振り返りつつ、トライアル傘下入りで西友がどう変わっていくのかを占う。
曖昧な立ち位置だった「西友」、トライアル傘下でどうなる?
首都圏を中心に親しまれた「西友」は、トライアル傘下入りでどう変わるのか?
トライアルは西友買収に先駆け、2008年7月に道内地場大手「カウボーイ」と資本業務提携を締結し2010年1月に吸収合併。2023年6月に民事再生手続きを開始した青森地場大手「佐藤長」全24店舗中18店舗を同年10月に譲受した。さらに、2024年秋には群馬地場「スーパー丸幸」全2店舗を譲受するなど、同業買収を強化しているが、いずれも短期間で屋号を「トライアル」に改称している。
一方、西友の2024年12月期売上高は約4835億円(営業利益235億円/営業利益率4.9%)と業界屈指の経営基盤がある。大都市圏で支持が厚く、カウボーイや佐藤長と異なり債務超過や職業安定法違反による民事再生といった負のイメージがない屋号は当面存続する見通しだ。
西友は平屋建てからモール型、都市型高層店舗まで幅広い施設を展開している。同社の大型店を総合スーパー不振と絡め論じる意見も多いが、2004年のATi郡山(旧西友郡山西武店)以来結び付きの強い「JLLリテールマネジメント」(旧丹青モールマネジメント)など商業不動産各社に、2010年代以降大型店の管理運営やテナントリーシングを委託し、直営食品+専門店主体のフロア構成に順次転換してきたため、意外にも縁遠い話となっている。
2021年3月に就任した西友の大久保恒夫・代表取締役社長兼CEOは「2025年に食品スーパーで業界No.1を目指す中期経営計画」のもと、直営フロアのさらなる低層集約や取り扱い品目の食品特化に取り組んでいる最中であり、トライアルが強みとするAIカメラやデジタルサイネージ、福岡県内一部店舗で先行展開中の顔認証決済に加え、決済機能付きレジカート導入も決して難しくない。
また、西友には築年数を経た老朽店舗も多く、埼玉・所沢小手指や名古屋・御器所、兵庫・川西能勢口など全国各地で建替進行中の店舗では、トライアルのAI導入を前提とした売り場づくりが進められることとなりそうだ。
また、ウォルマートとの資本業務提携の縮小や、利益率重視を背景に低下した価格競争力も、トライアルグループと共同での仕入調達により改善するものとみられ、全国的知名度を誇る西友PB「みなさまのお墨付き」やトライアル惣菜PB「こはく本舗」といった高付加価値商品を複合展開することで、同業競合他社の一歩先を行く高品質低価格いずれも妥協しない新ブランドの確立も可能となるだろう。
まいばすけっとの対抗馬?「GO」業態拡大も
西友とトライアルの既存店では緩やかな相互補完が図られる一方、両社による首都圏での店舗展開の方向性は大きく変わることとなる。
トライアルは2017年2月の八王子店閉店をもって東京都内から撤退するなど、首都圏全域に広げても店舗数は60店舗にとどまっているが、東芝テックを始めとする小売流通機器大手や食品製造・食品卸各社との協業実験店「NEXMART01 GO」やトライウェルを前身とするフード&ドラッグ「TRIDRUG GO」といった小商圏新業態「GO」の出店を急速に進めている。
トライアルによる「GO」業態は、イオン系都市型食品スーパー「まいばすけっと」が2022年1月に1000店舗を突破、高級食品スーパー「成城石井」「紀ノ国屋」が駅ビルやデパ地下に店を構え、生活に深く浸透している都心においても、リテールDXによる効率的な店舗展開と価格優位性により拡大の余地は十分ある業態といえる。
一方、従来は生鮮惣菜の配送拠点となる母店やセントラルキッチンが首都圏近郊に乏しかったことで、都心での店舗展開が困難な状況にあった。
トライアルは完全子会社となった西友の大型店を母店とすることで、都心攻略の壁を克服することが可能となる。同社がコンセプトとして掲げる「生活必需店」を体現した「TRIAL GO」「SEIYU GO」といった店舗が銀座や麻布、六本木といった都心の一等地に店を構える日も決して遠くないのかもしれない。
Amazonギフトカードが当たる! 読者アンケート実施中
ITmedia ビジネスオンラインでは、年に1度の読者調査を実施中です。ご回答いただいた中から10名の方に「Amazonギフトカード」3000円分をプレゼントします。ぜひご応募ください! 回答はコチラから。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
西友買収、なぜトライアルだったのか? 有力候補イオン・ドンキではなかったワケ
西友と縁の深い流通大手「イオン」「ドン・キホーテ」が争奪戦の有力候補として挙がっていた中、なぜトライアルが西友を買収することになったのだろうか? 前・後編にわたって詳報する。
大量閉店から奇跡の復活 クリスピークリームが「ドーナツ戦争」から勝ち抜けたワケ
2015年に大量閉店に踏み切ったクリスピークリームは、なぜ復活を果たしたのか――。そこには、時代に先駆けて顧客のニーズの変化をとらえた同社の姿があった。
イオンが手掛けた“謎の百貨店”「ボンベルタ」 密かに姿を消した理由とは?
2024年2月、千葉県成田市のある百貨店が姿を消した。流通大手イオングループが手掛けるものの、知名度は皆無。知る人ぞ知る存在だった同店が、イオンの今後の戦略に示した新たな道筋とは。
謎の百貨店「ボンベルタ」が、イオンリテールの新業態「そよら」に遺したものとは?
2024年2月に姿を消した、イオングループが手掛けた百貨店ボンベルタ。ボンベルタに代わって各地に開業を進める新業態「そよら」の行方は――。
ダイエーVS.西友の「赤羽戦争」はなぜ起きた? 駅東口2大スーパー、半世紀の歴史に幕
東京・赤羽駅東口を代表する老舗スーパーとして約半世紀にわたり親しまれた「西友赤羽店」と「ダイエー赤羽店」が今年、相次ぎ閉店。かつて両店は「赤羽戦争」と呼ばれる歴史的商戦を繰り広げていたことをご存知だろうか――。

