イベント=花、でも花屋はイベントを作れない――プレゼント需要依存から、長野の生花店はどう脱却したのか
季節のイベントやお祝い事に欠かせない花束。長野に花屋を3店舗展開するヌボー生花店(長野市)の山﨑年起社長によると、花屋の売り上げはプレゼント需要に大きく偏っており、これこそが課題だという。
この記事は、LINEヤフーが開催したイベント「Hello Friends! W!th LINEヤフー」をレポートした記事の後編です。
季節のイベントやお祝い事に欠かせない花束。今月の母の日にも、プレゼントに花を買い求める人で、花屋は大いににぎわっていた。長野に花屋を3店舗展開するヌボー生花店(長野市)の山﨑年起社長によると、花屋の売り上げはプレゼント需要に大きく偏っており、これこそが課題だという。
「花を買う用途は、自宅用かプレゼント用の2つ。しかし、花屋は母の日のようなイベントを作り出せず、世間の流行やトレンドに依存することになる。大切なのは、自宅用の需要をいかに増やすのかだ」(山﨑社長)
では新規顧客を増やす施策を行えばいいのでは? と思うかもしれないが、山﨑社長によると、花屋は飲食店のような新規顧客向けの販促の効果があまりないのだという。新規顧客の獲得に注力するよりも、「1回来てくれた=花に少しでも関心がある顧客をどうリピートさせるかが重要だ」と山﨑社長は語る。
大手ならばさまざまなやり方を試せるかもしれないが、地方の小さな花屋は予算も人員も限られている。そこで山﨑社長が導入したのが、LINEミニアプリだ。
会員情報を可視化→新人スタッフが安心、なぜ?
LINEミニアプリは、ユーザーがアプリを追加でダウンロードしなくても、さまざまなサービスをLINE上で利用できるプラットフォームだ。LINEアカウントがあれば利用でき、会員証やモバイルオーダー、行政手続きなどにも活用されている。ネイティブアプリ(スマホ向けの独自アプリ)のような開発も不要で、実装までの工程は約50%削減できる。
ヌボー生花店では、LINEミニアプリを会員証として活用している。タブレットPOS「スマレジ」と連携し、来店回数や購入金額など顧客データをLINEミニアプリでも可視化した。「例えば、来店回数に応じて会員証のデザインが変化する。これにより、新人スタッフでも顧客の属性をすぐ理解でき、安心して接客できる。花屋のリピートには接客の質も重要な要素なので、その顧客がどういう人なのかを可視化することは欠かせない」(山﨑社長)
また、購入した花の用途をスタッフがスマレジに登録している。自宅用とプレゼント用では求める情報やクーポンのタイプが違うからだそうだ。「送信のタイミングも異なるので、そういう細かい部分をコントロールするためにも、用途は欠かせない情報だ」(山﨑社長)
例えば、自宅用によく花を買う顧客には「季節の花」や「生産者」にまつわる情報が好まれるそうだ。山﨑社長は「花は情緒的な側面が強く、花を買うことは推し活に近い」と分析。広告的な配信は好かれない傾向にあるという。一方、プレゼント用によく花を買う顧客には「セール情報」や「各種記念日のリマインド」を行っている。
LINEミニアプリを導入して2年、1年以内に利用するアクティブユーザーはそれまで約2000人だったのが3000人に増加と、およそ1.5倍となった。会員数が増加したことで、売り上げも右肩上がりとなり、現場スタッフのやる気向上にもつながっているという。今後は、情報やクーポンに加え、動画の活用にも注力する方針だ。
「なぜ顧客が増えないのか」「なぜ常連になってくれないのか」と悩む企業は多い。その中で、自社の商材である花がどういうものか、誰がどういう理由で買っているのかを冷静に分析し、それに合ったツールを導入した結果、ヌボー生花店は成功したといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
飲食店、永遠の課題「常連客」 熊本・桂花拉麺はどう増やした?
消費者はどうすれば通ってくれるのか、頭を悩ませている事業者も多いだろう。新規顧客を誘導し、常連化することに成功している桂花拉麺(熊本県菊陽町)の事例を紹介しよう。
人は増やさず年商12倍へ 「伊勢の食堂」の逆転劇に学ぶ、地方企業の“依存しない”戦い方
伊勢神宮の参道に立つ、創業100年を超える老舗食堂「ゑびや」は、10年ほど前には経営が傾き事業縮小の危機に瀕(ひん)していたという。経営を立て直した立役者が、元ソフトバンク社員の小田島春樹氏だ。小田島氏はそんな厳しい状態をDX推進で立て直すことに成功し、2012年からの12年間で年商を12倍に成長させた。
「シラコンバレー」の異名も 和歌山にIT企業が続々進出、なぜ?
和歌山県に近年、IT企業が相次ぎ進出している。直近の約5年で20社が拠点を設置。企業誘致を本格的に始めた2001年当初は、誘致に成功しても長続きしないケースもあったという。県は過去の反省を生かし、どのように改善を進めていったのか。
東海地方の雄・バロー、スーパー激戦区の関東に進出へ 「十分に勝算あり」と言えるワケ
東海地方を本拠地とするスーパーのバローが着実に存在感を増している。その成功の背景にはどんな戦略があるのか……。



