AIが助長する「企業なりすまし」の脅威 B2B決済の最前線で何が起きているか:Payments Dive
企業間決済ソリューションを提供するTreviPay(トレビペイ)のCEO、ブランドン・スピア氏は、AIが「ビジネス詐欺を拡大させる変革的な技術」になると警戒を強めている。
企業間決済と請求ソリューションを手がけるTreviPay(トレビペイ)のCEOであるブランドン・スピア氏は、AIについて「詐欺を拡大させる上で極めて変革的な技術だ」と危機感を示している。
悪意ある第三者が企業になりすまし、グローバル企業の請求・売掛管理に混乱をもたらす事例が急増している中、商取引のデジタル化がもたらすリスクにどう向き合うかが問われている。
TreviPayは、米カンザス州オーバーランドパークに本社を構える企業間(B2B)決済プラットフォームだ。主に年間売上高1億ドル以上の企業を対象に、新規顧客のオンボーディング(導入支援)から請求書の作成・提出までを一貫して支援するソフトウェアを提供している。また、取引先の詐欺被害防止にも積極的に取り組んでいるという。
AIが助長する「企業のなりすまし」 一番の問題は……?
Payments Dive: TreviPayのビジネスについて詳しく教えてください。
スピア氏: 当社の中核は、売り手が買い手企業に対して取引信用(トレードクレジット)、つまり支払い猶予を提供できるよう支援することです。これは非常に複雑な業務で、まず第一に、取引信用を提供する際には、多くの業務プロセスが必要になりますが、それらは一般的なERP(基幹業務システム)や会計ソフトでは十分に対応できません。従って、今でも多くの企業が手作業で処理しているのが現状です。
さらに、グローバルな商取引の拡大やAI技術の進展に伴い、詐欺の試みが大幅に増加しています。オンラインで新規顧客を獲得しようとすると、その相手が本当に実在する企業かどうかを確認するリスクが非常に高くなっています。
典型的な取引信用の条件とは?
Payments Dive: 企業が提供する典型的なトレードクレジット(取引信用)には、どのようなものがありますか?
スピア氏: トレードクレジットは、企業にとって最も基本的なロイヤルティツールの一つです。例えば、顧客が私から製品を購入したときに、「30日以内に支払ってください」とか「60日後でもいいです」といった条件を提示することができます。これは要するに、信用を元にした後払い制度です。
興味深いのは、これが非常に強力な販売促進ツールであるという点です。もちろん、良い製品・サービスを提供するのは大前提ですが、最終的に競合との差別化を図る手段として、取引信用を提示することで、顧客がより多くの金額を支出してくれる可能性が高まります。いわば、企業間取引における「元祖ロイヤルティプログラム」なのです。
無数の貸し手が存在する中での差別化要因は?
Payments Dive: 信用提供を行うプレーヤーは無数に存在しますが、TreviPayのバリュープロポジション(価値提供)の本質は何ですか?
スピア氏: この一連の業務は「オーダー・トゥ・キャッシュ」(order-to-cash)プロセスと呼ばれます。銀行などの金融機関が関与するのは、このプロセスの非常に限られた部分だけです。例えば、「早期入金をしたい」といったニーズに対して、請求書を担保に資金を前倒しで提供することはできます。しかし、顧客の審査、正確な請求書の作成と送付、未払いやクレームへの対応、そして最終的な入金処理などは、企業自身が担う必要があります。
当社の大きな価値は、こうした煩雑な業務を簡素化し、顧客が本来注力すべき事業活動に集中できるようにする点にあります。また、取引先のニーズに合った方法で請求書を発行するなど、システム統合を進めることで、「この企業は取引しやすい」と感じてもらい、結果として取引額(ウォレットシェア)を拡大する効果もあります。
ビジネス上の懸念とは? 眠れなくなる要因は?
Payments Dive: ビジネス上で最も頭を悩ませている問題、懸念事項は何ですか?
スピア氏: 最も恐れているのは、企業のなりすまし――つまり「ビジネスIDの盗用」が非常に多いという現実です。しかし、これについてはメディアであまり報じられていません。これまで詐欺犯を阻んできたのは「いかにその手口をスケールさせるか」でした。ところがAIの登場によって、それが一変しようとしています。
AIは詐欺の数と巧妙さを飛躍的に高める可能性があります。まさに、詐欺を巡る「AI軍拡競争」が始まっているのです。もし、これに適切に対処できなければ、Eコマース経由での新規顧客獲得がほぼ不可能になるリスクがあります。
実際に会って取引する場合、詐欺師にとってスケールするのは困難です。しかし、AIボットであれば、メールに返信したり、フォームに入力したり、実在企業のように振る舞うことが可能になります。このリスクを放置すれば、Eコマースの新規顧客獲得チャネルが機能不全に陥る可能性すらあるのです。
AIで詐欺対策も可能では? “対称的”な競争にはなるのか
Payments Dive: AIで詐欺が進化する一方で、防御側もAIを活用すれば、ある意味、“対称的”な軍拡競争になるのでは?
スピア氏: そうなってほしいとは思っています。例を挙げると、詐欺師は今、1〜2階層の偽Webサイトを作成して、あたかも実在企業のように見せかけます。しかし、AIボットを使えば、10層、15層にもわたってリアルな構造を持ったサイトを短時間で作成できるようになります。
もちろん、防御側もAIを活用することで対抗できるはずですが、問題は「非対称性」にあります。例えば、当社の顧客は年間売り上げ5億ドル規模の中堅企業が中心ですが、そうした企業がAIによる詐欺やその進化にどれだけ意識を向けているでしょうか? 現時点では、それほど多くの関心を払っているとは言えません。これが今後、深刻なギャップとして表れると見ています。
米中貿易摩擦の影響で季節性にも異変
Payments Dive: トランプ政権時代の貿易戦争による混乱は、ビジネスにどのような影響を与えましたか?
スピア氏: 最も目立ったのは「通常とは異なる行動パターン」が表れたことです。例えば、価格上昇を見越して部品を前倒しで調達する動きが強まりました。その結果、通常であれば8月に集中する取引が、5月に前倒しされるといった季節的な歪(ゆが)みが生じています。
とりわけトラック業界では、感謝祭やクリスマスの繁忙期に向けて、夏場に車両のメンテナンスを終えるという傾向があります。そのため、例年なら夏の終わりに集中するはずの活動が、今年はより早い時期に前倒しされた印象です。
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