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「心霊現象なし」――証明する新ビジネスも 「事故物件」に海外から熱視線のワケ

事故物件への関心は高まっている。心霊現象を調査する児玉氏の事例は珍しいが、他の不動産事業者もこの新たな市場への参入を模索する。

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 千葉県の閑静な住宅街にある一軒家。そこには陰鬱な過去があった。

 7年前、住人の高齢女性が浴室で首をつった。2024年、その息子が孤独死し、遺体は約10日間発見されなかった。

 この家を定期的に調査しているのは、不動産コンサルタントで「オバケ調査」も行う児玉和俊氏だ。児玉氏は午後10時から午前6時まで、これまでほぼ20回にわたりこの家に滞在。4台のビデオカメラ、赤外線カメラ、電磁波測定器、気圧計、温度計、ICレコーダーなどを使い、毎時、各機器の数値を記録する。

 児玉氏は、説明のつかない電磁波の乱れなどの不可解な現象がないことを確認すると、物件には「心霊現象なし」とする証明書を発行する。

 日本では、殺人や自殺が起きた住宅を心理的瑕疵(かし)を有する「事故物件」と分類する。事故物件の最も多い事例は、遺体が長時間発見されず、特殊清掃や床・壁紙の交換が必要になるような孤立死だ。

 事故物件に対する日本の考え方には、古代の神道の思想の影響が根強く残る。後悔の念を抱いて亡くなった人の魂は、しばしば、その死の場所に留まり、悲しみや恨みを持ってこの世をさまようとされる。

 「以前は入居者を見つけるのはほぼ不可能だった」と児玉氏。事故物件の買い手や借り手向けに、心霊現象の調査サービスを提供するため、3年前にカチモード(東京都新宿区)を設立した。

 「不動産価格の高騰で、事故物件を選択肢として検討する人が出始めた」(児玉氏)


千葉県の閑静な住宅街にある一軒家。そこには陰鬱な過去があった。写真は不動産コンサルタントの児玉和俊氏が「オバケ調査」を行う際に使用する機器類。5月28日、千葉県で撮影(出典:ロイター、以下同)

 日本の不動産価格は急騰している。建設資材費と人件費は高止まりし、円安と国内不動産の相対的な割安感によって、海外投資家からの資金流入が加速した。

 不動産調査会社の東京カンテイによると、東京都23区の中古マンション(70平方メートル)の平均価格は5月、前年比3割超上昇し、1億88万円となった。

「事故物件」海外投資家から熱視線のワケ

 日本は急速に高齢化し、孤立死が増えている。警察庁が2025年初めて公表した調査によると、遺体が死亡から8日間以上発見されなかった事例は2024年は約2万1900件に上った。

 家主や管理会社は所有する物件が事故物件として敬遠されることを懸念するため、孤立死のリスクの高い高齢者は住宅を借りにくくなっている。

 事故物件の範囲を示すことでトラブルを防ぐため、政府は2021年、死の告知に関するガイドラインを策定した。これによると、老衰などの自然死は原則告知対象外とし、賃借物件においては自殺、他殺や発見の遅れた孤独死が発生してからでもおおむね3年が経過すれば、告知義務を負わないとする。一方、所有者や仲介業者は、購入希望者や具体的に問い合わせた賃借物件への入居希望者には物件の履歴について告知する義務がある。

 ガイドラインがきっかけとなり、事故物件への関心は高まった。心霊現象を調査する児玉氏の事例は珍しいが、他の不動産事業者もこの新たな市場への参入を模索する。


事故物件で「無縁仏」の供養を行う僧侶。5月8日、川崎市で撮影。

 若年層を中心に事故物件への抵抗感が薄れる一方で、国内外の投資家、特に中国の投資家は、その高い収益性に着目しているという。

 不動産仲介会社ハッピープランニング(東京都葛飾区)の創業者、大熊昭氏は「投資家は実際に自分が住むわけではないので、物件の歴史を気にしない」と指摘する。なかには、告知義務がなくなる3年後に家賃を値上げする投資家もいるという。

 仲介業者によると、殺人事件の現場となった物件は市場価格より80%も安く売却される場合があり、売れないことさえある。一方で、孤立死などの事故物件の場合は、値引き幅は20%程度にとどまることが多い。

 不動産コンサルティング会社のCBREの投資家調査によると、都心のワンルームマンションの平均期待利回りは3.55%だ。これに対して、事故物件の仲介や仏教式の供養の手配などを行うマークスライフ(東京都中央区)によると、同社が取り扱う物件の平均投資利回りはリフォーム後で8.4%にもなる。

 別の不動産仲介業者は、日本の事故物件は今後さらに増加するとみる。

 現在、65歳以上の単身世帯は日本の全世帯数の14%を占める。国立社会保障・人口問題研究所によれば、20年後には約20%に増加する見通しだ。

 児玉氏は千葉の物件について、現時点では幽霊が出ないというお墨付きを与えていない。今はこの物件を借り上げており、今後賃貸に出すことを計画中だ。これまで70件以上の物件を調査し、電磁波の異常など不可解な現象が見つかったのはごく一部にとどまるという。

 一部の購入希望者にとっては、児玉氏の証明書は十分な安心材料となる。しかし、事故物件そのものを受け入れられない人も少なくない。最近まで賃貸マンションを探していたという会社員の嶋村茉莉さんは「割安だとしても避けたい。幽霊は出ないとしても、通常ありえないような過去があること自体、単純に気味が悪い」と語った。

Copyright © Thomson Reuters

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