「プレスリリースが記事化されない……」をAIが解決 “広報の悩み”に応える新ツールとは?
「プレスリリースを出しても、思うようにメディアに取り上げられない」。こうした悩みを抱える広報担当者に向けて、AIを活用した新たなソリューションが誕生した。
「プレスリリースを出しても、思うようにメディアに取り上げられない」「忙しすぎて考える時間がとれない」
こうした悩みを抱える広報担当者に向けて、AIを活用した新たなソリューションが誕生した。6月、業界特化型のAIを開発するメタリアル社(東京都千代田区)が発表したのは、広報業務に特化したAIツール「広報AI」。同社が過去に手掛けた「四季報AI」や「ラクヤク学薬AI」といった実績をもとに、今度はプレスリリースの生成と評価を担うAIの提供に踏み切った。
狙いは、広報の現場が抱える「時間」と「効果」の2大課題をAIの力で解消することだ。
「掲載されない」「時間が足りない」 広報担当者の課題を解決
企業の情報発信の重要性が高まる一方で、広報業務は年々複雑化している。メディアの多様化やSNS対応に加え、コンテンツの質も求められる時代だ。中でも最も時間が割かれているのがプレスリリースの作成業務だという。
メタリアル社が3月に実施した調査によると、プレスリリースが希望メディアに掲載される確率は「1割以下」と回答した広報担当者が全体の63%を占めたという。つまり「頑張って書いても載らない」という実感が多くの現場にあるということだ。
この課題に対して広報AIが提供するのは、「生成」と「採点」という2つの機能である。ユーザーが簡単なメモやキーワードを入力するだけで、ニュース性を意識したタイトルと本文を生成するという。そして、作成されたプレスリリースは、2000件のプレスリリースを分析して導き出した6つの基準(話題性、消費者視点、データと実績の裏付け、導入部分の魅力、市場インパクト、独自性)によってAIがスコア化。掲載されやすいリリースに向けて、改善ポイントも提示される仕組みだ。
掲載の可能性を「見える化」し、広報を進化させる
広報AIが評価するスコアの上限は60点。30点を超えるとメディアに掲載にされる確率が上がるという。現在の最高点は50点で、平均スコアは26〜30点。つまり、AIの眼鏡にかなう「パーフェクトなリリース」はまだ稀(まれ)だ。それでも採点基準を知り、改善のヒントを得ることは、広報担当者にとって学びの機会となりそうだ。
さらにこのスコアは、上司との意見の食い違いや判断の属人化を防ぐ材料にもなり、「AIがこう評価したからこう修正する」と説明することで、合意形成の材料にも使えるという。
AIエージェント同士が“議論”する生成プロセス
広報AIのユニークな点は、文章生成プロセスに「AIエージェント同士の会話」を組み込んでいることだ。
自動で利用者を想定したペルソナ(大手企業の広報部長、中小企業の広報担当者、フリーランスライターなど)に設定されたAI同士が、リリースの内容について感想や意見などの“雑談”を交わす。その中で「どこが魅力的か」「読者はどこに反応するか」といった視点を抽出し、文章に反映させる。このプロセスにより、従来の定型的なAI文書とは異なる「読み手の心に響く」リリースが生成できるという。
ファクトチェック箇所の洗い出しや代替タイトル案、市場規模の参考値の確認ポイントが明示される機能もあり、精度と実用性を両立している。
「一人広報」の強い味方に
サービスの記者発表会には、旅行アプリ「NEWT」(ニュート)などを手掛けるスタートアップの令和トラベルで広報戦略を担う元テレビ朝日アナウンサーの大木優紀氏と、KDDIグループのmedibaで、1人で広報業務を担う初鹿野さとみ氏が登壇し、ツールの実用性を語った。
「AIに採点されるとドキッとしますが、ロジカルに弱点を指摘してくれるのは貴重です。感情に左右されず、常に同じ基準で見てくれます」(大木氏)
「壁打ち相手がいない中で、アイデアの切り口や表現を提案してくれるのは本当にありがたいです。生成された案から、社内とのすり合わせもスムーズに進みます」(初鹿野氏)
現場の声に応えるように、広報AIには「PDFアップロードからリリースを自動生成」「採点だけを利用する軽量プラン」といった実務重視の機能が搭載されている。
広報AIを使うことにより、平均3時間かかっていたプレスリリース作成が、わずか15〜20分に短縮できるという。作業時間を大幅に削減し、広報担当者が戦略立案やメディア対応など本来注力すべき業務に集中できる環境を整えられる。今後は、リリースのジャンルごとにメディア適性をアドバイスする機能や、さらなる精度向上に向けたバージョンアップも予定しているという。
広報は“生成AIの時代”へ進むのか
日本広報学会「生成AIを活用した広報研究会」が実施した「広報における生成AIの活用実態調査」によれば、国内広報部門での生成AI導入率は37.2%だった。特に資本金1億円以上の企業では44.8%と高い一方、1億円未満の企業では31.6%にとどまっていて、導入率の格差が浮き彫りになっている。
世界のAI市場規模(売上高)を見ると、2022年には前年比78.4%増の18兆7148億円まで成長すると見込まれていて、その後も2030年まで加速度的成長が予測されている。日本のAIシステム市場規模(支出額)は、2023年に6858億7300万円(前年比34.5%増)となっていて、2028年には2兆5433億6200万円まで拡大するという(総務省・令和6年情報通信白書・第II部 情報通信分野の現状と課題・第9節AIの動向)。
この数字を見る限り、広報業務に関しても生成AIサービスの成長が期待される。生成AIを使った広報活動が活気づいていきそうだ。
この記事を読んだ方に AI活用、先進企業の実践知を学ぶ
ディップは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。
- 講演「従業員の生成AI利用率90%超のリアル! いちばんやさしい生成AIのはじめかた」
- イベント「ITmedia デジタル戦略EXPO 2025夏」
- 2025年7月9日(水)〜8月6日(水)
- こちらから無料登録してご視聴ください
- 主催:ITmedia ビジネスオンライン
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「SaaSが終わる? 興味ない」 ラクス社長が語るAIの「真の脅威」
国内SaaS業界トップランナーのラクス。「SaaSが死ぬかどうかってそんなに興味ない」と明かす中村崇則社長が、本当に恐れているものとは何なのか。業界トップが明かすAI時代の生存戦略を聞いた。
AI競争は「Googleの圧勝」で終わるのか? Gemini 2.5 Proの衝撃
米国のテック系人気ユーチューバーの何人かが、こぞって「AI開発競争はGoogleが勝利した」という見出しの動画をアップしている。これでGoogleの勝利が決定したのかどうか分からないが、少なくともOpenAIの首位独走の時代は終わったのかもしれない。
時価総額10兆円も視野 NEC社長に聞く「AIとセキュリティ」で目指す「次の5年」
NECは、自社の強みをいかにして社会課題に生かしていくのか。組織再編によって、何をどう変えていくのか。森田隆之社長に聞いた。
なぜ日立はDXブランドの“老舗”になれたのか? Lumada担当者が真相を明かす
連載「変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜」では、各社のDXのキーマンに展望を聞いていく。初回は日立製作所。なぜ日立は2016年の段階で、ブランドを立ち上げられたのか。Lumadaの推進に関わる、デジタル事業開発統括本部の重田幸生さんと、Lumada戦略担当部長の江口智也さんに聞いた。
なぜ富士通「Uvance」は生まれたのか サステナビリティに注力する強みに迫る
DXブランドが乱立する中、DXだけでなくSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)も打ち出し、着実に成長してきたのが、富士通が2021年に立ち上げた「Fujitsu Uvance」だ。なぜSXを掲げ続けているのか。ユーバンスの事業戦略責任者に聞いた。
NEC「ブルーステラ」誕生の舞台裏 コンサル人材を自社で育成する強みとは?
NECが5月、新たなDXブランドとして価値創造モデル「BluStellar」(ブルーステラ)を立ち上げた。なぜ新たにブランドを設立したのか。その強みは? NECマーケティング&アライアンス推進部門長の帯刀繭子さんに聞いた。
孫正義「A2Aの世界が始まる」 数年後のAIは“人が寝ている間に”何をする?
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、個人専用のAIが予定の管理や買い物などを代行する「パーソナルエージェント(PA)時代」が数年以内に到来するとの見方を明らかにした。





