学習塾の売上は伸びているのに、なぜ倒産が増えているのか:教育ビジネス(2/2 ページ)
学校教育の限界を補う形で成長してきた学習塾産業は、少子化や多様な教育ニーズ、インフレの影響を受けて転換期にある。競争激化の中で、生き残りをかけた再編と新サービスの模索が進んでいる。
ところで、学習塾は少子化によって売上高が下がる苦しい産業なのではないかと思った方もいるかもしれません。しかし、実は学習塾代などの教育支出は増加傾向にあります。2023年に文部科学省が行った「子供の学習費調査」では、公立小学生の年間の塾代は平均9万円を超え、2018年度の約1.8倍となっています。これが少子化の減収分を補い、さらに売り上げを伸ばしています。
しかし、そんな学習塾業界も曲がり角を迎えてきていることを示す統計が出始めています。帝国データバンクの「学習塾の倒産動向(2024年1〜10月)」では、学習塾の倒産が過去最多水準のペースで進んでいます。塾の形態が多様化していることに加え、新型コロナウイルスの流行による社会トレンドの変化に付いていけなくなった塾などが市場から退場していると考えられます。
増加し高止まりする学習塾代を含めた教育費、そして最近のインフレによってあらゆる費用が増加傾向にあるなかで、子育て世帯の世帯収入は追いついていません。教育費の伸びは行政などの支援がない状況では間もなく上限を迎えるかもしれません。今後さらに進む少子化によって、学習塾業界では厳しい淘汰が進み、倒産やM&Aなどの業界再編が加速すると推測されます。
さらに、教育ニーズが多様化しており、これまでのような進学塾・補習塾・総合塾の形態ではない新たな学習塾や放課後アフタースクールなどの教育サービスが台頭してきています。オンラインでのサービスも多様化し発展していることも見逃せないポイントです。かつてのように塾同士の競争というよりも、新たに産業化している業態も競合として参入してきます。
ますます子どもの成長に寄与できるかが問われるようになり、さらに言えば子どもの可処分時間をめぐる企業間の競争が学習塾業界には訪れるのではないでしょうか。これからの時代に新たに生まれる教育ニーズへどのように対応するのか、塾業界も大きな変革が必要なのかもしれません。
著者プロフィール:宮田純也(みやた・なおや)
一般社団法人未来の先生フォーラム代表理事
横浜市立大学特任准教授/学校法人宇都宮海星学園理事
早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。大手広告会社などを経て独立後、日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」の創設、約2億7000万円の奨学金の創設、通信制高校の設立に関わるなど、プロデューサーとして教育に関する企画や新規事業を実施。2023年には「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」を朝日新聞グループに参画させ、子会社社長を務めた。現在はこれまでの実績をもとにさまざまな立場や役割で教育改革を推進している。
編著に『SCHOOL SHIFT』『SCHOOL SHIFT2』(明治図書出版)、監修に『16歳からのライフ・シフト』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著:東洋経済新報社)。
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