デジタル人材を入れたのに、なぜ失敗? 自治体DXに潜む「構造的ミスマッチ」とは(2/2 ページ)
今回は、自治体のCIO補佐官として複数自治体で活動する筆者の実感をもとに、「なぜ高度専門人材を登用しても変革が起きないのか」を問い直す。
外部人材への依存は「職員の成長機会」を奪う
しかし、それを筆者がやってしまうと、職員は成長の機会を奪われてしまいます。また、外部人材への依存体質が進むと、外部人材との関係が切れた時点で手の打ちようがなくなってしまうので、質問や助言という形を取りながら、職員に自発的な行動を促す、という活動を辛抱強く続けるようにしています。ただ、この場合、形に見える結果が伴わないので、本当にこれでいいのだろうか、と悩むこともあります。
ちなみに専業型の場合はどうなんでしょうね。職員の代わりに活動することを期待されているとは思うのですが、一方で専門人材を統制することができないのではないかと不安になる自治体も多いでしょう。
例えば、上述したポリシー見直しに対する業務をやり切ってほしいけど、やり切られては困る、という矛盾した心理が見え隠れする場面を筆者自身も見てきたことがあります。
これは、変革に伴う一時的な(いや、永遠に続くかもしれない)混乱に対する恐怖なのだと思います。良くも悪くも自治体の内部は職員の絶え間ない努力で安定させているわけで、「安定を壊されたら、職員はこれ以上努力することができない、そのための余力はもうない」と感じれば、身を守ろうとするのは当然だと言えます。余計なことを言わないでくれ、というオーラが伝わることもあります。
それならば外部のコンサルに委託して成果物だけを得て、その成果物を「いい感じ」に扱う方が組織にとっては安全かもしれません。高度専門人材が「廉価で委託契約せずに現場指示ができる都合のよいコンサル」だと思われていなければよいのですが。
高度専門人材こそ「環境整備」に関与すべき
兼業型でも専業型でも、外部人材の統制にリスクを感じるのであれば、関与のあり方は総務省の考えるスタイルとは異なってきます。
組織の中を一時的にかき回し、最終的には去ってしまうような高度専門人材に過度に依存するのではなく、デジタル変革は内部の職員が時間をかけて進めるべきでしょう。そして、高度専門人材は変革のための環境整備やメンタリング、知識の伝達に注力することこそが、本来の役割だと考えます。
「なんだよ、結局は職員に面倒なところを押し付けるのかよ」という声が聞こえてきそうです。高度専門人材の役割が、単にデジタルに関する知識の伝達だけならば、まさにご指摘のとおりです。
人材育成(研修)については、以前のコラムでこんなコメントをくださった方がいらっしゃいます。
デジタルができる「加点」よりも、研修のために業務を外れて上司や同僚に“迷惑”をかける「減点」がキャリアに大きく影響するからじゃないですか。
このコメントに対する筆者の返答が次のとおり。
研修って勤務時間内に給与をもらって行う「仕事」なんですよね。その意味では「訓練」に近いのかもしれません。現状が残念なのは承知しているところですが、研修で業務を外れることが"迷惑"と受けとめられるのであれば、その自治体の未来は暗いです。
この時に、自治体が抱える潜在的な課題を解決すべく、職員が自ら動けるような環境をデジタル技術で整備していくことが高度専門人材の役割なのではないかと感じたのでした。
また同時に、自治体職員のメンタリティやモチベーションについて、高度専門人材側が理解していく姿勢がなければ、この問題は解決しないのではないかとも思ったのです(その結果が、前々回のコラムでDeepResearchで回答させた自治体職員の現状です)。
次回の内容を少し先取りしますが、人手不足が顕在化した現在、公務員という職業は魅力的な仕事なのでしょうか? いや、もっとストレートに言うと、「割に合う」仕事なのでしょうか? 次回はそのあたりから考えてみたいと思います。
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