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大量閉店のヴィレヴァン かつての“サブカル王者”が失速した「3つの誤算」とは?前編(2/2 ページ)

かつて「唯一無二のサブカル系チェーン店」として知られ、全国各地に店舗網を拡大していた個性的な雑貨店・書店「ヴィレッジヴァンガード」の業績が振るわない。今年7月には2026年5月期以降に全店舗の約3割にあたる81店舗の閉店を検討していることを発表、店舗網は最盛期の半分以下となる約200店舗にまで縮小する見込みだ。

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「ヴィレヴァン離れ」はなぜ、いかにして起きたのか

 消費者の「ヴィレヴァン離れ」はいかにして起きたのか。

 まず1つめの理由として挙げられるのが「サブカルチャーを取り巻く状況の変化」と、それによる「競争の激化」だ。

 「遊べる本屋」を標榜するヴィレヴァンは、ベストセラー・ヒット作を多く品ぞろえする通常の書店・CD店と比較とすると「電子書籍」や「音楽配信」の影響を受けづらいという強みがあった。

 しかし、ヴィレヴァンにとってそうしたネット配信よりも大きな影響をもたらしたのが、実店舗における「競合店の出店攻勢」だろう。

 例えば、近年は全国展開するディスカウント店「ドン・キホーテ」(以下、ドンキ)もアニメ・漫画・キャラクターグッズなどの品ぞろえを強化中。かつてはヴィレヴァンやアニメイトなどの独壇場だった「アニメ・漫画・キャラクターコラボ商品の独占販売」についても、最近はドンキで実施されることが増えてきている。

 もちろんドンキの大型店でもヴィレヴァンの醍醐味(?)といえる「誰が買うか分からないようなヘンな雑貨」が販売されており、ディスカウントストアゆえに「同じ商品がヴィレヴァンよりドンキのほうが安かった」ということもある。ドンキもヴィレヴァンと同様に全都道府県に出店しており、大手スーパーだった「ユニー」(アピタ・ピアゴ)、「サンバード長崎屋」などのグループ化などもあって、地方での浸透度はヴィレヴァン以上だ。

 一方のアニメ・漫画・キャラクターグッズなどの専門店「アニメイト」も負けていない。かつてのアニメイトは大都市圏への出店が中心であり、さらに家賃が安そうな商店街の外れや古い商業ビルなどにあることが多かった。しかし、現在はアニメ・漫画人気の高まりもあってイオンなどのショッピングセンター内や駅ビル内に出店することも多く、なかには「ヴィレヴァンとアニメイトが隣接している」という商業施設もある。

 さらに、最近はロフトやハンズ、ダイソーやスリーコインズなどといった均一ショップ各社など大手雑貨店も出店攻勢をかけており、これらの店舗でも近年はキャラクターやアーティストなどとのコラボレーションが強化されている。

 このような「ヴィレヴァンっぽいモノ」を売る店の増加は、消費・嗜好の多様化やアニメ・漫画などといったコンテンツの幅広い世代への浸透など、さまざまな背景によって「サブカルチャーとメインカルチャーとの障壁が曖昧(あいまい)になっている」ことに起因するといえるもの。

 ヴィレヴァンは「ヴィレヴァンっぽい雰囲気」自体を楽しむ場でもあるが、単に「ヴィレヴァンっぽいモノ」が欲しい場合の選択肢は大きく広がっており、消費者にとってはむしろ嬉しい時代になったとも取れる。

断捨離の時代に「いらないモノ」は売れない

 こうした「ヴィレヴァンっぽいモノを売る店の増加」に加えて、消費者側の「ライフスタイルの変化」もヴィレヴァン離れに拍車をかける。

 ヴィレヴァンに売られている雑貨の多くは、悪くいえば「なければなくても構わないもの」。現代は「ミニマリスト」「断捨離」がもてはやされる時代。実質賃金が上がらない中、食品など生活必需品の値上がりが続く昨今にあっては、こうした「なければなくても構わないもの」に対する購買意欲が下がってしまうことは避けられない。

 もちろん、若い世代が多い都市部では家賃上昇によって「いらないモノが置けるような部屋」自体がぜいたくなものとなっていることも、購買意欲の低下に拍車をかけているだろう。

ヴィレヴァンらしさの喪失

 さて、ヴィレヴァンでそうした「なければなくても構わないもの」への購買意欲を誘ってくれるのが、店員のサブカル知識を存分に生かした熱量あふれる「個性的なPOP」や、不思議とヴィレヴァンらしさを感じさせてくれる「個性的な陳列」の存在だ。

 3つめの大きな理由といえそうなのが、このヴィレヴァンならではともいえる「いらないモノを買わせるチカラの低下」、ひいては「ヴィレヴァンらしさの喪失」だ。

 先述したとおり、今やヴィレヴァンはイオンモール全店の半分以上に出店する存在。もともと東海地方で育った企業ということもあり、当初から車でのアクセスを見越した店舗が少なくない。現在も大都市の旗艦店よりも地方店舗のほうがはるかに多く、その大半は大手ショッピングセンターのテナントである。


ヴィレヴァンの主戦場は郊外。駐車場を備えたロードサイド店もいくつかある(写真:若杉優貴)

 こうした地方・郊外にあるヴィレヴァンは、残念ながら大都市の旗艦店のようにあらゆる分野のサブカルや本・音楽に詳しい店員ばかりではないこともある。それゆえ、ヴィレヴァンの大きな魅力といえる「濃さ」も大都市の旗艦店よりは薄くなっている。

 実際に地方のヴィレヴァンをめぐってみると分かるのだが、POPをよく読んでみると内容が薄く、

  • 「『ベストセラー』『売れてます!!』など使いまわしできるものばかり」
  • 「ある分野だけは詳しいけれどあとは全然……」

――というところが少なくないし(詳しくないと思われる分野はダジャレやギャグでごまかしていたりする様子も嫌いではないのだが……)、店舗の陳列や内装もヴィレヴァンにしては(こだわりが感じられずに)整然としており、単に「ちょっと変わった雑貨店」という雰囲気のところさえもある。

 また、ヴィレヴァンはある程度の店舗裁量による仕入れが認められているものの、特に全ての分野に精通した店員がいるわけではない地方の店舗はPOSシステム(販売時点情報管理システム)に頼る例が多いとみられ、実際に店内が「どこでも見かけるお馴染みの人気キャラクター」の商品で埋め尽くされているところもある。

 「人気キャラクターだらけ」は客寄せには有益かもしれないが、そうした状況もヴィレヴァンらしい「濃さ」を薄める結果につながっているのではないだろうか。

 後編では、ヴィレヴァンの復活に必要な条件を探る。

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