AIで変わる「採用の役割」 押さえるべき「リスクと責任」とは?:AIでアップデートする人と組織
リスクを正しく理解したうえで見えてくるのが、AIと人が補完しあうことで広がる採用の未来像です。両面をあわせて考え、AI時代における人事の新しい役割を探っていきます。
採用は、生成AIがもっとも入り込みやすく、成果を実感しやすい領域のひとつです。しかしその一方で、「何を、どこまでAIに任せるか」の見極めを誤れば、目指していた納得感のある採用が遠のくだけでなく、企業の信頼や評判を損なうリスクも生まれかねません。
前編では、生成AIが採用にどのように役立つかを「即効系」と「戦略系」に分けて整理し、さらに仕組み化によって効率化を超えた採用の質や公平性の向上にもつながることを解説しました。生成AIは単なる効率化ツールではなく、採用が抱えてきた根深い課題を解決する可能性を秘めています。
とはいえ、メリットばかりに目を奪われるのは危険です。利便性に頼り切って「判断までもAIに丸投げする」ような使い方をすれば、思わぬ落とし穴に陥ります。そこで後編となる今回は、まず採用におけるAI活用のリスクを整理します。
そして、そのリスクを正しく理解したうえで見えてくるのが、AIと人が補完しあうことで広がる採用の未来像です。両面をあわせて考え、AI時代における人事の新しい役割を探っていきます。
AI活用の落とし穴:AIに判断を任せすぎるリスク
生成AIを採用に組み込むことで、効率化や質の向上といったメリットを得られることは確かです。しかし、その利便性に引きずられて判断までもAIに任せてしまうと、思わぬ落とし穴に陥ります。
代表的なのはバイアスの増幅・ブラックボックス化・候補者体験の悪化の3点です。
AIの力を生かすには、これらのリスクを理解し、人が責任を持って関与し続ける仕組みが不可欠です。
(1)バイアス増幅リスク
AIは与えられたデータを学習して判断を下します。つまり、過去の採用データ自体に偏りがあると、その偏りを学習し、むしろ拡大してしまう、という危険性があります。
例えば、過去に特定の属性を持つ人材ばかりを採用してきた企業の場合、AIはその属性が望ましいと誤って学習し、別の属性を持つ候補者を低く評価してしまうことがあります。これはAIが差別的だからではなく、人間の意思決定に含まれていた無意識のバイアスをそのまま鏡のように映し出してしまうからです。
さらに厄介なのは、人間がAIの出力を「客観的で正しい」と思い込みやすいことです。AIの推奨を何の疑いもなく受け入れてしまうと、結果的に過去のバイアスを正当化してしまい、候補者の多様性を損ねるリスクとなります。
(2)ブラックボックス化リスク
AIを採用に導入するときに特に注意が必要なのが、「なぜその判断に至ったのか」が説明できなくなることです。
例えば、AIが候補者を「通過」と「不通過」に振り分けたとしても、その基準が曖昧なままだと、面接官や候補者に納得感を持って説明することができません。これは単純に技術的な問題ではなく、採用そのものの信頼性を損なう大きな要因となります。
採用の現場では、「どういう基準で判断したのか」を組織内で共有し、候補者に対しても説明できる状態を保つことが不可欠です。基準が言語化されていないままAIに任せてしまえば、判断プロセスはブラックボックス化し、結果的に説明責任を果たせない採用となってしまいます。
AIを導入する際は、人が基準を定め、その基準に沿ってAIを補助的に使うことが前提になります。AIに任せる範囲を誤ると、効率化どころか採用プロセス全体の透明性を失うリスクがあります。
(3)候補者体験の悪化リスク
採用活動において、選考プロセスそのものが候補者にとって企業との最初の接点になります。ここでの体験が、そのまま志望度や企業の印象に直結します。
AIに過度に依存してしまうと、候補者に「機械的に評価されている」と感じさせてしまい、不信感を抱くリスクが生じます。日本の採用慣行では、不通過の理由を詳細に伝えることは少ないですが、それでも候補者は「どう判断されたか」に敏感になっています。そこにAIが介在することで不透明さがより際立ち、「人がちゃんと見てないのではないか」という疑念を生むことがあります。
また、AIによる一律的な対応は、採用側にとっては効率的で便利に見えるかもしれません。しかし候補者からすると、効率的に扱われること自体が「自分は大切にされていない」と感じさせる要因になり、志望度の低下や辞退につながりかねません。採用は単に「選ぶ」だけではなく、候補者を惹きつけるプロセスでもあるため、このリスクを見過ごすと候補者から「選ばれない」会社になってしまいます。
候補者体験を守るためには、AIをあくまで人間の対話や配慮を補助するツールとして位置づけることが大切です。例えば、AIが作成した面接フィードバックを人事が手直しし、候補者にパーソナルな言葉で伝えることで、効率化と体験向上を両立できます。
このように、生成AIは採用における強力な助っ人となり得ますが、判断を任せ過ぎればこれらの落とし穴に陥ります。AIはあくまで人の判断を支えるツールであり、最終的な判断や責任は人事が担う必要があります。
採用の未来:AIと人の共進化
効率化や質の向上の可能性がある一方で、バイアスやブラックボックス化といったリスクも見えてきました。では、その先にある採用の未来はどうなるのでしょうか。ポイントはこれまで繰り返している通り、AIを人に代わる存在として扱うのではなく、人と補完し合う関係を築くことです。
ここからは、今後数年で広がりそうな採用とAIのトレンドを紹介していきます。
(1)自立型AIエージェント
これまでのAIは「与えられた問いに答える」存在として活躍してきましたが、これからは採用業務全体を自律的に進めるエージェント型AIが期待されます。
採用における特定のゴール(例えば、特定のポジションを3カ月以内に充足する、など)が与えられれば、それに伴う求人の作成や候補者プールの探索、スクリーニング基準の適用、面接日程の自動調整までの一連の流れを管理して実行できるようになります。
ただし、採用担当者が不要になるわけではありません。むしろ役割は「プロセスを回す人」から「AIを管理し、基準を定め、最終判断を下す人」へと進化します。人事はAIを操縦する立ち位置として、戦略性や倫理性の両面で意思決定をすることが求められるようになるのです。
(2)候補者体験の最適化
これまでの採用では、幅広いターゲットに対し「同一の説明資料」「同一の質問項目」が当たり前でした。しかし、働き方が多様化している中で、AIが候補者の志向性やキャリアパターンを把握できれば、候補者ごとに異なる体験を提供できるようになります。
例えば、安定した環境を求める候補者には企業の歴史や福利厚生を中心に紹介し、挑戦を求める候補者には新規事業や成長機会を強調する。面接の質問も一律ではなく、候補者の経験や興味に応じてリアルタイムに調整する。こうした「自分だけの採用プロセス」は候補者の納得感やエンゲージメントを高め、内定承諾率の向上にもつながります。
今後は、「大量採用の効率化」だけでなく、「個々の候補者を顧客として扱う」姿勢が採用競争の優位性のカギになるでしょう。
(3)人事の役割シフト
AIが再現性のある作業やデータ処理を担うことで、人事は「採用の設計」に集中できるようになります。これは単にAIの出力を管理するだけでなく、採用そのものをデザインする存在へと変化することを意味します。
AIが大量の候補者データを処理し、候補者体験を最適化する時代において、人事が担うのは次のような役割です。
- 問いを立てる人:どんな組織にしたいのか、そこにはどんな人材が必要なのかを言語化し、採用活動の方向性を描く。
- 判断のフレームをつくる人:「合否」ではなく「どのような基準で説明責任を果たすか」を設計し、AIの活用範囲を定める。
- カルチャーを翻訳する人:抽象的な「組織カルチャー」を、候補者や現場に具体的な言葉や体験として伝える。
- 人との関係を築く人:候補者、面接官、経営──最後の決め手となる共感や信頼関係は、人事にしかつくれない。
未来の人事は単なる「意思決定者」ではなく、AIと人の協働プロセス全体をデザインする存在となります。この進化こそが、AI時代における人事の新しい存在意義となるでしょう。
生成AIは採用のあらゆる場面に入り込み、効率化と質の向上をもたらします。しかしその真価を発揮するのは、人事が責任を持って活用範囲を設計し、最終判断を担うときです。
採用は単なる「人を選ぶ作業」ではなく、企業や組織の未来を左右する重大な意思決定です。AIがスクリーニングや候補者体験支援を行う時代だからこそ、人事は、主体的に「問いを立てる」「基準を言語化して標準化する」「候補者との関係性を築く」といった役割を担うことが求められます。
AIに業務を丸投げすれば効率化は進むかもしれません。しかし、「なぜこの人を採用したのか」が説明できない採用になってしまうと本末転倒です。人事が責任を持って関与し続ける限り、AIは判断を支える強力な基盤となり、採用プロセスはより公正で納得感のあるものへと進化していきます。
AIに何を任せるのか、ではなく、人事がどこまで責任を持ち続けるか。この姿勢こそが、AI時代に人事が生き残り、価値を発揮しつづけるためのカギとなるでしょう。
次回のテーマは「労務と生成AI」。労務領域での生成AI活用について取り上げます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
効率化だけじゃない「採用の質」を変えるAI 何をどこまで任せる?
生成AIは、採用の最強のパートナーとなるのか。それとも、判断を曇らせる「おせっかいな存在」になるのか。採用における生成AIの「今」と「これから」を考える。
“便利そう”なのに進まない……人事のAI導入を阻む「3大ハードル」を“粉砕”せよ
今回は、人事領域におけるAI導入を阻む「データ」「システム」「文化」という3つの壁を取り上げ、それぞれの構造と、どう乗り越えるかのヒントを解説していきます。
AI活用、出遅れた企業ほどチャンス 人事部門こそ、AIで“飛び級”できるワケ
生成AIの波は、バックオフィスと呼ばれる人事にも容赦なく押し寄せ、「何かやらねば」という機運が急速に高まっています。本連載では、”人事とAIのモヤモヤ関係”をすっきりさせるべく、生成AIと人事の付き合い方を月一でナビゲートします。
AI競争は「Googleの圧勝」で終わるのか? Gemini 2.5 Proの衝撃
米国のテック系人気ユーチューバーの何人かが、こぞって「AI開発競争はGoogleが勝利した」という見出しの動画をアップしている。これでGoogleの勝利が決定したのかどうか分からないが、少なくともOpenAIの首位独走の時代は終わったのかもしれない。
ソニー平井元CEOが語る「リーダーの心得5カ条」 若くして昇進した人は要注意
ソニーグループを再生させた平井一夫元社長兼CEOが自ら実践し、体験を通じて会得したビジネスリーダーに必要な要件とは?
28歳エンジニアがリーダー “爆速”で作った「AIワークフロー」がスゴイ
SaaSの開発・販売を手掛けるサイオステクノロジーは、ワークフローシステム「Gluegent Flow」で、生成AIを活用したユーザーアシスト機能をリリースした。開発に携わったプロダクトマネージャと、発案者としてプロジェクトリーダーを務めた28歳エンジニアに舞台裏を聞いた。
なぜ日立はDXブランドの“老舗”になれたのか? Lumada担当者が真相を明かす
連載「変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜」では、各社のDXのキーマンに展望を聞いていく。初回は日立製作所。なぜ日立は2016年の段階で、ブランドを立ち上げられたのか。Lumadaの推進に関わる、デジタル事業開発統括本部の重田幸生さんと、Lumada戦略担当部長の江口智也さんに聞いた。
なぜ三菱電機「Serendie」は立ち上がったのか データドリブンによる価値創出の狙い
三菱電機は2024年5月にデジタル基盤「Serendie」(セレンディ)を立ち上げた。同社DXイノベーションセンターが主体となって運営。長年培ってきたモノづくりの強みと、データ活用による新たな価値創出を融合させる狙いがある。同社執行役員で、DXイノベーションセンターの朝日宣雄センター長にインタビューした。
なぜ富士通「Uvance」は生まれたのか サステナビリティに注力する強みに迫る
DXブランドが乱立する中、DXだけでなくSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)も打ち出し、着実に成長してきたのが、富士通が2021年に立ち上げた「Fujitsu Uvance」だ。なぜSXを掲げ続けているのか。ユーバンスの事業戦略責任者に聞いた。
孫正義「A2Aの世界が始まる」 数年後のAIは“人が寝ている間に”何をする?
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、個人専用のAIが予定の管理や買い物などを代行する「パーソナルエージェント(PA)時代」が数年以内に到来するとの見方を明らかにした。

