トップ営業マンの手法を全社で共有 楽天流、個人スキルを組織力に変える方法

[福永博臣，楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA−S]

この記事は、福永博臣氏の著書『楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA−S 』（日本能率協会マネジメントセンター、2025年）に、編集を加えて転載したものです（無断転載禁止）。

　1997年にわずか13店舗、32万円の売り上げから始まった楽天が、現在国内EC流通総額6兆円規模の世界的企業に至った成長の秘訣は何か――。楽天市場のエンジニアリーダーや開発部長として活躍してきた著者が、楽天で学んだ「仮説→実行→検証→仕組化」を基にしたPDCA-S（※）を紹介します。

（※）PDCA-S：PDCA（仮説→実行→検証）に、仕組み化（Systematizing）と横展開（Scale-Out）の「S」を加えてまとめた楽天流の組織成長メソッド。

　本当に強い企業は、社員個々の能力を伸ばしながらも、それを組織としての資産に変えていく仕組みを持っています。本稿では、個々の人材が、単なる「人的リソース」ではなく、企業を成長させる「人財」へと変わる仕組みとは何かについて見ていきます。

写真はイメージ（ゲッティイメージズ）

トップ営業の成功手法を全員でまねる

　企業の成長には、社員一人一人のスキル向上が不可欠です。しかし、個々の社員が独自に試行錯誤しながら成長するには時間がかかります。効率的に成長を促すためには、「うまく行ったことを学び、再現する」仕組みが必要です。

　「学ぶ」という言葉は、古くは「まねぶ」と言い、「まねる」ことだと言われています。望む結果を出している人の方法を学び、まねすることは、最も速く成長する方法の一つです。

　これは仕事でも同じことで、成果を出している優秀な社員の「成果を生み出す違いは何か」を言語化することで、その他の社員がそれをまねし、成長することができるようになります。個々の社員がゼロから学ぶよりも、無駄なくスキルを習得することができるのです。

　例えば、営業の現場では、成績の良い社員が、商談前に行っていること、商談中のプロセス、商談後のフォローアップなどを分析して言語化します。他の社員が行っていないことがあれば、皆が同じようにできるように仕組み化しましょう。

　商談前の準備や商談中のトークスクリプト、いつどんなタイミングでどんなフォローアップをしているのか、全員が同じ流れで提案できるようにすることで、組織全体の営業力を底上げすることが可能になります。ある会社では、トップ営業マンの商談手法を録画し、それを社内教育に活用することで、社員が短期間で成績を上げられるようになりました。

ChatGPTは「うまく行ったことを学び、再現する」モデル

　また近年、プログラミング学習や業務においては、ChatGPTのような生成AIを活用することで、エンジニアのスキルに依存せず良いコードが書けるようになりました。これは、生成AIが世界中の膨大なコードやプログラミングの知見を学習し、それらの中からベストプラクティスを選びコーディングを行う、「うまく行ったことを学び、再現する」モデルだからです。

　私がエンジニアになりたての頃は分厚い専門書を読み、ネットで検索をしながら学んでいましたが、現在のエンジニアはChatGPTに書いてとお願いして、それをチェックするだけで済んでしまうこともあります。世界中のエンジニアの知恵が、エンジニアの生産性を大きく上げているのです。

　トップ営業マンのやり方をまねるにしろ、生成AIにコードを書いてもらうにしろ、人はできることが増えると自信がつきます。そして、さらに成長しようと努力をし始めます。

　最初はまねから始まったとしても、実践を重ねるうちに自分なりの工夫が生まれ、スキルが洗練されていきます。例えば、新入社員が先輩の営業手法をまねることで最初の成約を獲得したとします。その成功体験によって自信が生まれ、次は「もっと良い提案をしよう」と考えるようになります。

　こうして、成長のスパイラルが生まれるのです。こうした成長の連鎖を促進するためには、成功体験を積み重ねられる仕組みを作ることが重要です。そのためにもうまくいく方法を皆で共有できるようにしましょう。それが会社の成長を加速させる原動力になります。