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成果を生むKPIの選び方 楽天に学ぶ、目標を確実に達成するステップとは

KPIを正しく設定するためには、いきなり数値目標を決めるのではなく、「ゴール」(KGI)→「重要な要素」→「測定すべき指標」(KPI)の順で設計することが大切です。

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この記事は、福永博臣氏の著書『楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA−S 』(日本能率協会マネジメントセンター、2025年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 1997年にわずか13店舗、32万円の売り上げから始まった楽天が、現在国内EC流通総額6兆円規模の世界的企業に至った成長の秘訣は何か――。楽天市場のエンジニアリーダーや開発部長として活躍してきた著者が、楽天で学んだ「仮説→実行→検証→仕組化」を基にしたPDCA-S(※)を紹介します。

(※)PDCA-S:PDCA(仮説→実行→検証)に、仕組み化(Systematizing)と横展開(Scale-Out)の「S」を加えてまとめた楽天流の組織成長メソッド。

 KPIは、事業やチームの成果を可視化し、目標達成に向けた進捗を管理するために欠かせない指標です。しかし、適切なKPIを設定することは決して簡単ではありません。

 最初に設定したKPIが理想的とは限らず、実際に取り組みながら適宜見直し、精度を高めていくことが重要です。

 KPIを正しく設定するためには、いきなり数値目標を決めるのではなく、「ゴール」(KGI)→「重要な要素」→「測定すべき指標」(KPI)の順で設計することが大切です。


適切なKPIを設定することは決して簡単ではない。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

KPIの組み立て方 目標達成のために必要なステップ

 まずは最終的なゴールを定めます。例えば、営業チームなら「年間売上○億円達成」、マーケティングチームなら「リード獲得数○件」といったように、ビジネスに直接貢献する指標をKGIとして設定します。次に、そのKGIを因数分解し、達成するために重要な要素を洗い出します。例えば「年間売上○億円達成」の場合、「新規顧客の獲得数」「既存顧客のリピート率」「商談の成約率」のような要因が関係してくるかもしれません。

 KGIに影響を与える要素が明確になったら、それらを具体的な数値で測定できる形に落とし込みます。例えば、新規顧客獲得数を伸ばしたい場合は週あたりの新規アポイント数、リピート率向上なら既存客へのアプローチ数、商談の成約率なら商談数などがKPIとして考えられます。

 近年、目標設定の際には挑戦的な水準を掲げることが推奨されており、特にGoogleで行われている「10x」(テンエックス)と呼ばれるアプローチは注目されています。

 これは「目標を10倍に設定し、それを達成するための発想をする」という考え方ですが、これを単純に目標数値として置くだけでは、モチベーションの低下や「達成できなくて当たり前」など、マイナスな思考が生じる可能性があります。

 10xはあくまでも現状を打破する発想を生むためのやり方です。表面的に取り入れて1日のテレアポ1000件などと設定するのではなく、社員がちょっと頑張れば達成できるレベルにKPIを設定するのがコツです。一度設定したKPIも、社員の成長に合わせて徐々に上げていくなど調整し続ける必要があります。そのために経営陣や上司は常に社員の現状を把握し、力量を見極めた絶妙な目標設定ができるように心がけましょう。

成果を生むKPIの選び方 重要指標に集中する「80:20」の法則

 一方で、達成可能なKPIであったにもかかわらず、達成できないケースもあります。この場合は、前述の「できなかったことの分析」で得られた改善項目をKPIとして追加します。

 例えば、成約率が未達だった場合、アポイント数や商談後のフォローアップなど、成約率を高めるための行動をKPIとして設定します。このように、達成できなかったことの一つ手前の行動をKPIとして定義することで、できない理由を潰していきます。

 ただ、このようにKPIを追加していくと、追わなければいけないKPIだらけになってしまいます。KPIを設定する際に意識すべきことは、「どのKPIを伸ばせばKGIを達成できるか?」という視点です。やみくもに指標を設定するのではなく、最も成果につながる指標に集中することが大切です。この数字を上げればきっとKGIを達成できると考えられるKPIに注力し、それ以外はいったん脇に置いておきましょう。

 ケン・ブランチャード氏の『1分間マネジャー』(ダイヤモンド社)には「全体の20%の目標が、成果の80%を生む」という考え方が提唱されています。例えば、10個の目標を立てたとして、その中でも特にインパクトが大きい上位2つの目標が、成果の80%を生み出すというものです。全ての目標が等しく重要なのではなく、本当に成果に直結する限られた少数の目標に集中することが大事だと説かれています。

 一度KPIを設定しても定期的に振り返り、不要なKPIは削除したり、より適切なKPIに置き換えたりすることで、成果が出るKPIを見つけ出すことが大切です。

KPIを見える化する方法

 そして、これと決めたKPIは見える化しましょう。「KPIを設定すること」と「KPIを見える化すること」はまったく別の行動です。せっかくKPIを設定しても、Excelファイルや紙の資料として机の引き出しにしまい込まれたままでは、現場の行動には何も影響を与えません。

 KPIの現在の数字を常に目の届くところに置き、意識せざるを得ない状態にすることで、社員が自然と行動するようになります。最新の数字を共有するために、毎日次のようなことができるでしょう。

  • 社内のホワイトボードに書く
  • 朝礼で報告する
  • 社内のチャットグループに投稿する

 ポイントは社員が情報を取りに行かなくても現在の状況や数字が分かることです。なぜなら、多くの人は取りに行かないと分からない情報を、わざわざ見に行くことはしないからです。KPIの進捗状況は自然と目に入るところに掲げられているのが最も効果的です。

 また、全体のKPIの状況だけでなく、できれば社員個々のKPIも見える化しましょう。一人一人の進捗状況が分かることで、行動が駆り立てられる場合もありますし、進捗の悪い社員を周囲がサポートすることもできます。上司が目標達成に向けて行動を都度促すのではなく、社員が目標と現状のギャップを自ら認識し、必要な行動を取れるようにKPIを見える化することで社員の自走を促しましょう。

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