家族の転勤や介護……「悲しい退職」をゼロに AIG損保が挑んだ「転勤」改革:「転勤は個人の成長に直結しない」と判断(2/3 ページ)
自身、もしくは家族の転勤、親の介護など、何らかの事情で“住む場所”を変えなくてはいけないとしたら──。これまでは、勤めている会社を辞めて、新しい居住地で職を探すケースがほとんどだった。そのような勤務地が理由となる“悲しい退職”を減らすべく、転勤制度の改革に挑んだのがAIG損害保険などを含むAIGグループだ。
「希望エリア以外で勤務」には月15万円の手当
AIGグループは2019年、転勤制度を見直し、原則会社都合による転勤に伴う転居や単身赴任がない形での勤務制度「Work@Homebase」を開始した。社命による転勤を廃止し、社員が希望するエリアで働けるよう、環境整備をする。
従業員は転居を伴う異動を希望しない「ノンモバイル社員」か、全国転勤可能な「モバイル社員」を選択できる。なお、従業員が「ノンモバイル社員」「モバイル社員」を選択する理由などを会社から聞くことはしないという。
「ノンモバイル社員」は従来の評価制度や給与体系を変えていない。地域限定の職種では、基本給が総合職と比較して低くなってしまうケースが多いが、給与水準を下げないようにした。
モバイル社員かつ希望勤務地外で働く社員には、地域の平均家賃相場の8〜9割程度を代用社宅補助として支給している。
また、希望勤務エリア外で働いているモバイル社員には、月15万円の手当も支給する。
希望勤務地は入社4年目から選択可能だ。2025年6月末時点でノンモバイル社員の割合は約68%ほどだという。
配偶者の転勤や介護……悲しい退職を減らしたい
「Work@Homebase」を開始した背景にはパートナーの転勤や介護といったやむを得ない事情での「悲しい退職」を減らしたいという思いがある。ワークライフバランスを維持しながら、総合職で活躍し続けられる従業員を増やしたいと考えた。
同社は2018年、これまで設けていた一般職やエリア総合職の雇用形態を撤廃し、全員「総合職」の区分に変更した。AIU損害保険と富士火災海上保険が合併し、AIG損害保険の運営がスタート際に、人事制度統合を進めたことがきっかけになった。
当時は、総合職は転勤を伴うため、懸念を示す社員が多かった。そのため、旧一般職、エリア総合職の従業員と転勤に対しての覚書を交わし、「現在の職位である限り転居転勤は行わない」といった条件を付ける対応を取ったという。
「しかし、新人事制度の運用を続ける中で、旧一般職の社員を上位職位に登用したいと考えた際に、この覚書の存在が足かせになってしまいました。そういった課題を解消するためにも、新旧総合職全体に適用できる新たな転勤制度の構築を検討することとなり、Work@Homebase制度を作りました。この制度により、旧一般職であった女性の積極登用が行えるようになりました」(AIGグループ担当者)
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