「人材サービス」はなぜ信頼されないのか? 退職代行・偽装請負・闇バイトに共通する病理:働き方の見取り図(2/3 ページ)
退職代行モームリに家宅捜索が入ったというニュースが、大きく報じられた。退職代行の一件も含め、次から次に新たな問題が発生し続ける人材サービス業界。課題の根源はどこにあるのか、考えてみたい。
偽装請負や闇バイトも同じ構造
同じことは、他の人材サービスにも当てはまります。アウトソーシングで問題となった偽装請負もそうです。
現場運営をアウトソーシング先に委託しているにもかかわらず、発注元の社員がアウトソーシング先の社員に直接業務指示を出す行為は偽装請負に当たります。雇用関係がない相手から指揮命令を受けると、労働者派遣法に違反するからです。偽装派遣と呼んだ方が、より正確かもしれません。
この問題についても、適法性・ニーズ・運営姿勢の3つの視点から整理しておかないと、問題の本質を見失ってしまいます。
まず、製造現場などをアウトソーシングすること自体は違法でも何でもありません。次に、業務効率やコスト削減などの観点からアウトソーシングを利用したいというニーズは確実に存在しています。そして、問題が起きた原因は雇用関係がないにもかかわらず指揮命令した利用企業、およびアウトソーシング事業者の運営姿勢にあります。
スポットワークで問題になった闇バイト求人においても同様です。サービス自体グレーな部分はあるものの、現時点では合法であり、求職者・企業の双方のニーズもあります。問題は、闇バイト求人を掲載しようとする者や、それらへの対応が後手に回った事業者です。
全面禁止の議論まで起こった労働者派遣
3つの視点から整理されず、サービス自体が悪いと誤解を受けている典型例が、かつて全面禁止の議論まで起こった労働者派遣です。
労働者派遣そのものは法律に基づいた正当な仕組みです。派遣労働者の比率は全雇用者の3%未満に過ぎないとはいえ、必要なときに必要なだけ働く需給調整機能には求職者と企業の双方から根強いニーズがあります。しかし、一部の派遣事業者による違法行為が続いたことで、サービス自体が批判の的となりました。
登録型派遣や製造業派遣を全面禁止する法案が国会に提出されて、当時の内閣が総辞職しなければ可決される予定でした。最終的に、その後の法改正によって30日以内の日雇い派遣は原則禁止となっています。グッドウィルなど当時問題視された派遣事業者のメイン事業が日雇い派遣だったことによって事実関係が混同され、日雇い派遣サービス自体が悪いものであるかのように扱われてしまった事例です。
闇バイトなどの違法求人問題については、スポットワークだけでなくインターネットや紙などの求人媒体の他、求人を扱うあらゆる事業者で発生し得る問題です。厚生労働省は関係する業界団体に対応要請を行いました。
また、民間事業者による有料職業紹介では、就職をあっせんした人にお祝い金を渡して再転職を促し、同じ人材を繰り返し紹介して手数料を稼ぐ手法などが問題視されました。いまでは法改正によって規制強化され、お祝い金制度は禁止されています。
これらの問題も根源はサービス自体ではなく、サービスを悪用した事業者側の運営姿勢にあります。人材サービス業界内で同業者がサービスを悪用して食い物にするような行為を見過ごしてきたことが、自らの首を絞める結果につながっているのです。
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