「電話した方が早い」をAIで変える 国際興業が560超アプリで挑む業務改革:問い合わせ対応や運行分析も
情報をシステムに登録しているのに、社員がそれを見つけられない――この課題に対し、大手バス事業者の国際興業は「kintone」のAI機能を活用した解決策を見いだしつつある。500超のアプリを運用するユーザーの同社が、AIをどのように活用しているのかを探った。
社員が文書をうまく見つけられずに総務部門への問い合わせが殺到する。というのは多くの企業で“あるある”の光景だろう。情報はあるにもかかわらず、それをすぐに参照できずに業務が非効率になる。こうした悩みは、バス事業を展開する国際興業も同様だった。慢性的な人手不足が続くバス業界において業務効率化は喫緊の課題だ。現状に風穴を開ける大きな一手になったのが、サイボウズのノーコードツール「kintone」(キントーン)だ。
同社はkintoneで多数のアプリを開発するだけでなく、2025年からは業務の高度化を目指してAI機能を取り入れた取り組みにもチャレンジしている。kintoneを活用したDXの推進とAI活用の現在地について、取り組みをけん引する情報システム課のメンバーに話を聞いた。
コロナ禍を機にデジタル化を加速
国際興業グループは、乗合バス事業を中心にホテル・レジャー、流通・商事、不動産開発など幅広い事業を展開している。祖業のバス事業は、近年自動運転バスの実証実験や完全キャッシュレスバスの実証運行、国産EVバス導入など新たな取り組みを進めている。
社員約2100人うち約1400人が社給PC・モバイル端末を持っていないバスの乗務員などの現場職だ。この運輸・交通業界ならではの環境が、デジタル化の一つの壁になっていた。
同社がデジタル化を本格化させたのは、2020年のコロナ禍がきっかけだ。出社せずに業務を継続できる環境を整えるために、オンプレミス中心だったIT環境を大きく見直した。
「まずはメールやスケジュール、ファイル共有、チャット、会議などが社外からでもできるようにするために、『Google Workspace』を導入しました。RPAで定型業務を自動化したり、紙の申請書類や回覧物を電子印鑑のクラウドサービスで対応したりもしています」と町田弘行氏は振り返る。
2021年に経費精算システムや給与明細のデジタル化を実施。そして2022年、長年使用してきた「Notes」からkintoneに移行した。kintoneを「脱NotesとDXの推進ツール」と位置付けて、数年間で利用を順調に拡大。全社掲示板、社則管理、顧客の声管理、燃料発注など、業務に必要なアプリを次々と構築し、現在は563のアプリを稼働させている。
情報はあるのに、見つけられない
kintone導入で大きな効果を得た同社だが、まだ残る課題があった。社内からの問い合わせ対応だ。
「社則や業務マニュアル、提出書類といった情報は全てkintoneアプリに登録されています。しかし、それを見つけられない社員が多く、労務課は問い合わせ対応に忙殺されていました」と杉山由梨香氏は語る。
社員約2100人を抱える同社において、社内規定や届出書類の問い合わせ数は膨大だ。労務課の9人でそれらに対応しながら本来の業務もこなさなければならなかった。
「kintoneアプリがあること自体を知らない人もいましたし、知っていても『電話した方が早い』と思ってしまう人も多かったです。社員と労務課、お互いに非効率な状況でした」(杉山氏)
「まずは使ってみよう」という方針でkintoneのAIを利用
このような状況下で白羽の矢が立ったのがAIだ。各社が生成AIを業務に取り入れている今、国際興業も情報システム課が全社的なAI利用を推進している。Google Workspaceを導入している同社は、Geminiも利用できる状態だという。
「使える人だけが使うのではなく、『みんなに使ってもらいたい』『遊び心を持って、まずは使ってみよう』というのが基本方針です。実際に使いこなしている人のノウハウを蓄積して、社内で発信する取り組みも行っています。営業部門からの依頼で生成AIに関する勉強会も開催し、反応は上々でした」(町田氏)
中でも同社が着目したのが、サイボウズが2025年4月から試供するAI機能の「kintone AIラボ」だ。これはkintoneアプリ上にサイドパネルのインタフェースが表示され、検索やアプリ作成支援、要約などさまざまなタスクを支援する機能を持つ。同社はまず、kintoneの検索機能とRAG(検索拡張生成)技術を組み合わせ、アプリに登録されたデータから適切な回答を検索する「検索AI」の機能を試した。
「問い合わせ対応の負荷を大きく減らすためには、誰もが自然言語で聞いて回答が得られる仕組みが不可欠だと思っていました。業務データの大半が集約されているkintoneにAIを組み合わせれば、新たに別のシステムを構築する必要はありません。チャットbotのように回答が出てくる仕組みは、業務できっと活用できるはずだと期待しました」(杉山氏)
経営層からの「個人の業務生産性向上」という方針も取り組みを後押しした。「データを扱えるようにならなければ、生産性は上がりません。経営層からのメッセージもあり、私自身もkintoneのAI機能にはかなり期待していて、早く使いたいと思っていました」と町田氏は振り返る。
まずは「問い合わせを受ける側」から展開
AI機能の導入に当たり、始めから全社展開するのではなく、段階的なアプローチを取った。
「情報システム課でテスト的に使い始め、続いて総務部に展開しました。ポイントは問い合わせをする人に最初から展開するのではなく、問い合わせを受ける人に使ってもらったことです」(杉山氏)
同課では、IT関連のインシデント管理に関する検索AIを設定した。
「過去にどんなトラブルがあって、どのように解決したかを記録するアプリをkintoneで作っていたので、情報はすでに蓄積されています。しかし、記録されているとはいえ、同じ内容でも言い回しや表記の揺れがあると検索でうまく見つかりません。ほぼ同じ事例なのに見つけられず、一から調べ直さなければならない非効率な場面がありました」(杉山氏)
これに対し、検索AIは自然言語で質問するだけで関連する過去事例を横断的に探し出すため、検索キーワードを工夫する手間がなくなり対応が迅速化した。
総務部には、社内規定や提出書類を参照する検索AIを設定した。社員から電話で問い合わせを受けた際に担当者がAIに質問すると、過去の事例や規則に基づいた回答が返ってくる。頭の中に記憶している情報はすぐに答えられるが、思い出せない場合はAIに聞くことで対応の負荷軽減につながる。
検証を経て、現在は全社で検索AIを利用できる。特に問い合わせが多い6カテゴリー(全社共通、人事情報、労務、総務、広報、システム系)に検索AIを設定し、それぞれにデータソースとしてkintoneアプリを5〜6個ひも付けている。
検索AIの定量的な効果測定はこれからだが、現場からのフィードバックでAI活用が浸透しつつある手応えを感じているという。
「検索AIの利用に関する問い合わせは多く寄せられています。試行錯誤の段階ですが、質問が寄せられることは社員からのAIに対する期待の表れとして受け止め、これからの可能性を感じています」と五味正直氏は語る。
レコード一覧分析AIでバスの遅延傾向を把握
国際興業におけるkintone AIラボの活用は、情報検索だけにとどまらない。次に注目しているのは「レコード一覧分析AI」機能だ。
「バスの運行は、道路状況の影響を受けてやむを得ず遅延してしまうことがあります。その実績データは蓄積しているものの、なぜ遅れているのかという分析までは手が回っていませんでした」(五味氏)
同社はkintoneで「お客様の声アプリ」を作成し、利用者からの問い合わせや意見を一元管理している。これには遅延に関する情報も含まれている。しかし、膨大なレコードを人が1件ずつ見て分析するのは現実的でない。だからこそ、レコードの内容をAIが分析するレコード一覧分析AIが活用できると考えた。
「『10分以上遅れている情報をピックアップしてください』と質問すると、いつ、どの停留所で、どのくらい遅れて、なぜ遅れていたかという情報を抽出できます。AIが文章で出力するため、次年度の運行計画の見直しに役立てられるのではないかと期待しています」(五味氏)
今後は事故報告書の分析にも応用して、半年間でどのような傾向があったのかをAIに抽出させ、人間が精査する使い方を検討している。
AI活用の土台となるデジタル化を加速
kintoneのアプリ開発に加えて、AI活用を模索している国際興業だが、AIによる高度な分析や検索をさらに価値あるものにするためには、情報のデジタル化が欠かせない。同社はkintoneを中核に据えた「全社員にデジタル技術の恩恵を波及させること」を推進している。
「社給PC・モバイル端末を持たず、kintoneアカウントも持っていないバスの乗務員などの社員にも、ペーパーレスの恩恵を届けたいと考えています」と赤津駿氏は語る。
その思いを形にした例が、制服申請や燃料発注業務のデジタル化だ。kintoneに接続するWebフォームを作ることで、kintoneのアカウントがなくてもkintoneアプリとシームレスに連携できる入力・申請の仕組みを構築した。紙やFAXで行っていた業務をWebフォームに移行したことで、アカウントを持たない社員も個人のスマートフォンなどで入力が可能になった。ペーパーレス化によって利便性が向上しただけでなく、情報を一元化することで、制服の申請状況や燃料の使用量と仕入れを一気通貫で管理し、分析できる環境が整った。
今後は、kintoneアカウントを持たない社員も含めたペーパーレス化をさらに推進し、データをkintoneに集約する計画だ。別のワークフローシステムで行っている申請の仕組みやレガシー環境で構築されているシステムも、kintoneアプリに一本化することで、コスト適正化と業務の安定性を両立させる。
全社員から集まるデータも、kintoneのAIによって価値ある知見に変わる。試行錯誤しながらAIを活用する国際興業の挑戦に、これからも注目したい。
この記事はサイボウズから提供された原稿を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集したものです。
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