同じパンなのに、ラベルには「90円」「80円」「95円」 ダイナミックプライシング導入が進むワケ(1/4 ページ)
日本でも広がりつつある「ダイナミックプライシング」。小売企業が導入する際のポイントはどこにあるのか?
著者プロフィール
佐久間俊一(さくま しゅんいち)
レノン株式会社 代表取締役 CEO
グローバル総合コンサルファームであるKPMGコンサルティング、ベイン・アンド・カンパニーなどで小売業・消費財メーカーを担当。2022年3月小売業と消費財メーカーの戦略とテクノロジーを専門にコンサルティングするレノン株式会社を設立。著書に「小売業DX成功と失敗」(同文館出版)などがある。
近年、小売業の価格戦略は大きな転換点を迎えています。その中心にあるのが「ダイナミックプライシング」です。
これは需要や在庫、競合価格などの状況に応じて価格を変える仕組みですが、本質は単なる値付けにとどまりません。ダイナミックプライシングとは、市場環境やコスト、生活者の需要をリアルタイムに反映し、企業と顧客双方にとって最適な価格を提示する「経営インフラ」の一つといえます。企業にとっては、粗利の改善や在庫の最適化を実現する手段であり、生活者にとっては生活コストの最適化にもつながるでしょう。
小売業の価格は今、ダイナミックプライシングによって「固定価格」から「動的価格」へと変化しつつあります。これは、営業終了間際に貼る値引きシールとは全く異なるものです。
値引きシールは、どの商品をどれだけ割引したら粗利がどれくらい確保され、廃棄ロスとのバランスを加味すると何枚貼ることが適切なのか、といったことは考慮されていません。値引きシールが貼られているときだけ客が商品を買いに来て、結局定価では売れず、いつも値引きをして在庫をさばくという悪循環にも陥りかねません。値引きやセールをしているから安いのではなく、常に企業と顧客の絶妙な価格バランスを見出していくのがダイナミックプライシングに求められます。
ダイナミックプライシングが求められる「4つの要因」
小売業の価格環境は大きく変化しています。その背景には主に4つの要因があります。
第1に、実質賃金の停滞です。日本では物価上昇に対して賃金の伸びが追いつかず、生活者は以前よりも価格に敏感になっています。生活コストを抑えるために、買う場所によって価格が大きく変動する商品についてはかなり吟味して購入場所を決めています。どの店舗も同じ固定価格では需要を取り逃す可能性があります。
第2に、円安による仕入れコストの変動です。食品や家具、家電など多くの商品は輸入原材料に依存しており、為替の影響を強く受けます。仕入れコストが日々変動する中で価格を固定すると、粗利構造が崩れるリスクがあります。これにしびれを切らして各社が値上げを断行してきましたが、顧客離反とのバランスは厳密に検証する必要があります。
第3に、物流コストの上昇です。ドライバー不足や人件費の上昇、燃料価格の高騰により物流費は収益を圧迫しています。輸送距離や配送条件が異なる店舗で同一価格を維持することは合理的ではありません。
第4に、地域ごとの購買力の違いです。都市部と地方では所得水準や消費余力が異なります。同一企業の店舗でも、地域ごとに最適な価格が存在します。
こうした環境変化の中で、状況に応じて価格を調整するダイナミックプライシングの重要性が高まっているのです。
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