2015年7月27日以前の記事
検索
インタビュー

「人事領域はSaaS is Deadしづらい」 リンクアンドモチベーションが見いだしたAI活用の勝ち筋(2/2 ページ)

「SaaS is Dead」の激変期の中で、国内上場SaaSのフロントランナーはどのような「生存戦略」を描いているのか。ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)ランキングで上位を走り続けるリンクアンドモチベーションの真砂豊執行役員に聞いた。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-
前のページへ |       

コンサルタントの“暗黙知”をプロダクト化する

 AIが既存のSaaSを飲み込もうとする中で、なぜ同社は「生き残れる」と断言できるのか。その最大の理由は、同社が「単なるIT企業」ではなく、対人支援(コンサル)を土台にしたハイブリッドな存在だからだ。

 同社は国内上場SaaS企業のARRランキングで上位に位置する。だが真砂氏は「そもそも当社自身がSaaS企業とは正確には言えない」と言う。前述の通り、モチベーションクラウドはコンサルティングの知見をプロダクト化した経緯があり、現在も同社の売上高ベースでの事業ポートフォリオは、クラウド事業とコンサルティング事業がおよそ半々となっている。

 つまり同社の強みは、SaaSとコンサルティングを併せ持つ点にある。「われわれはSaaS企業というよりも、『コンサル×SaaS』のハイブリッドだと、マーケットから認識されていると思います」と真砂氏。AIがSaaSを代替しようとする文脈においても、コンサルティングという人的知見を持つ同社は、単なるソフトウェアベンダーとは異なる価値を発揮できると考えているようだ。

 さらにもう一つ、同社ならではの強みがある。2023年3月期決算から義務化された人的資本に関する情報開示において、定性的な情報が多い中、同社が扱うエンゲージメントは業績との相関性が示されている「唯一の定量的な指標ではないか」と真砂氏は言う。

 「コンサルタントが持つ“職人芸”の知見(人起点の知識)を、いかにして誰もが使えるソフトウェアの機能、つまりプロダクト起点の価値に変換していくかが、当社に対する大きな評価軸になっていると考えています」

 こうした強みを生かし、今後もコンサルティングで得た知見を、AIを活用した「ストック型のクラウドサービス」として展開していく計画だ。「採用支援」や「マネジメント支援」の領域におけるクラウドサービスを順次リリースする方針で、4月にはその第1弾として「モチベーションクラウド エントリーマネジメント」をリリースした。

photo
リンクアンドモチベーションのオフィス

AIの正解を「腹落ち」させる最後の一手 

 「コンサル×SaaS」というビジネスモデルに加え、同社は長年磨いてきた「態度変容技術」にも強みを持つ。

 DX・AXどちらも、企業が生き残っていくためには避けて通れない。だが、この手の取り組みの大半は経営主導であり、実際に業務を遂行している現場の従業員が不安を抱いたり、拒否反応を示したりするケースも少なくない。どうすれば現場を巻き込めるのか、頭を悩ませている経営者も少なくないだろう。

 ここで重要になるのが、AIという技術そのものではなく、人の感情や心理へのアプローチだ。人の感情を直接操作できないものの「感情に働きかけることで行動変容を生み出せる」と真砂氏は言う。その際に活用するのが、人が納得して動くための態度変容技術だ。この技術は、一言で言えば、AIが導き出した方針や、そもそもAI活用自体に対して、現場が心理的な抵抗感を持たずに、自ら行動を変えられるように導くスキルである。

 人はAIのような新しい技術や制度に直面したとき、それぞれ異なる思考のクセや感情の扱い方、いわば「メンタルモデル」によって判断する。つまり、AIを受け入れるかどうかは、スキルやポジションといった表層的な要素ではなく、感情や納得感といった深層心理構造に左右されるのだ。態度変容技術は、そのメンタルモデルに直接アプローチし、変化を促せるものだという。

 「メンタルモデルに働きかけることこそ、生成AI全盛期時代における本質的な差別化要因になると考えています」と真砂氏。人が気持ちよくAIを使えるかどうかが重要であり、同社はこの領域を長年にわたって磨いてきた。

「人間の納得感」が組織運営のカギ

 以上がインタビュー内容だ。生成AIという「知能」がコモディティ化する時代、経営者が真に向き合うべきはシステムの機能性だけではない。どれほど精緻なAIが正解を提示しても、現場の感情が動かなければ組織は変わらないからだ。AI時代だからこそ、人の感情にアプローチする技術が重要になる。

 「SaaS is Dead」という議論の先にあるのは「AIを使いこなして生産性を高められる組織を、いかにしてつくるか」という本質的な問いだ。AIが導き出すロジカルな正解を、組織が情熱を持って実行できるかという、人間力への回帰が求められている。

 企業の勝敗を分けるのは、もはやテクノロジーのスペックではない。AIの「答え」を、現場の「納得感」に変えられるか。その昇華させる力こそが、AI時代における真の競争優位となるはずだ。

photo

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る