「AI役員、導入しました」のウソ・ホント 運用中のSMBC、キリンHDが“AIに委ねなかったもの”とは:AI・DX時代に“勝てる組織”(2/3 ページ)
SMBCグループやキリンホールディングスなどで導入が進む「AI役員」。話題を集める一方、AIが本当に経営判断を担っている事例はほとんどない。先進企業の事例を基に「AI役員」の実態と、人とAIが担うべき経営の役割を解説する。
成果は「利益」よりも意思決定に表れている
「AI役員」を導入した企業は、実際に業績を上げているのでしょうか。 結論から言えば、現在の成果は財務KPI(業績)ではなく、プロセスKPI(意思決定の質と速度)に表れ始めています。成果のフェーズを3段階に分けて考えてみましょう。
第1段階:業務プロセス改善では「成果が表れ始めている」
NetDragonの事例のように、承認プロセスの処理やタスク管理といった業務レイヤーにおいては、数十万件という具体的な処理件数として明確な成果が出始めています。
第2段階:経営会議・思考の質向上は「定性的に確認されている」
キリンHDのCoreMateが提示する「非財務インパクトの問い」や、SMBCのAI-CEOによる「社員の視座引き上げ」など、意思決定プロセスや思考の質を向上させる定性的な効果は実務レベルで報告されています。
第3段階:業績成果との因果関係は「まだ弱い」
公開データで業績との因果関係を証明するのは困難です。NetDragonが公表した2025年度決算では、営業費用の減少や下期営業利益の増加が示されましたが、同時に売上高は前年比で26%減少しています。
AI活用の効果、コスト最適化、事業整理など複数要因が関連するため、AI単独の成果は断定できません。現時点では「プロセスには効いているが、財務との因果は未証明」とするのがフェアな見方です。
進化しても、AIは「社長」になれないのか?
全米企業取締役協会(NACD)の2025年調査では、公開企業の取締役の62%超が「取締役会全体でのAIに関する議論のために議題時間を確保している」と回答しています。
しかし、米Deloitteの調査では「取締役会のAI知識・経験が限定的またはほぼない」という回答が66%を占めており、意思決定プロセスそのものを変革する段階に到達しているのはごく一部の先進企業に限られます。
膨大なデータから最適解の候補を導き出すことにかけては、AIは人間を上回ります。しかし、これだけ生成AIが進化しても、なぜ経営を丸ごとAIに任せることはできないのでしょうか。最大の理由は「経営判断とは、単なる情報処理の正解探しではない」からだと考えられます。
実際の経営判断には、相反する利害関係者との泥臭い調整、社内政治の機微、企業倫理、組織カルチャーとの整合、そして何より「リスクを背負い、ステークホルダーに説明責任を果たす覚悟」が含まれます。
AIは情報処理や論点提示には強いですが、結果に対して責任を負う主体にはなれません。さらに、英大手コンサルティング企業PwCは、AIを取締役会で活用する際には、ハルシネーションや、機密情報のセキュリティリスク、法的責任への警戒が不可欠だと指摘しています。実用レベルのAI役員を構築するハードルは極めて高いのが実情です。
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