インタビュー
» 2010年12月08日 09時30分 公開

「ラブひな」170万ダウンロード突破の衝撃:Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来(前編) (2/4)

[山口真弘,ITmedia]

猛暑の中、スーツを着て汗をダラダラ流しながら回った

アマゾンジャパンが日本国内でのサービス開始から10周年を記念して開催した式典では、コミック部門で殿堂入り著者の1人に選ばれた赤松氏

── そもそも、今回のJコミというプロジェクトは、どのくらい前から準備されていたんでしょうか。

赤松 3年くらい前です。『ネギま!』が終わったらすぐやろうと思っていたのですが、幸か不幸か終わらなくて(笑)、本格的に動き始めたのが今年の夏です。資金節約のため、昔作った別の会社を名義替えして使っています。


「Jコミ」サイト上に掲載されている会社プロフィール。設立はいまからおよそ2年前だが、これは設立資金を節約しようと、別の会社を名義変更して作ったため

── それは営業活動の話ですか?

赤松 そうです。その後にeBookリーダーを手掛けている企業数社にアポ無しで行きました。スーツを持っていなかったので、そのために買って(笑)。

 そうすると、名前が知られてるからだと思いますが、アポ無しでも会ってくれるんですよ。ただ、話を重ねていくと、ハードウェアメーカーは漫画のコンテンツを持ってないことが分かりました。「出版社に要請しても、思った通りの作品は出してくれない」とおっしゃってたんですが、こうした事情が分かってきた辺りで、ハードウェアメーカーの企業に行ってもあまり効果がないんだなと。広告は出稿してもらえるかもしれませんが、1社とだけつながっていてももしょうがないじゃないですか。

 そこで次に、有名なポータルサイトであれば広告も取れるかもしれない、提携もできるかもしれないと思ってまた行ってみると、やはり会ってくれるんですよ(笑)。品川に行って、「今一階にいるんですけど」と伝えると、電子ブック関連の部署の人が来てくれるんです、それで「ラブひな読んでましたよ」って言ってくれる。「何てラッキーなんだろう」と思いましたね。

 ベンチャーには必要なものが3つあるというじゃないですか。まずアイデア。今回のJコミで言えばアイデアは「広告入り漫画」です。もう1つはお金。運のいいことに、お金持ってるんですよね(笑)。あとは知名度。金持ちであろうが、知名度(=信用)がないと会ってもらえませんから。

 幸いにしてその3つがあったので、営業はすごく楽でした。会ってもらえなかったというのは、東芝さんに行ったときに夏休みで誰もいなかったときくらいですね(笑)。一般的にベンチャーというのは、お金はない、営業に行ってもけんもほろろで、みんな泣いているという先入観があったのですが、わたしはすごく楽しかったです。

── それはお一人で回られたんですか?

赤松 いえ、漫画家仲間の出口(竜正)先生と、わたしの友人とです。3人でスーツを着て、汐留とか品川とかに。今年の夏は猛暑でしたので、冗談抜きで汗をダラダラ流しながら訪問しましたね。

 その後、広告を得るには広告代理店、メディアレップに行くべきだと分かってきました。メールで連絡してみると、やはりすぐ会ってくれるんですよ。それでiPhoneでサンプルを見せながらビジネスモデルを説明したら、電子書籍というだけで身を乗り出してきて。きっとはやりのジャンルだからでしょうね。

 彼らは、すぐに価格表を作ってくれました。われわれは一冊5万円くらいなら広告枠が売れるんじゃないかなと考えていたのですが、彼らの評価はもっともっと高かった。でも週刊少年誌の裏表紙の広告料金と比べるとすごく安いでしょ。しかも今回は一週間で170万ダウンロードとかいって、それマガジンの部数に匹敵しますから。しかも5000クリック保証なんてのはすぐ達成してしまいますし。

── これはクリック保証型広告なんですね。

赤松 そうです。われわれの場合、クリックされればされるほど作者がもうかると言ってるせいか、クリック率が非常に高いんですよね。約10%とか。あと巻末にアフィリエイトのページがあるんですが、皆さんすごく買ってくれるんですよ。『ネギま!』限定版とか、3700円もするのにドンドン売れてますからね。

 わたしの当初の予定はクリック保証とインプレッション保証のハイブリッドで、インプレッションで必ず2万円保証しておいて、クリックのほうで実を取るという形です。ただそうすると、2万円対80万円で合わせて82万円、そのうち2万円がインプレッションですけど、それならバランス的に要らないかなって感じもするんですよね。最初のうちはみんなどんな漫画でもダウンロードするでしょうから、そのページをクリック保証にすればもっともうかる可能性がある。するとインプレッションは要らないかなという感じにはなってますね。

 βテストをやってみて、「Jコミは、善意を集めることができるシステム」というのが分かってきたんですよ。アフィリエイトでも何でも、クリックするというのが善意。クリック数を減らすボタンはありませんから、漫画家には善意しか届かないですよね。

── いまPDFの中に入っているニコ生やテレ東の「アニソンぷらす」の広告は、メディアレップ経由の出稿ですか?

赤松 そうです。Jコミが直接企業と取引しているわけではありません。週刊連載をやりながらそういうことはさすがにできないです(笑)。

── 今後の広告出稿はめどが立ってるんでしょうか。それとも、声をかけて回らないとなかなかクライアントは見つからないという状況でしょうか。

赤松 今回のβテストではかなり苦労しました。なぜかというと、モノが想像できないらしいんですよ。企画書を出したんですが、よく分からないと(笑)。しかも、既存の広告とは縦横の比率が異なるようです。わたしは雑誌広告がそのまま流用できるんじゃないかと思っていたのですが、もしタレントさんが出てたりするとネットに出すのは別契約という事務所があったりして、その辺りをクリアするのがやや面倒でした。

 ただ、今回βテストをやって、こういう形で縦横はこれくらいね、こういう位置に入るのねというのが分かっていただけたはずなので、次からはスピード感を持って取り組めると思います。しかもだいたい170万ダウンロードされて、クリック率は9%っていうのをきちんと公開すれば、いっぱい来てくださるんじゃないかと期待しています。というか実際、企業からの問い合わせメールは来ていますし、広告代理店からもたくさん来てます。少なくとも問い合わせが全然なくてどうしようという状態ではないですね。

 あと、ページの下部に常時広告を出したら? と言われるんですが、画面のここに何か広告があるというのをわたしは許せないんですよ(笑)。それなら少しでも画面を広く見たいので、広告はすべて個別ページです。

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