「読書革命」第2幕なるか? 再起動したKoboの反省と挑戦まつもとあつしの電子書籍セカンドインパクト(3/3 ページ)

» 2013年09月10日 08時00分 公開
[まつもとあつし,ITmedia]
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専用端末を止めれば即黒字に?

―― お話を伺ってきて、三木谷社長が訴える「読書革命」の具体的なイメージが見えてきた感覚があります。その三木谷さんが、「端末を売らなければ黒字化できる」と先日の決算説明会で言及し、注目を集めました。それでもなお端末をリリースし続ける理由とは?

舟木 今、端末やめたら黒字になる、というのは事実としては私も正しいと思います。そうせずに端末を出し続けるのは、1つは新規顧客の獲得チャネルとして、端末は必要だからです。端末だけで獲得するわけではないですが、1つの重要な要素です。

―― 先ほどおっしゃっていた、獲得コストの一環である?

舟木 一環ですね。ただ、楽天グループ全体というもう少し広い視点からは、PCの利用比率が下がってきている中で、アマゾンが自社の商流と統合されたKindle Fireを出してきたのはやはり重要です。我々としても、端末がその対抗上も必要なのです。

この秋から順次発売予定のKobo新機種。気になる日本市場への投入は この秋から順次発売予定のKobo新機種。気になる日本市場への投入は?

―― つまり、それはE Ink端末ではないということですね。しかし、そのカラータブレットがなかなか日本では発売されません。

田中 今、まさに詰めているところです。グローバルではこの秋、新機種を出す予定ですが、そこをにらみながら、日本ではどうする、という話を今まさにしているところですね。

 日本語対応が第一のハードルですが、やはり日本のマーケットの特殊性、特にタブレットがほかの国に比べて非常にレッドオーシャンになっている状況なので、どういう位置づけで出すというところで、検討が必要なのです。

舟木 AppleのiPadがこれだけシェアを持っている中では、そこで真正面から勝負しても、という現実的な判断もあり、例えば持ち出さずにWi-Fiオンリーで、リビングで使うホームタブレットとして打ち出す、ということも検討中です。

―― Koboの利用状況は専用端末とアプリ、国内外ではどのくらいの比率なんでしょう?

田中 国内では過去の累積があるので、端末とアプリ、累計ユーザー数でいうと半々くらいですが、直近だと7割方がアプリユーザーですね。フランスなど、グローバルではほとんどがE Ink端末です。

「読書革命」は成就するのか?

―― 三木谷さんが「Koboで電子書籍市場の半分を取る」と宣言したのも話題になりました。グローバルで今後合従連衡が進んで、国内でもAmazon Kindle対楽天koboに収れんしていく、そういう予測の下に事業計画を立てているのでしょうか。

舟木 事業計画は、それがベースになっていますね。実際、電子書籍事業は、お話ししてきたように、キャッシュアウトが続くビジネスですから。

―― 単純に体力勝負になり、電子書籍事業から撤退する事例も出てきています。楽天も過去にはRabooから撤退しました。

舟木 三木谷は今回は「死んでもやる」と言っています。こういう取り組みは正直オーナー会社じゃないと難しいかもしれませんね。

―― 「革命」という言葉を掲げる、あるいは掲げられる意味は大きいということですね。とはいえ、舟木さんが言うように紙の書籍に対して電子書籍の市場はまだまだ小さい、「おまけ」という表現をされていたのも印象的でした。

舟木 そうですね。個人的には、だいぶ厳しいプレッシャーを受けています(笑)。「電子はおまけ」というのは、電子書籍市場がインプレス調べで去年729億円。この中だけで争っても仕方がない、という意味です。お客さんも本は電子だけではないと考えているわけですから。

 ECの世界でも、恐らくAmazonが年商1000億円くらいで、隣に(紙や雑誌の)1兆数千億があるわけで、こういう合算の中でどういう勝負をかけていくのがいいのか、という視点に立っているのが、私の考え方です。

 だから、「電子はまだまだおまけ」というか「まだまだ小さいんですよ」といういい方をしているんです。ハイブリッド書店を目指すインフラを整えながら、それらを組み合わせて収益を確保していくことで、たとえ電子が赤字でも、私はビジネスとして十分成り立つという考え方を持っています。Amazonが1000億だといっても、1兆6000億の中では10分の1以下。十分勝負があるのです。

―― 舟木さんの下で、電子書籍と紙の本の事業が同じ文脈の中で語られるようになったため、その概念は理解しやすくなった感はあります。本日はありがとうございました。


 いかがだっただろうか? これまで、実質的に三木谷氏が電子書籍についてのみ語ることが多かったが、紙、電子、そして書店というバリューチェーン全体を通じて語られる舟木氏の構想は、氏のCCCなどでの経験も相まって、論理的に整合していると筆者には感じられた。

 アマゾン一極集中を懸念する声は、出版界だけでなく、小売業にも根強い。さまざまな店舗が集積するバザール型の楽天の成功モデルを、書籍の世界でも実現し、当初の躓きを乗り越えてもう一つの軸を生み出し得るのか? 買収が報じられた取次第3位の大阪屋も活用しながら、楽天の挑戦は続く。

著者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし

 ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマート読書入門』(技術評論社)、『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(いずれもアスキー新書)『コンテンツビジネス・デジタルシフト―映像の新しい消費形態』(NTT出版)など。

 取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。Twitterのアカウントは@a_matsumoto


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