『そばもん』ほか、粋な男たちの「そば食いマンガ」3選

» 2015年06月26日 13時00分 公開
[ぶくまる]
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『そばもん』ほか、粋な男たちの「そば食いマンガ」3選 『そばもん』ほか、粋な男たちの「そば食いマンガ」3選

 数あるグルメマンガの中でも「そば」にスポットを当てた、そば好きによる、そば好きのための「そば食いマンガ」3作品をご紹介します。

 日本人が古くから愛し続けるめん料理といえば「そば」と「うどん」ですが、今回はそば好きのこだわりから生まれた、そば愛あふれる物語を、どうぞご覧ください。

『そばもんニッポン蕎麦行脚』 そば一筋! 日本全国のそばを知り尽くし食べ尽くす

そばもんニッポン蕎麦行脚(1)

『そばもんニッポン蕎麦行脚』 山本おさむ / 小学館

 主人公の矢代稜は、京橋の老舗「草庵」の名人と謳われた五代目・藤七郎の孫で、名人から江戸そばのすべてを伝授された男。自由にそばを打つために、自分の店を持たず、車に道具一式を積み込んで、全国各地で「そば会」なるものを開いている。

 稜は、そば好きならば知る人ぞ知る人物のため、全国行脚の道すがら、さまざままなそば打ち職人から助けを求められることに。そんな彼が、祖父から受け継いだそばの神髄を人々に伝授していく。

 既刊17巻、現在も連載中の本作。グルメマンガの中でも、「そば」という一食材だけで、作品を描き続けている熱量がすごいです。そばの材料、打ち方、食べ方から歴史に至るまで、余すところなく「そば」の魅力を伝えています。中には、そばに対する今までの既成概念をひっくり返すような情報も。

  • 手打ちの方がすごい&美味しいというイメージが強いが、実は機械打ちの方が優れていることもある!
  • 「黒いそば」が本物で、「白いそば」は小麦粉を混ぜたまがいもの というのは大きな間違い!
  • ノリがかかっているのが「ざるそば」で、かかっていないのが「もりそば」……というのは半分だけ正解?

 第1巻には、そばの薬味であるネギだけを扱った回もあります。ネギは、まな板で切るとネギの繊維がつぶれ、その匂いがそばや汁の風味を殺しかねないため、手に持って空中で切るのが、本来の職人の仕事。切ったものをはしでほぐしてふんわりと小皿に盛りますが、これもそばの風味を大事にするため。こうした目的を知って調理をすることが大切だ、と稜は語ります。

 江戸そばのみならず、全国にあるご当地そばも、稜の旅と共に描かれており、この作品を読めば、そば通になれること間違いなしです。また、第15〜16巻では、東日本大震災から3年経ち、復興を進めている福島の「会津そば」についてのエピソードも。寒さも厳しく、不安な避難生活の中で、一杯の温かいそばで救われた人々が確かにいたのです。また、食べ物のことを語る上で切り離せない、放射能の問題についても触れています。声高に不安や危険性ばかりを煽るのではなく、冷静な視点で語る稜の言葉に、自分で知り、考えることの大切さを痛感させられます。

 そば一杯から、こんなにも広がる世界。「知る」ことで、これまでよりも、もっとそばがおいしく食べられそうです。

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『そば屋幻庵』 そばの湯気の向こうに見える江戸人情に、思わずホロリ……

そば屋幻庵 1巻

『そば屋幻庵』 かどたひろし・梶研吾 / リイド社

 時代劇・歴史マンガ雑誌『コミック乱ツインズ』で連載中の、ちょっと変わったそば屋の店主が主人公の時代劇マンガ。

 舞台は江戸時代、江戸の新橋辺りに現れるそば屋の屋台は、そば好きの間で評判になっているものの、めったに店を出さないことから、いつしか「幻庵」と呼ばれるように。

 幻庵がたまにしか店を出さない理由……実は、店主の牧野玄太郎は「勘定奉行勝手方」から早々に隠居した、元・旗本。そば屋をやっていることを家族や使用人に知られないようにしているためだった。そんな幻庵に集う人々のさまざまな問題を、常連客の艶やかな女性・藤丸や、知人の勘定吟味役・神倉などと共に解決していく、というストーリー。

 主人公は隠居者や権力者で、その素性を隠しながら市井の者と交流する……という設定は、「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」のようですが、牧野は決して刀を振るうことなく、機転と人脈をうまく使いながら、そばで人々の心を癒していきます。牧野のそばに対する愛情はとても深く、問題を抱え、心を痛めた町人たちも、食べたら皆、ホッと幸せそうな表情に。

 また、作中で牧野が考案する創作そばも見どころの1つ。

熱々の半熟卵を蕎麦に落とし込んで……その上に胡麻油をひと垂らし……

などなど、どれもよだれが出るほど美味しそうで、お家でそばをゆでるときにも試したくなります。

 主要人物の1人、芸者の藤丸の色香も、上品でしっとりとしていて、この作品に華を添えています。美人がそばをすする姿って、こんなにも絵になるものなんですね! コミカルな場面も多く、ほっこりとした人情ものとして、時代劇に馴染みがない人も気軽に楽しめる作品です。

 ちなみに、第1巻の巻末に収録されている、シナリオを担当している梶研吾先生の特別コラムによると、「蕎麦の屋台での、かけ蕎麦やもり蕎麦の値段は、十六文だった」らしく、現代の価格で320円ほどだったそう。当時で言うと、鰻の蒲焼の一串、たくあんの一本、草鞋一足の値段と同等だったようです。意外にも、現代のそばの値段と同じくらいだったんですね!

 また、「史実的に言うならば、武家は庶民とは一線を画していて、屋台での飲食は“お忍び”だった」らしいのですが、そこはフィクションの妙であり、去りし江戸の世に馳せる想いと共に「幻庵」が描かれているというのも、また粋な話ではないでしょうか。

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『めしばな刑事タチバナ』 自分の好きな店が登場する感動! 読めば店に駆け込みたくなる!

めしばな刑事タチバナ1 立ち食いそば大論争

めしばな刑事タチバナ』 坂戸佐兵衛・旅井とり / 徳間書店

 主人公は城西署に転属してきた刑事・立花。その風ぼうからは想像できないが、本庁出身のエリートで、どんな容疑者の口も割らせる敏腕刑事としても知られていた。その手法は、カツ丼……ではなく「めしばな」(めしの話)! 一見、事件とはまったく関係ないめしばなだが、容疑者や同僚の刑事たちまでついつい話に参加してしまう、人間の欲求に訴えかける魅力があるのだ。

 2013年には、個性派俳優である佐藤二朗の主演でテレビドラマ化された、異色な話題作。取調室の容疑者と、すき家・吉野家・松屋論争になって、

総合的に考えれば やっぱり吉野家の貢献と存在感は認めざるを得ないだろ

なんて言う刑事、今までほかのドラマやマンガで見たことないですよね。

 さて、今回のテーマである「そば」について描かれているのは第1巻。全4話にわたる「立ち食いそば大論争」です。

 『めしばな刑事タチバナ』は、作中で出てくるお店やそのメニューが実在のものであることが大きな特徴です。この立ち食いそば編でも、「梅もと」「小諸そば」「名代 富士そば」「ゆで太郎」「吉そば」などなど、サラリーマンにはおなじみの立ち食いそばチェーン店と、その人気メニューが多く登場し、立花と課長の韮澤が、刑事としての仕事そっちのけで、立ち食いそばについて大論争を繰り広げます。

 人気メニューの話から、次第にそば自体の歴史や食感の話にスライドし、議論はどんどんヒートアップ! シコシコ・ボソボソの好みの違いとは? そして立ち食いそばなのに「テイクアウト」する、その理由とは? 人気店の裏側情報や裏ワザもたっぷり盛り込まれていて、普段から立ち食いそばを利用している方は、特に一見の価値あり! 立ち食いそば屋に入ったことがない方も、臨場感たっぷりで語られる「めしばな」には、食欲が否応なく刺激されますよ。

 もちろん、この作品はそばのみならず、牛丼・ラーメン・カレーなどなど、B級・C級グルメのウンチクと楽しみ方が満載。読めば、昼夜問わず近所のお店に駆け込みたくなる、非常に危険な飯テロマンガです。

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まとめ

 いかがでしたか? 普段はうどん派だという方も、だんだんとそばの魅力が気になってきませんか? まずは「立ち食い」……もとい「立ち読み」で、サッとすすっていただくのも一興。今夜ふらっと、そば屋に寄りたくなってしまう「そばマンガ」、ぜひご賞味あれ!

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