エンタープライズ:コラム 2003/01/28 22:39:00 更新


Opinion:Notes/Dominoの行方は?

「Lotusphere 2003」で発表されたNotes/Domino関連製品は、衝撃的なものだった。しかし、J2EE化によるNotes/Dominoの終息と捉えるのは早計だろう。Notes/Dominoが今よりも前へと進むためには、J2EEを取り込み、自らが殻を破っていく必要がある。そのタイミングとして、今は絶好の時期と言える。

 フロリダ州オーランドで開催中の「Lotusphere 2003」で発表されたNotes/Domino関連製品は、衝撃的なものだった。捉え方次第ではIBMがNotes/Dominoの基盤を終息させる方向に動いたとも受け取ることができるからだ。しかし、恐らくそうした見方は正しくない。前進するための変化をIBMが選んだと考えるべきだろう。

 Lotusphere 2003の基調講演で、IBMソフトウェアグループLotus部門のアンブッシュ・ゴヤールGMは、Notes/Domino環境をJ2EEに対応させる「Next Gen」戦略に基づき、具体的な製品計画について話した。

 Next Gen Notes/Dominoは従来のNSFをデータベースとする設定に加え、DB2をデータベースエンジンとして利用する設定も行えるようになる。DB2のエンジン部分はNotes/Dominoからのみ利用できる機能限定版が標準でバンドルされる見込みだ。

 この変更によりユーザーはNotes/Dominoの情報資産をDB2環境へと移行させ、J2EE環境で動作するミドルウェアやアプリケーションと連携できるようになる。しかもNotes/Domino用のアプリケーションはそのまま利用でき、Notesを開発ツールとして利用してきたユーザーも、そのままのレガシーな開発環境をそのまま継続して使うことができる。

 関係者によると、Notes/DominoのデータベースをDB2で置き換えるためのコードはかなり以前から完成しており、パフォーマンスも向上することが既に分かっているという。ゴヤール氏は「Next Genは今既に動作している」とし、ほぼ完成している製品であることを強調した。むしろ発表の時期を計っていたと考えるのが正しいだろう。

 ユーザー/リソース管理のためのディレクトリサービスは、Notes/Dominoのデータベースを引き継ぐことになるが、J2EEに対応することでTivoliという共通インフラを利用できるようになる。

 スケーラビリティや絶対的なパフォーマンスを求めると、必然的にNotes/DominoのユーザーはDB2環境での動作を選択することになる。Notes/Dominoのビヘイビアは残るが、本質的にその中身の部分はIBMのアプリケーションプラットフォームへとインテグレーションされるわけだ。

 Notesクライアントで現在も開発を行っているユーザーは別としても、ほとんどのユーザーはDB2モードを選択し、J2EE環境下でWebSphereやTivolと連携していくことになるだろう。アプリケーション開発ツールのWebSphere Studioのプラグインである「Domino Toolkit for WebSphere Studio」は、Domino Designerの役割を統合し、Notes/DominoのデータをWebアプリケーション上で簡単に再利用可能にする。

 ドラッグ&ドロップでエレメントを並べ、アクションを割り当てる操作スタイルはDomino Designerを踏襲しており、WebSphere Studioでの開発経験がないユーザーでもスムーズに開発環境をWebSphereベースへと移行させることができるという。

 ロータスは「Notes/Dominoが今後、なくなっていくということではない」とし、J2EE環境対応でWebSphere、DB2、Tivoliとの組み合わせでアプリケーションを提供する新しい環境と、従来型Notes/Domino環境が併存していくと話しているが、発表されている内容はNotes/Domino環境からWebSphere環境への移行ツールと言えるものだ。その背景にあるのは、Notes/Domino環境の閉塞感だろう。

 スタンダードプロトコルを積極的に取り込みながらも、Notes/Dominoという自己完結しているパッケージングは、世の中がWebサービスとオープンスタンダードへと進んでいく中で、今以上にユーザー数を拡大していくことも、Notes/Domino環境で新しいアプリケーションを提案していくことも、どちらも難しい状況に陥っていた。

 Notes/Dominoが今よりも前へと進むためには、J2EEを取り込み、自らが殻を破っていく必要がある。そのタイミングとして、J2EE環境の整備が進み、企業が業務システムのWebサービスへの移行を進めようとしている今は、まさに絶好の時期と言える。

 ユーザーはこれまで投資してきたNotes/Dominoの資産やアプリケーションを守りつつ、それらをWebサービスへと対応させることで、ほかのシステムと統合された新しいシステムへと前進する道筋ができることになる。一方のIBMから見ると、高いアップグレード率を望めなくなってきていたNotes/DominoのユーザーをWebSphereの世界へと誘うことで、その先にあるアプリケーション統合のソリューションビジネスへと展開させるチャンスが得られる。

 今回の発表を「Notes/DominoはWebSphereへと統合・整理への道を歩むのか?」と捉える声もあるが、そうは思わない。整理されるのではなく、J2EE環境に対応することで足踏みの状態から脱し、新しい一歩へと進むための変更である。それは前向き、発展的なものでだ。

関連記事
▼Domino DesignerのRAD環境がWebSphere Studioで利用可能に、J2EE化が一気に加速
▼いよいよJ2EEベースの「Next Gen」がLotusphereの主役に踊り出た
▼Lotusphere 2003 Orlando Report

[本田雅一,ITmedia]