エンタープライズ:インタビュー 2003/04/10 22:59:00 更新


Interview:「次はプロセスベースのプログラミングモデル」とBEAのチュアングCEO

オーランドのBEA eWorld 2003カンファレンスから約1カ月後の4月10日、東京でも「WebLogic Server 8.1J」が正式発表された。同製品を基盤とする新バージョンのBEA WebLogic Platformでは、BEAが狙うJavaアプリケーション開発の簡素化がさらに前進する。来日したチュアングCEOに話を聞いた。

3月初め、フロリダ州オーランドで行われた「BEA eWorld 2003」カンファレンスのオープニングでBEAシステムズのアルフレッド・チュアング会長兼CEOは、「私はCEOかもしれないが、君たちと同じデベロッパーだ。私には、君たちがこれから経験することが分かる」と話した。そのeWorldの目玉となったBEA WebLogic Platform 8.1は、核となるWebLogic Server上にポータル、インテグレーション、ワークフローなどをより緊密に統合しただけでなく、Workshopツールではドラッグ&ドロップでアプリケーションのインテグレーションも行えるようにする。カスタムロジックもインテグレーションも同じマナーで開発を進められるようになり、BEAが狙うJavaアプリケーション開発の簡素化がさらに前進する。約1カ月後の4月10日、東京でも基盤製品である「WebLogic Server 8.1J」が正式発表された。来日したチュアングCEOに話を聞いた。

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クルマ好きで30台も所有するというチュアングCEO


ZDNet 3月初めにフロリダ州オーランドで開催された「BEA eWorld」には、政情不安や経済の先行きが不透明な中、多くのデベロッパーらが集まりました。その背景には何があるのでしょうか。

チュアング 厳しいこの時期、わくわくするような新しい製品をローンチするベンダーは限られています。幸い、多くのデベロッパーがわれわれの製品や計画について興味を持ち、ぜひ聞きたいと参加してくれたのだと思います。デベロッパーらは顧客のために革新的なアプリケーションを開発しており、BEAにとってeWorldカンファレンスは、彼らがわれわれに付いてきてくれるかどうかの試金石でもあります。

ZDNet eWorldカンファレンスのテーマが「Converge」(収れん)だったように、ソフトウェア業界ではミドルウェアの統合化やアプリケーションのスイート化が大きな潮流となっています。

チュアング Webベースの分散コンピューティングは始まったばかりで、今後、ミッションクリティカルな用途にもこの手法が拡大していくと思います。しかし、それらを実現する技術は、別々の目的でつくられたものです。顧客が統合するか、そうでなければベンダーがやるかのどちらかです。

 BEAは、10億ドル企業の仲間入りをし、顧客も1万4000社を数えており、成熟しつつあります。(WebLogic Serverという)コアのプラットフォーム上にインテグレーションやワークフローの機能を統合して、顧客に提供していきます。

ZDNet 業界の成熟はよく自動車産業にたとえられます。ソフトウェア産業も同じでしょうか。

チュアング 自動車産業も最初は、多くのメーカーがありました。それがGM、フォード、ダイムラークライスラーのような大手メーカーに収れんしてきました。また、自動車という核となる市場の周辺にカーナビ(GPS)のような次の世代の製品が生まれてきます。そうしたアイテムは最初は非常に高価なのですが、ボリュームが出て、すべての自動車に組み込まれるようになると価格がこなれてきます。ソフトウェア業界の動きと似ています。

買収を重ねるBEA

ZDNet BEAはビッグスリーになるのですか?

チュアング それはともかく、アプリケーションサーバという核となる市場の周辺には、例えば、Webサービスを管理するソフトウェアやサービスのプロバイダーが5社ほど生まれ、注目を集めています。GPSの部品をつくる会社だけでなく、衛星通信の部品をつくる会社もあるわけで、さまざまな異なるレベルの新しいタイプの会社がソフトウェア産業でも生まれてきます。

 市場が期待するのは大規模な買収劇ばかりですが、われわれは昨年だけで小さな会社を6社買収しました。そのうち4社はセキュリティ関連です。だれも気がつかないし、話題にもしませんが。

ZDNet 2年前のJavaOneカンファレンスで、あなたが「買収は、ビル(社屋)を買うのではないし、製品を買うのでもない。人が欲しいからだ」と話したのを思い出しました。

チュアング 人がアイデアを出し、そこからコードが生まれます。われわれの考え方は一貫しており、新しい分野への参入を助けてくれる人の獲得を目的に買収を行っています。人がすべてです。

ZDNet あなたは、BEAを共同で設立する前、サン・マイクロシステムズで働いていましたね。

チュアング はい、10年間働きました。でも、多くのメディアからそのことについて聞かれますが、なぜでしょう?

ZDNet サンはかつての輝きを急速に失い、ライバルらが彼らの顧客を奪おうと殺到しています。なぜかを知りたいのです。

チュアング サンにはほかのベンダーにはないユニークなカルチャーがあります。革新的な仕事に取り組んでいる人がたくさんいて、そのうち1つないし2つが製品としてヒットしてくれれば、次の数年はそれが会社を引っ張ってくれるというスタイルです。

 しかし、サンにはJava以降ヒットがありません。たとえヒットがあったとしても、こういう難しい時期ですから、ユニークな技術や製品に企業が投資をしてくれません。

 また、彼ら自身が、ソフトウェアの会社なのか、ハードウェアの会社なのか、よく見えていません。今の顧客は、レーザーのように焦点を絞っていますから難しいでしょう。

 ただ、サンが間違っているというのではありません。彼らのスタイルではないのです。サンでは何でも自由にやらせてくれ、自分自身とても成長できました。サンで働いた10年をもう一度やり直せと言われれば喜んでそうします。

オープンソースの支援者

ZDNet もうひとつ大きな潮流がソフトウェア産業で見られます。それはオープンソースです。JavaアプリケーションサーバのJBossをつくったマーク・フルーリ氏もサンの技術者でした。

チュアング BEAはオープンソースを強力に支援しています。オープンソースによって複雑な技術が広まっていくからです。エデュケーションという観点から必要だと考えています。

 大企業がITシステムの効率を高め、成功を収めていくには、分散型のシステムが唯一の選択肢となります。ただ、どこにオープンソースを採用していくか、どこに使うべきでないか、を見極める必要があります。

 Linuxが人気を集めている理由は2つあります。LinuxはOSであり、もはやアプリケーション開発者が直接LinuxのAPIを使ってプログラミングするわけではありません。また、以前では考えられなかったような安価なハードウェアでLinuxを使い、高価なUNIXシステムを代替することができるからです。いずれにせよ、Linuxで十分か、あるいは、もっとリッチな環境が必要かどうかは、コストと機能のトレードオフになります。

 アプリケーションサーバは、デベロッパーがアプリケーションを書く環境であり、信頼性、安定性、標準への準拠などが彼らにとって重要となってきます。JBossグループには、有料でサポートを受けている顧客が7社しかありません。われわれは1万4000社にサポートを提供しています。この差は歴然です。

ZDNet メディアは騒ぎ過ぎですか。

チュアング 私はクルマが大好きで30台も持っていますが、JBossはガレージでキットカーをベースに革新的なクルマを1台作り上げたのに似ています。面白いのでメディアは書き立てます(笑い)。

 エンタープライズ分野のITで面白いと思うのは、デベロッパーというのは、ユーザーのためのアプリケーションを書くのを必ずしも楽しんでいるわけではないということです。みんなBEAのようなインフラを作り上げる仕事をしたいと考えているのではないでしょうか。見えないところを覗いてみたい、そういう気持ちを満たす機会をJBossが与えているのです。

 スティーブン・ジョブズが1980年代後半に「NeXT Cube」を発売しました。ブラックのキューブ型でそれはそれはスタイリッシュでした。でも、お金にはなりませんでした(笑い)。

ZDNet 30台もクルマがあってどうするんですか?

チュアング メカが好きでコレクションしています。デベロッパーというのはメカが好きで、いろいろと手を入れようと思うのですが、いつも失敗します(笑い)。

プロセスベースのプログラミング

ZDNet BEAの製品についてお聞きします。ソフトウェア業界ではミドルウェアの統合化が進む中、例えばLinuxのように下位のレイヤから順にコモディティ化してくることが予想されます。BEAとしては今後、そうした流れにどう対処していくのでしょうか。

チュアング われわれには、インテルアーキテクチャに最適化したJVM「JRockit」がありますが、これはライバルを含め、すべてのベンダーに無償でライセンスしています。ユビキタスを実現するにはコモディティ化が必要です。しかし、われわれのコアであるJavaアプリケーションサーバや、その上に統合しているポータルやインテグレーションの機能までコモディティ化するにはまだまだ時間がかかると思います。

ZDNet とはいえ、BEAが次に目標としていることはあると思います。どのような機能を統合していくのでしょうか。

チュアング デベロッパーらにとっては、アプリケーションをいかに簡単に、しかも迅速に開発できるかが重要なのです。これまでの歴史を振り返ると、3GLからJavaのようなオブジェクト指向言語に移行するのに随分と時間がかかりました。そして今は、Webサービスのようなサービス指向のプログラミングモデルが登場しています。私は次の大きな転換点は、プロセスベースのプログラミングモデルだと考えています。ワークフローを定義するようなものです。家の玄関を出て、バスに乗って、地下鉄に乗り換えて……、とても分かりやすいでしょう。



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[聞き手:浅井英二,ITmedia]