エンタープライズ:インタビュー 2003/06/25 15:02:00 更新


モバイル、オープンソース……Javaの未来を語るSunのシュワルツ氏

先ごろサンフランシスコで開催されたJavaOneで基調講演に立ち、「Java is Everywhere」を強調したSunのジョナサン・シュワルツ氏。その同氏が語るJavaの未来像とは……。(IDG)

 Sun Microsystemsのソフトウェア担当執行副社長ジョナサン・シュワルツ氏は、先ごろサンフランシスコで開催された「JavaOne」カンファレンスでComputerworldの取材に応じた。同氏はインタビューで、Javaがオープンソース化される可能性、モバイルデバイス分野におけるJavaの潜在的市場、JavaとIBMの関係について語った。インタビューの抜粋を以下に紹介する。

――Javaは完全にオープンソース化すべきでしょうか。

シュワルツ オープンソースの問題は、たくさん取った者が勝つということです。これは今日のLinuxコミュニティを見れば明らかです。Linux分野では、ISV(独立ソフトウェアベンダー)がRed Hatだけに対応し、ほかのディストリビューターには目もくれません。なぜかというと、Red Hatがたくさん取ったからです。

 Javaがオープンソースになれば、Microsoftがそれを取り込んで彼らの都合のいい形で提供し、コミュニティが互換性を求めるものとは異なる仕様のJavaを推進するでしょう。そして、この不埒な行為の成果を勝者が手にすることになるのです。

 Java Community Process(JCP)の素晴らしいところは、一貫した互換性標準があるという点です。現在この標準には、何億台ものデバイス、何億台ものスマートカード、何億台ものデスクトップ、そして何万台あるいは何十万台というサーバが対応しています。このため、オープンソースとオープン標準との区別をきちんと理解する必要があるのです。

――IBMの幹部は、その2つの言葉は同じ意味だと言っていましたが。

シュワルツ IBMは全く間違っています。IBMは自分たちの利益を図るために、詭弁を弄してその違いをあいまいにしようとしているのです。彼らは、一方でオープンソースコミュニティを利用し、そしてもう一方ではオープンソース製品のインプリメンテーションで独自の優位性を実現することによって市場を食いものにしようとしています。わたしは、オープンソースがより大きなイノベーションにつながるとは思いません。オープンソースがもたらすのは異なる種類のイノベーションなのです。オープンソース製品が成功するためには、それが優れた製品であるかどうかが重要なのであり、ソースコードとは何の関係もありません。わたしがお会いしたすべてのCIO(最高情報責任者)にとっては、ソースコードはタダでもらった子犬のようなものです。もらった日はうれしいでしょう。とてもかわいですから。しかしいざ飼い始めるとなると、エサを与えたり、散歩に連れて行ったり、予防注射を受けさせたりしなくてはなりません。

――JavaOneカンファレンスに参加した開発者からは、Javaをオープンソース化すべきだという意見も聞かれました。

シュワルツ ライセンシーたちは、Java Community Processが一貫性を実現していることを理解しています。Java Community Processに関して面白いのは、コミュニティプロセスを嫌っている企業が、「ほかの企業は放っておいて、JCPの外で何かをやらないか」と、わたしもしくは直属の部下にアプローチしてくるのです。こういった欺瞞についてはあまり話したことがありませんが、実際に存在するのです。われわれは繰り返し、互換性を重視すると言っています。

――これまでIBMから、同社独自のグラフィカルインタフェース技術「Standard Widget Toolkit」(SWT)をオープンソースのEclipseプラットフォームに組み込むことに関して話がありましたか。

シュワルツ いいえ。IBMがSWTでやったことは、Javaプラットフォームの理念に反しています。「一度書けば、このOS上でのみ動作する」などというのは誰も望んでいません。

 IBMは大きな影響力を持った企業ですが、JCPを嫌っています。1つには、JCPでは彼らが権力をふるうことができないからだと思います。彼らは数多くの声の1つにしか過ぎないのです。

――JavaOneではSunがすべての基調講演を行いました。ほかの主要Javaベンダーが目立たなかったのはなぜですか。

シュワルツ お気付きでしょうが、演壇に立ったSunの人間は、誰もSunの製品のことを話題にしませんでした。われわれは、コミュニティの成功に対して最大の利害関係を持つ企業という立場で、コミュニティの健全な発展について話したのです。JavaOneの参加者たちもそれを望んでいたと思います。われわれは、彼らが本当に関心を持ち、知りたいと思っていることについて話したのです。

 第2に、なぜIBMが来なかったのでしょう。SCOとの訴訟で、それどころではなかったのだと思います。AIXのライセンスは取り消されるだろうと、わたしは予想しています。そうなれば、彼らの戦略がますます不確かなものになるでしょう。

 IBMはちょっとしたアイデンティティの危機に直面していると思います。というのは、彼らはLinux企業になりたかったからです。これはある意味で、顧客を数歩後退させるものとなります。なぜならLinuxはアーキテクチャを提供していないからです。Linuxが提供しているのはOSです。JavaOneでの話題はすべて、アーキテクチャおよびエンドツーエンド機能に関するものです。次のカーネルや新しいCライブラリセットといった話ではありません。IBMには参加してほしかったと思います。われわれは市場で実質的にパートナーを組んでいます。今後もその関係が続くことを願っています。

――参加者の中には、IBMの姿があまり見えないのに気づいた人もいたようです。

シュワルツ 彼らの姿は全く見えませんでした。Microsoftも来ていませんでした。

――当然予想されたことですね。

シュワルツ とても興味深いことに、われわれがJavaの配付にまつわる問題を解決してしまうと、もうこれはMicrosoftにとってあからさまに管理すべき問題ではなくなってしまったようです。ひょっとすると、Microsoftとパートナーを組む可能性が出てきたのかもしれません。われわれにはIBMという共通の競争相手があります。Microsoftが契約を順守するのであれば、われわれは喜んで彼らと協力するつもりです。

 わたしはMicrosoftの社員で賢い人をたくさん知っています。そして、Microsoftの社員でJavaを熱烈に支持しており、Microsoftのやったことに腹を立てている人もたくさん知っています。いつか、Microsoftの経営陣がこういった賢明な社員の声に耳を傾け、そしてわれわれがJavaで協力する方法を見つけられるよう願っています。全世界に1億台のJava対応携帯電話があり、SmartPhoneは全世界で100万台にも達していません。ボリュームは雄弁です。

 結局、彼らはゲームマシンで失敗し、セットトップボックスで失敗し、携帯電話で失敗し、PDAで失敗したのです。彼ら成功しているのは、これまで成功した唯一の市場、すなわちデスクトップ市場だけです。

――JavaOneでは、携帯電話用のアプリケーションを開発するよう開発者らに嘆願しているようにも聞こえましたが。

シュワルツ 嘆願ではありません。IT業界の問題は、この会場にいる人やメディアで取り上げられる人を含むあらゆる人々が、コンピューティングとはデスクトップPCとサーバを意味すると考えていることです。わたしに言わせれば、これらはもう必ずしも企業のインタラクティブ性を実現する上での焦点にはなりません。この点で北米は世界に後れを取っています。ですからVodafoneがカンファレンスで「もっと多くのコンテンツが欲しい」と言ったのです。世界で最大級の企業の1社が、ほかの世界最大級の53社の企業と共に、ブランド推進、販売促進および開発者に対するPR活動でわれわれを手助けしようとしているのです。これは素晴らしいことではありませんんか。

 欧州とアジアでは、無数の企業が位置情報サービスから在庫管理に至るあらゆることに取り組んでいます。RFID(Radio Frequency Identification)とAuto-ID技術は、デスクトップからほかのデバイスにテクノロジーを拡張し始めています。

 デスクトップコンピュータ以外のデバイスへのインターネットとの接続技術の導入という点では、業界は停滞期にあると思います。ここで重要な問題は、企業のIT部門はチャンスに反応するのか、それともチャンスを活用するのかということです。米国では、チャンス能動的に活用するよりも受動的に反応する企業の方が多いと思います。欧州とアジアでは、受動的な企業よりも能動的な企業の方が多いでしょう。

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[聞き手:Carol Sliwa,IDG News Service]

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