エンタープライズ:インタビュー 2003/10/27 11:27:00 更新


Interview:Linuxが鍵を握るOracleのグリッド

顧客企業にローコストコストコンピューティングの基盤を提供したいOracleにとってLinuxは、Intelプロセッサと同様、極めて重要だ。同OSに肩入れする同社でLinuxプラットフォームパートナーを担当するダーゴ副社長に話を聞いた。

 OracleとLinuxの蜜月は続いている。昨年米国で発表された「Unbreakable Linux」では、RedhatそしてSuSEのLinuxディストリビューションのワンストップサポートを実現している(日本では今年5月に発表)。そして今回のグリッドでも、Linuxは重要な役割を果たす。OracleでLinuxプラットフォームパートナー担当副社長を務めるデイブ・ダーゴ氏に、グリッドにおけるLinuxなどについて話を聞いた。

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Oracleの将来にとって重要なLinux、それを統括するダーゴ副社長


ZDNet Linuxの観点から見たOracleのグリッド戦略について教えてください。

ダーゴ 今日のIT部門の課題は、マシンがピーク時を想定して設定されているため、オーバーサイズ状態にあることです。例えば、財務レポートシステムは四半期ごとに迎えるピーク時を想定して設定されていますが、それ以外の稼働率は低いのです。Oracleのエンタプライズグリッドはこれを解決します。顧客は低いキャパシティでシステムを構築し、必要なとき、必要なところに動的にコンピューティングリソースを配分できます。これにより、15〜20%だったキャパシティ使用率は向上します。つまり、インフラへの投資を守れるのです。

 Oracleのグリッド技術は、SPARC、PowerPCなど全プラットフォームで動きますが、Intelベースの小型ブレードサーバとLinuxでの組み合わせで、最も真価を発揮します。IAサーバは、ビルディングブロックが小さいため、キャパシティをさらに効果的に利用できるからです。Linuxを用いることにより、Intelプロセッサの高速化や性能、コモディティ化したサーバなどのメリットを享受できますし、エンジニアは既存のUNIXのスキルセットも生かせます。逆に見ると、Intelプロセッサの利点が活用できればグリッドという新しい機会が開ける、ということです。

 OracleのエンタープライズグリッドでLinuxを採用するメリットはほかにもあります。Oracleは「Unbreakable Linux」でRedhat、SuSEと特別な提携を結んでおり、LinuxはOracleがコードレベルでサポートする初のOSです。アプリケーション、データベース、OSをすべてコードレベルでサポートしますので、顧客は高いレベルのサポートを受けられます。

ZDNet Oracleにとって、Linuxの位置づけはどのようなものですか?

ダーゴ Oracleは市場の流れを見た結果、LinuxをOracleがプラットフォームを再定義できる機会と位置づけています。Oracleにとって、Linuxは戦略的に非常に重要です。

 例えばグリッドを発表して以来、「IBMとの違いは?」とよく聞かれますが、グリッドにおいても、他社との差別化という意味でLinuxは重要になります。IBMやHewlett-Packardなど各社がさまざまな名称で提唱しているグリッドコンピューティングモデルはハードウェア中心ですが、Oracleはデータベースとアプリケーションサーバのソフトウェアアプローチで、一部ハードウェアベンダーとは協業が考えられます。ソフトウェアのアプローチが意味することは、インフラを持っていない顧客に対しても、小型のDellのサーバとLinuxによりグリッドを提供できるということです。実際、Oracleでグリッドを構築している顧客の多くは、このパターンです。

ZDNet 以前、Dell、Redhatとの提携を発表しましたが、現在の進捗は?

ダーゴ Oracleでは当初、Linuxに変更を加えたいと思い、さまざまなハードウェアベンダー、ディストリビュータにコンタクトをとりました。そして、DellとRedhatに行き着いたのです。ですから、この2社とは開発レベルで深い関係にあります。今後も、Linuxのサーバを多数接続するグリッドを実現する上で、さらに重要となるでしょう。特に、Redhatとは開発チームを合体させて、RedhatのLinuxに変更を加える体制を整えています。

ZDNet Linuxの適用が進んでいる分野はどこですか?

ダーゴ エンタープライズ領域におけるLinuxを最初に導入したのは、金融業界です。ロンドンのMerrill Lynchは、OracleとLinuxの組み合わせを導入した最初の顧客の一例です。その後、製造業が採用し始めました。

 現在、Oracleの顧客には、DellやAmazon.comなどがあります。また、Electronic Artsは面白い例です。同社はOracle9i RACとLinuxを組み合わせてグリッドに似たシステムを構築し、その上でオンラインゲーム「The Sims Online」を提供しています。1秒当たりのクエリ数は3万件を実現するなど、負荷の大きなシステムをLinux上で動かしているのです。

ZDNet Oracle社内ではどのようなところでLinuxを利用していますか?

ダーゴ Oracleでも、幾つかのシステムをLinuxに移行しています。最初に移行したのは、営業がE-Business Suiteの売り込みに使っているデモシステムです。2002年4月のことで、5台のUNIXのSMPサーバから、約250台のDellの2CPUサーバに移行しました。メリットとしては、新システムは一つのOSとして動作するため、管理スタッフ数が減りました。また、高速になり、信頼性も高まりました。

 その次に移行したのは、顧客に教育サービスを提供するOracle Universityです。これも現在、約250台のLinuxサーバで動いています。そのほかにも、Oracleのホスティングサービスに用いるアウトソーシングシステムもLinuxに移行しました。500〜600台のサーバで150の顧客にホスティングサービスを提供しています。

 3週間前には、アプリケーション開発者が使う開発プラットフォームもLinuxへ完全に移行しました。現在、Oracleの5000人の開発者は、LinuxとIntelベースのシステムで開発しています。

ZDNet MySQLやPostgreなどオープンソースのデータベースが登場しています。これらは将来的に、Oracleにとって脅威となるのでしょうか?

ダーゴ 2つの理由から、脅威になるとは思っていません。先ずMySQLは機能が貧弱という点です。Oracleと比べると、技術的に数年遅れています。顧客がデータベースに求めるものとして、トランザクション、データ保護という観点からの安全性があります。ですから、顧客は、オープンソースで保証のないデータベースに移行することに抵抗を感じているはずです。

 2つ目として、データベース市場は成熟しつつあるということです。6年前、データベース市場では、Oracle、Informix、Sybase、Ingressなど多数のプレーヤーが競争していましたが、今では、Oracle、IBM、Microsoftの3社に集約されています。データベース市場は統合が進み、ユーザーは自社で導入しているデータベースに満足している状態です。

 ユーザーは、トランザクションが重要ではないところでMySQLを利用し、基幹系でOracleを利用しているようです。今後、商業DBとオープンソースDBの住み分けがなされるでしょう。

ZDNet データベース市場でIBMがシェアを伸ばしてきています。

ダーゴ Oracleがシェアを失っているとは思いません。実際に顧客に聞くと分かりますが、インストールベースのトップはOracleです。Oracleがシェアを失っているというレポートがありますが、MicorosoftやIBMは会計監査に基づいた数を発表していませんから、正確な数字とは言えません。

ZDNet コンピューティングはメインフレーム、クライアント/サーバ、インターネット、そしてグリッドへと変遷してきました。今後、どうなっていくのでしょうか? ユーザーは変化のスピードについていけるのでしょうか?

ダーゴ 今後5年というレンジで見ると、コンピューティングがオンデマンドで提供され、ソフトウェアがサービスとなる方向性がさらに強まるでしょう。Oracleではホスティングサービスを提供していますが、顧客はOracleのソフトウェアを利用しますが管理はしません。そして、グリッド上で実装されるサービスは、さらに効率的なものとなります。

 インターネットコンピューティングとグリッドは、今後2〜5年間とても重要な技術となるでしょう。5年から10年後には、コンピューティングリソースをサービスとして利用する時代が来るでしょう。

 「最高情報責任者」を意味するCIOは現在、技術責任者の要素が強く、その仕事は最新技術を勉強して、統合することです。最高「統合」(Integration)責任者のCIOといっていいかもしれません。グリッドとコンピューティングの管理性というトレンドにより、CIOは本来の仕事である情報管理が行えるようになるでしょう。

 Oracleの顧客は、Oracleの先進性を評価してOracleを選んでいます。他社の顧客は、既にあるレガシーシステムを維持したいからその会社を選んでいるのです。Oracleはこれまで、顧客がクライアント/サーバ、インターネットとシームレスに移行するのを手伝ってきました。今度は、グリッドへのシームレスな移行を提供します。

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[聞き手:末岡洋子,ITmedia]