エンタープライズ:ニュース | 2003/09/09 09:32:00 更新 |
基調講演:OracleWorld開幕、Oracle 10gが「グリッドの時代」を告げる
米OracleがOracle 10gを発表し、「グリッドの時代」が到来したことを宣言した。コモディティ化が進むハードウェアとLinuxを組み合わせ、同社戦略の究極ともいえる「ユーティリティーコンピューティング」の実現へ向けて大きな一歩を踏み出した。
米国時間9月7日、カリフォルニア州サンフランシスコで「OracleWorld 2003」カンファレンスが開幕した。フラグシップ製品の次世代版「Oracle 10g」がデビューするとあって、会場となったモスコーニコンベンションセンターには早朝から顧客やパートナーらが詰め掛けた。現行のOracle9iは2000年のOracle OpenWorld 2000 San Franciscoで発表されており、メジャーアップグレードはおよそ3年ぶりとなる。
2001年9月11日の惨劇、「米国同時多発テロ」にひるむことなく「Unbreakable」を打ち出した米Oracleは、ちょうど2年後のOracleWorldで、そのメッセージを「Enterprise Grid」へと昇華させた。一層のコモディティ化が進むハードウェアとLinuxを組み合わせ、同社戦略の究極ともいえるユーティリティーコンピューティングに向けて大きな一歩を踏み出したといえる。
ベールを脱いだOracle 10gは、企業のITリソースをすべてのレイヤで仮想化し、1台の巨大なコンピュータとして扱えることを目指している。よりグローバルに展開されている科学技術分野のグリッドとは異なるため、「Enterprise Grid」と呼ぶのが適切かもしれない。しかし、Oracleでは、ライバルたちが依然としてAPIとツールの提供に留まっていることを強調し、それに対して、Oracle 10gが既存のパッケージアプリケーションを変更することなく、グリッドのメリットを享受できる初めての統合化されたグリッドインフラソフトウェアだとする。
Oracle 10gが焦点を当てている企業のデータセンターでは、月末や、四半期あるいは1年に一度に訪れるピーク時の負荷に合わせて十分なキャパシティが用意される。システムごとにハードウェアやOSといったプラットフォームが異なれば、普段は遊んでいるリソースが増え、それだけIT投資が効率の悪いものになってしまう。
例えば、オンラインで商品を販売する企業では、クリスマスシーズンにWebサイトの負荷はピークとなるが、顧客らの購買パターンを分析するデータウェアハウスはほとんどアイドル状態だ。これが新年を迎えるとWebサイトは落ち着きを見せるが、逆にデータウェアハウスの負荷はピークを迎えるといった具合だ。それぞれ異なるシステムとして構築されていれば、利用効率を高めることは難しい。
ウォール街のスターアナリスト
今年のOracleWorldカンファレンスは、5月にウォール街のアナリストから転身したばかりの執行副社長、チャック・フィリップス氏のお披露目でもある。彼は、Oracleに招かれる前の9年間、モルガン・スタンレーでエンタープライズソフトウェア担当アナリストとして働き、1994年から毎年、Istitutional Investor誌ではエンタープライズソフトウェア分野のトップアナリストとしてランクされた。
オープニングの基調講演に登場したフィリップス氏は、Oracleが言うところの「Oracle Grid Computing」の定義として「リソースのプーリング」「すべてのレイヤの仮想化」、そして「ポリシーベースによるロードバランシングの自動化」を挙げ、Oracle 10gがハードウェアやソフトウェアだけでなく、運用管理を省力化することによってデータベース管理者(DBA)のような人的リソースに対するIT投資も最適化してくれると話す。
Oracleの総帥、ラリー・エリソンCEOは1990年代半ば、今では懐かしい「Network Computer」(NC)というガジェットを持ち出し、電気やガスのようにコンピューティングパワーを使えるユーティリティーコンピューティング構想を掲げた。NCこそ日の目を見なかったが、その概念の多くは後のWebコンピューティングの隆盛で具現化されたといっていい。ただし、複雑さが持ち込まれたデータセンターには問題が山積したままだ。
フィリップス氏は、真のユーティリティーコンピューティングを実現するためにはグリッド技術が欠かせないと話す。
グリッドの機は熟した
グリッドコンピューティングを後押しするのは、技術ばかりではない。企業のIT部門は、予算の見直しを余儀なくされ、少ないコストでより高いレベルのサービス提供が求められている。こうしたプレッシャーの中、ブレードサーバ、Linux OS、サーバに縛られないNAS(Network Attached Storage)やSAN(Storage Area Network)、そして高速のInfiniband技術が登場し、フィリップス氏は、「まさにグリッドコンピューティングの機は熟した」と話す。
米Oracleサーバテクノロジー部門で分散型データベース開発を担当するベニー・サウダー副社長は、前夜のプレスレセプションで「さまざま要因が重なり、グリッドは“パーフェクトストーム”として猛威を振るいつつある」と、大ヒットした映画を引き合いに出し、やはり「グリッドの時代」が到来したことを熱く語ってくれた。
ライバルたちとの差別化を尋ねると、「IBMのグリッドとの違い? 彼らはAPIとツールを提供しているに過ぎない。コンサルティングや開発が必要になる」とサウダー氏。Oracle 10gでグリッドの機能を活用するには、アーキテクチャ的に言って、アプリケーションの書き換えは必要ない。E-Business Suiteをはじめとするパッケージソフトウェアもそのままグリッドで稼動する。Oracle9i RAC(Real Application Clusters)の場合と同様、ISVがクラスタ化された構成で認定を受けるかどうかだ。
基調講演後、プレスQ&Aセッションに臨んだフィリップス氏も、「IBMのオンデマンドは、初めに巨大なボックスを買い、必要に応じてCPUを追加するアプローチ。業界標準のIAサーバによる小さなRACシステムの構築から始め、必要に応じてIAサーバを追加してグリッド化していくOracle 10gとは大きく異なる」と答え、IBMとの違いを強調した。
フィリップス氏はまた、基調講演では敢えてライバルの名前を口にしなかったものの、「グリッド構築の第一歩は共有すること」とし、「ストレージプール」「データベースクラスタ」「アプリケーションクラスタ」をそれぞれ共有することが重要だとした。ディスクを共有する方式のOracle9i RACは着実に実績を重ねており、世界550社の顧客がRACを本番稼動中だという。
Oracle 10gでは、RACの構築も一層容易になる。新たにクラスタワークロード管理ソフトウェアが提供され、コンピューティング能力の再配分がピークに合わせて柔軟に行えるようになるという。
基調講演では、IAサーバとLinuxでOracle9i RACを稼動させている米Amazon.comのオーエン・バン・ナッタ副社長がステージに招き上げられた。同社では、自社のサービス向けに構築したプラットフォームをToysrus、Target、Borders、Nordstromといった小売業者にも提供しているという。Oracle 10gは企業のデータセンターはもちろんだが、Amazonのようにさまざまな小売業者向けにASP事業を展開する企業にもアピールするに違いない。
ストレージベンダーとも提携発表へ
運用管理の省力化という点では、Oracle Database 10gに搭載される自己管理機能が見逃せない。Oracle 10gでは、パフォーマンスの問題が発生した場合、その原因を特定し、取るべき適切な措置をアドバイスしてくれるという。また、Oracle 10gでは新たに「Automatic Storage Management」(ASM)ソフトウェアも提供され、ストレージに対する負荷も自動的に分散してくれるという。こうすることでアクセスが集中する、いわゆる「ホットスポット」の発生を絶えず監視する必要はなくなる。Oracleでは、こうした機能が標準で搭載されたことによって、もはやサードパーティーのボリューム管理ソフトウェアやファイルシステムを購入する必要はないとしている。
Oracleは米国時間の9月10日、EMC、日立製作所、Hewlett-Packard、Network Appliance、およびXiotechといったストレージベンダーらとのアライアンスを改めて発表し、ASMと彼らのNASやSAN製品がシームレスに連携できることを明らかにする予定だ。
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[浅井英二,ITmedia]