顧客目線の業務プロセス改革でSAP導入に成功エンタープライズSOAで次世代ITシステムの構築に挑むオリンパス

オリンパスは2003年からSAP導入プロジェクトを全社的に進めてきた。業務プロセスを顧客のメリットという観点から見直し自らの手でプロセスを整理、そこにSAPパッケージの機能を当てはめていくことで理想的なシステムを目指した。ここではそうしたアプローチで導入を成功させたオリンパスに、ITmedia エンタープライズ発行人の浅井英二が話を聞いた。

» 2007年06月18日 10時00分 公開
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業務に合わせてシステムを「組み合わせる」

 企業にとって、既存のシステムを全面的にERPパッケージで置きかえるのは並大抵の苦労ではない。ERP本来のメリットを生かすためには、既存の業務フローをがらりと変更しなければならないことがしばしばある。しかも、それだけの痛みを伴ってなお、ERPを効果的に生かし切れていない例が散見される。

 オリンパスでは、2002年の経営基本計画においてSAP ERP導入を社内で決定した。これまで大型コンピュータ上に構築してきたオーダーメイドの基幹システムを、汎用のサーバ上で動くSAPによってすべて置きかえようというのだ。BPI(Business Process Innovation)と名付けられたこのプロジェクトは2003年から4年の歳月をかけて実施され、2007年5月に一応の完成を見た。当然ながら、これだけ巨大なプロジェクトとなると、会計・人事などのシステムを順次導入していくことになり、これらサブプロジェクトごとに多数のシステムベンダーが参加した。

 一般的にERPの導入では、システムベンダーが主導となり、プロセス定義や要件定義を行って、ERPのベストプラクティスに合わせて業務プロセスを定義していく。どうしても合わせ切れない部分については、アドオンを開発して対応することになる。実際、BPIプロジェクトにおいても多くの基幹系業務システムはこうした手法を用いて導入が進められた。

 しかし、BPIプロジェクトの中心人物のひとりで、当時オリンパス コーポレートセンターのIT戦略推進室長であった北村正仁氏(現在はIT統括本部 IT改革推進部 IT基盤技術部 部長)は、このようなERPの導入に違和感をぬぐえずにいた。また、北村氏は、自身が率いる修理サービスシステムにおいてSAP CRMを導入しようと考えていたが、これについてもシステムベンダー側からは否定的な見解しか出てこなかった。

浅井 なぜ、ベンダー主導のシステム導入に不信感を?

北村 私が理解できるようにERP導入手法を説明してくれるベンダーがいなかったからです。どのベンダーも『大丈夫ですから、私どもにすべてお任せください』と言うだけ。また、ほとんどのベンダーは『品質が安定している前のバージョンを使いましょう』といって最新バージョンを使いたがりません。導入を決めていたSAP CRMは当時4.0が最新バージョンだったのですが、これはまだ安定していないからと、では3.0ではどうかというと『それよりもこちらの製品を使いましょう』と別の製品を提案される始末でした。

 しかし、あるコンサルタントからのアドバイスに出会ったことでCRMの導入プロジェクトは大きく動き始める。その導入手法は、北村氏の疑問をすっきりと解消してくれるものだったのだ。CRM 4.0も適切に導入すればちゃんと「使える」ソリューションなのだという。そこで北村氏はSAPジャパンに協力を求め、CRMプロジェクトを推進していった。

浅井 そのアドバイスを受けた導入手法とは?

北村 それは、システムに業務プロセスを合わせる、のではなく、業務プロセスに合わせてシステムを、『組み合わせる』ということでした。

システム構築は寸劇から始まった

 幸いなことに、すでに業務プロセスが出来上がっている多くの基幹系の業務とは異なって、修理サービス業務はゼロから業務プロセスを作り上げる必要があった。産業事業、医療事業、ライフサイエンス事業と、これまで修理サービスのシステムは部門ごとにバラバラだったのだが、SAP導入を機にシステムを統合化することになったのだ。

 業務プロセスを構築するために、北村氏のチームが最初に行ったのは、意外な作業だった。

Photo オリンパス コーポレートセンター IT統括本部 IT改革推進部 IT基盤技術部 部長 北村正仁氏

北村 業務プロセスを洗い出すため、チームで寸劇をやりました(笑)。例えば、内視鏡の修理依頼を受ける業務では、医者や看護師、サービスセンターの修理マンなど、業務にかかわる人間を決めて、内視鏡が故障したときにどのようなことが起こるのかを考えながら演じてみます。こうすることで実際の業務で何が起こっているのか体験できます。もしかしたら、ユーザーは別々の窓口に何度も電話をする羽目になっているかもしれません。あるいは、代替え品を手配する上での情報がサービスセンターのメンバー間で共有されていないかもしれません。こうやっているうちに、顧客視点での理想的なプロセスの姿が見えてきました。

 この段階では、あるべき業務のプロセスを作り、それをExcelで作ったシートに書き込んでいった。修理品の受け取り、代替え品の発送、工数見積、在庫確認、納期決定などなど。重要なのは、この過程をシステムベンダー任せにしなかったということだ。あくまで、オリンパス自身が業務プロセスを作っていった。

 ここまでできて初めてシステムベンダーが参加する。Excelに書き込まれた業務を、SAPモジュールの細かな機能に落とし込んでいく。業務によっては手作業の方が効率的なこともあるので、それも含めた業務プロセスをデザイン。あとは、システムベンダーがシステムの実装作業をこなしていくだけだったが、カットオーバーまでのタイムリミットは迫っていた。

浅井 実際の稼働までの苦労は?

北村 寸劇などの業務プロセス作成に時間を取られてしまったため、実装やテストに十分な時間を取れないのではないかと非常に心配でした。ところが、実装作業やテストはあっけないほどスムーズに完了し、2005年5月には無事稼働しました。

 業務プロセスを従来とは大幅に変更したため、当初1カ月ほど現場は混乱したものの、その後無事に収束したという。

アドオンの少ない、安定したシステムを実現

浅井 スムーズな導入ができた大きな要因は?

北村 それは、業務プロセスを細かく分割してSAPモジュールの機能に当てはめていったことにあります。一般的なSAP採用システムは数百ものアドオンを開発すると言われていますが、修理サービスのシステムで開発したアドオンはたったの9個でした。アドオンが少なければ少ないほど、開発工程も少なくなるし、バグも少なくなります。

浅井 とはいっても、当然ながらシステムの利用者にはさまざまな要望があり、それらをすべて聞いていては、結局アドオンの山が出来てしまう。いったいどうバランスを取るべき?

北村 まず『お客様に価値のあること以外やりません』という大方針を掲げました。要望が上がってきたら、この大方針に照らし合わせてその機能が必要かどうかを検討します。単に、自分たちの工数が減るというだけのものに関しては却下していったのです。

 アドオンの必要があると思われた業務も、よく調べてみるとSAP CRMの標準機能でカバーできることが多かったという。例えば、サービスセンターに送られてきた修理品の付属品についても記録を残しておく必要があるが、SAP CRMにはその機能がなかった。だが、標準機能であるアンケートフォームを流用することで、要望通りの機能がアドオンなしで実現できた。

北村 今になって振り返ってみると、これこそが世の中でいうSOAの考え方なのだと思います。また、システムは最新バージョンで作るべきだと実感しました。もちろん人間の作るものですから、最初のうちはバグもあります。しかし、ERPは急激な勢いで進化していますから、最新バージョンを使うメリットの方が高いのではないでしょうか。

 修理サービスのシステムを主体的に構築したことにより、オリンパスにもERPのノウハウが蓄積されてきた。そうなると、次に挑戦すべき課題も見えてくる。それは、システムのさらなる統合化・構造化である。後編では、その試みに踏み込んでいくことにする。

後編はこちら

企業紹介:オリンパス株式会社

精密機器メーカーとして名高いオリンパス株式会社は、デジタルカメラなどの映像分野(オリンパスイメージング株式会社)をはじめ、医療分野(オリンパスメディカルシステムズ株式会社)、情報通信(ITX株式会社)、ライフサイエンス・産業分野まで幅広い事業領域をカバーしている。同社は日本企業として早くから海外展開を進めており、現在では海外売上比率が約60%。幅広い分野での事業展開、グローバル連携をさらに推進するため、SAPのERP導入を柱とするIT戦略を積極的に進めている。

http://www.olympus.co.jp/


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提供:SAPジャパン株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年7月18日