栗原潔 「永遠の課題」を過去のものにするEnterprise2.0の勧め情報共有のパラダイムシフト、いま出来ない企業に明日はあるのか?

Harvard Business Schoolのアンドリュー・マカフィー教授が2006年に提唱した「Enterprise2.0」は、ナレッジマネジメントの従来型アプローチが抱えていた課題を解決し、現場中心の「カイゼン」をさらに加速する可能性を秘めている。

» 2008年03月17日 10時00分 公開
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 何にでも「元年」はあるが、この業界で毎年、元年が叫ばれている領域のひとつに「ナレッジマネジメント」がある。企業では社員のコラボレーション、知識の共有、そしてコンテント管理は、「永遠の課題」なのだ。しかし、コンシューマー市場で人気のWeb2.0系テクノロジーなら、企業においても従来型アプローチのハードルを下げ、組織に新たな差別化をもたらしてくれる可能性がある。企業における情報活用や知財管理の分野で幅広く活動するテックバイザージェイピーの栗原潔氏にITmedia エンタープライズ編集長の浅井英二が話を聞いた。

photo テックバイザージェイピー 代表取締役 栗原潔氏

浅井 正直、「2.0」には食傷気味です。何か手垢が付いてしまっているようで、「Enterprise2.0」も随分と損をしていると思いますが、どんなことを指しているのでしょうか?

栗原 Harvard Business Schoolのアンドリュー・マカフィー教授が2006年に提唱した概念で、ブログ、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)、Wiki、RSS、ソーシャルブックマークといったWeb2.0系のコラボレーションテクノロジーを企業内で活用しようという考え方です。「企業内Web2.0」「エンタープライズ・ソーシャル・コンピューティング」などと呼び替えてもいいかもしれません。

浅井 Enterprise2.0の本質というか、重要性はどこにあるのでしょうか?

栗原 企業では社員のコラボレーション、知識の共有、そしてコンテント管理は、「永遠の課題」とされてきました。長年にわたって情報システム部門の重要案件として挙げられているにもかかわらず、決定的な解決策が存在しない状態です。

 従来型のグループウェアも、今日の企業に求められる柔軟性を十分に提供できていないケースが多いのではないかと思います。その一方で、インターネットの世界では、若い世代を中心にWeb2.0系のテクノロジーを活用した、自由で柔軟な情報交換が行われています。このようなWeb2.0のパワーを企業内で活用しようという動きが出てくるのは当然と言えるでしょう。

浅井 Enterprise2.0の具体的内容はどのようなものでしょうか?

栗原 マカフィー教授は、Enterprise2.0を「SLATES」(文字を刻む石板 の意)という言葉で説明しており、6文字はそれぞれ以下のような意味を表しています。

  • 情報を検索する(Search)
  • リンクする(Link)
  • ブログなどのコンテントを作成する(Author)
  • タグ付けする(Tag)
  • 分析して情報を付加する(Extend)
  • 更新を必要な人に通知する(Signal)

 これらは特別なことではなく、ある程度熟練したインターネットユーザーであれば、普段から慣れ親しんでいることでしょう。

浅井 今日のITでは、コンシューマー市場で人気を得たテクノロジーが、企業の情報システムにも影響を与えるケースが増えています。これもそのひとつの例でしょうか?

栗原 はい、「コンシューマリゼーション」や「産消逆転」という言葉で呼ばれることがありますが、まさにそのような動向の一例と言えるでしょう。一般に、今後は企業の情報システム部門もコンシューマー向けテクノロジー、特に若い世代が使いこなしているテクノロジーを企業内で活用できないか、というという点に留意していく必要があるでしょう。

従来型KMの課題を解決するEnterprise2.0

浅井 従来型のコラボレーションや知識管理を目指したシステム、いわゆる「ナレッジマネジメント」(KM)の課題はどこにあったのでしょうか?

栗原 従来型のKMもEnterprise2.0も、社員同士の知識共有とコラボレーションによって組織の新たな差別化を目指す、という目標においては共通しています。しかし、従来型のアプローチでは、インフラを用意しても、以下のような課題がありました。

  • 肝心の知識コンテントがなかなか蓄積されない
  • 知識コンテントが蓄積されても有効活用できない
  • 一般的な情報しか蓄積されず差別化に結びつく情報が蓄積されない
  • 知識コンテントの整理や分類の負荷が大きい
  • 知識コンテントのリアルタイム性が不足している

 これらが従来型KMの代表的な課題となっています。

photo ITmedia エンタープライズ 編集長 浅井英二

浅井 Enterprise2.0はそのような課題の解決策になるのでしょうか?

栗原 これらの課題は特定のテクノロジーを導入すれば自動的に解決できるという性格のものではありません。しかし、Enterprise2.0を適切に導入し、活用していけば、従来型のKMの課題を解決できる可能性が高いと思います。

 上記の各課題に対する解決策を考えてみると、以下のようになるでしょう。まず、知識コンテントがなかなか蓄積されないという課題は、SLATESの「S」(Search)に相当するエンタープライズサーチが1つの解決策になるでしょう。

 エンタープライズサーチを活用すれば、既存のコンテントを1カ所のリポジトリに逐一コピーする必要はなくなります。人が意識的に情報を統合しなくても、エンタープライズサーチのクローラーが自動的にインデックスを作成してくれることで、仮想的な統合が実現されるわけです。また、サーチ結果のランキングアルゴリズムが適切なものであれば、重要な情報を上位に表示することができ、知識情報の有効活用にも結びつくでしょう。

浅井 サーチのランキングと言えばGoogleの重要成功要因となった「リンク分析」が有名ですが、それは使えないのでしょうか。

栗原 残念ながら、企業内ではリンク分析はあまり有効とは言えません。企業内では文書間でリンクを張るケースはあまり多くなく、また、ユーザー数もインターネットと比較して遙かに少ないので、あまり意味のある結果が得られないと思います。

 企業内では、タグやソーシャルブックマークを活用したランキングが重要だと思います。例えば、何らかのニュースの発生により重要度が急に高まったコンテントが、直ちにサーチのランキングの上位に表示されるような仕組みをつくることができれば、情報のリアルタイム性不足という問題も改善されるでしょう。



誰でも集合知づくりに参加できるEnterprise2.0

浅井 タグを付ける、というのは「フォークソノミー」という考え方ですね。

栗原 はい。情報の分類(taxonomy)を、一般の人たち(folk)が行うということから生まれた造語です。一般に知識コンテントの分類は多次元的かつ流動的で困難な課題ですが、ユーザー自身が使いながら情報にタグを付けていくことで、ボトムアップで自然発生的に情報の分類が行われるということです。

 従来のトップダウン型の分類作業であるタクソノミーが不要になることはありませんが、タクソノミーとフォークソノミーを上手く組み合わせることでより高い効果が出せるでしょう。

 フォークソノミーは、いわゆる集合知の価値を高めるための重要な考え方です。企業が有する知識コンテントの価値を高めるためには、コンテントを作成すること、つまり、SLATESの「A」(Author)が欠かせないのですが、積極的なタグ付けで情報の分類やランク付けに貢献すること、つまり、SLATESの「T」(Tag)と「E」(Extend)だけでも大きな価値があります。

 KMシステムをつくったからといって、全社員に等しくコンテントを作成することを要求しても、現実には難しいでしょう。実際に積極的にコンテントを提供するのは一部の社員だけ、という話はよくあります。

 しかし、例えば、ほかのユーザーが「役に立つ」というタグを付けるだけでも、それは情報に価値を付加していることであり、企業の集合知形成に貢献していることになります。誰もがそれぞれのやり方で組織の集合知づくりに貢献できるという柔軟性が、Enterprise2.0の優れた点であると思います。

浅井 ところで、SNSは、知人同士のコミュニティーという安心感があり、コンシューマー市場で人気です。こうした仕組みは企業内でどのような価値を提供するでしょうか?

photo

栗原 既に触れたとおり、従来型KMの課題の1つに、真に差別化に有用な知識が蓄積されない、というものがあります。SNSはこのような課題に対する部分的な解決策になる可能性があるとみています。

 従来型の掲示板、そして、ブログでも言えることですが、あまりに情報が公開されすぎてしまうことが障害となることがあります。つまり、全社員の目が届くような場であると、真に重要な情報はなかなか書きにくく、誰でも既に知っているような一般的な情報しか書けないということです。逆説的なようですが、ある程度情報公開をクローズドにすることで、より重要な情報がオープンになるということがあるでしょう。

 事業部、部門、特定のタスクフォース内で閉じたコミュニティーを動的につくることができる社内SNSを提供することで真に重要な知識を「need-to-know」がある人のみに公開することができるようになります。これにより、重要な知識が特定の人の頭の中に留まるのではなく、組織内で共用される可能性が高まるでしょう。

 ただし、運用上十分な注意を払わないと、SNSが派閥形成促進システムのようになってしまうリスクはあるでしょう(笑い)。

Enterprise2.0導入のポイントは?

浅井 Enterprise2.0を企業内で成功裏に導入するにはどのようなポイントがあるでしょうか?

栗原 Enterprise2.0のテクノロジー自体はそれほど複雑なものではありません。成功のポイントはテクノロジー面よりも、企業文化をどのように変えられるかという人的および組織的な面にあります。

 重要なポイントは、まず多くの社員に使ってもらうことだと思います。過剰に厳格なルールを設定するのではなく、敷居を低くすることが重要でしょう。極端な話、ブログの内容の90%が業務に直接関係がない話だとしても、それによって社員のコミュニケーションが円滑になり、残りの10%から重要な業務のヒントが得られれば十分元が取れます。

浅井 企業は絶えず世代交代によって新陳代謝するものです。デジタルネイティブな若い世代の力を生かすことの重要性も指摘されています。

栗原 既にWeb2.0系のテクノロジーを活用している若い世代のアイデアを積極的に取り入れることは重要だと思います。これは、日米問わず言えることですが、Enterprise2.0に対しては現場の若年層とシニアマネジメントは理解があるが、ミッドマネジメントがなかなか理解を示してくれないケースが多いようです。もちろん、Web2.0系テクノロジーを既に使いこなしているミッドマネジメントも多いとは思うのですが、そうでない方はぜひ自分でブログ、SNS、ソーシャルブックマーク、RSS、エンタープライズサーチなどを使ってみてください。「こんなに便利だったのか」と気づくはずです。

浅井 実際に使ってみることで、Enterprise2.0をどのように生かせるか、アイデアも生まれてくると思います。多くの企業では、今も電子メールがコラボレーションや情報共有の主たるツールとして使われていますが、これでは必要な情報にたどり着かなかったり、時間がかかったりします。Enterprise2.0は米国から始まった動きだと思いますが、日本国内ではどの程度普及しているのでしょうか?

栗原 残念ながらまだまだという状況だと思いますが、いくつかの先行的な事例は出ています。4月17日に弊社主催でEnterprise 2.0 Summitを開催しますが、そこではエプソンダイレクトをはじめとする日本企業の事例セッションを行う予定です。また、マカフィー教授のビデオ基調講演も行います。

 幸いなことに、Enterprise2.0のテクノロジーの導入はそれほど大きな投資を必要とするわけでもなく、ユーザーにも敷居が低いものです。まずは使ってみるというアプローチが取りやすいと言えます。そもそも、「カイゼン」という言葉にも表れていますが、日本人は現場中心のボトムアップ型の活動が得意だと思います。Enterprise2.0によってホワイトカラーの「カイゼン」を目指すことの意義は大きいと思います。


日本で初めての本格的なEnterprise2.0 イベント 「Enterprise2.0 SUMMIT 2008 Tokyo」開催!          
ゲスト
スピーカー
Andrew P. McAfee 氏 (Enterprise2.0の提唱者) ※ビデオ出演
Andries van Dam 氏 (ハイパーテキストの第一人者)
Joseph Newsum 氏 (米国マッキンゼーのリーディングコンサルタント)
日時 2008年4月17日(木) 10:30〜18:00 (10:10 受付開始)
会場 WTC コンファレンスセンター (東京・浜松町・世界貿易センタービル 38階)
参加費 無料 (通常 10,000円) ※招待コード「ITMED」を入力してください
主催 株式会社テックバイザージェイピー
共催 株式会社エス・イー・ラボ  Traction Software, Inc.
協賛 株式会社アプライドナレッジ
グループネット株式会社
株式会社アセントネットワークス
ミラクル・リナックス株式会社
QL2 Software, Inc
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提供:株式会社エス・イー・ラボ
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2008年4月16日