不況の中でこそ飛躍を――IT部門は全社的な体質改善に備えよNRI「IT運用のコスト削減と品質向上セミナー」レポート

6月19日に開催された、NRIによる「NRIのITの運用と統制における『コスト削減』と『品質向上』の事例とその手法」と題されたセミナーでは、目下の不況からの脱出に備えて企業が、そしてIT部門がどう取り組むべきかについて、事例を交えた解説が行われた。

» 2009年07月13日 10時00分 公開
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NRI 千手事業部 部長 石井信一郎氏

 「現在は、まさに嵐のような経済状況。IT運用においては、環境変化への対応が、より一層強く求められる」と、セミナー冒頭の挨拶で語ったのは、NRI千手事業部 部長の石井信一郎氏。

 厳しい経済状況の中で、多くの経営者がIT部門を含め全社的に厳しいコスト削減を求めている。しかし、いよいよ明るい兆しが見えつつある不況後に備えるためには、IT部門が企業全体の業務改革に積極的に関与できるような体質改善を進めていく必要がある。こういったテーマが、今回のセミナーの主旨だ。

 なお、石井氏が現職に就いたのは今期から。3月までは同社の統合システム運用管理ツール「Senju Family」の新バージョン(Ver.10.0)の開発責任者としてプロジェクトを推進した。NRIはITアウトソーシングサービスも手掛けているが、そこで培ったノウハウがSenju Familyに反映されている。Ver.10.0では、特に近年の同社の取り組みが新機能として数多く盛り込まれた。

 「当社のデータセンターでは、約350社もの顧客企業の、5000台あまりのサーバを運用しており、そのジョブの数は70万件にもなっている。これだけの台数規模で運用するとなると、アラートイベントも“洪水のように”押し寄せてくる。その対策として、イベントのフィルタリングや自動アクション、ジョブの電子申請や自動リリースなどを開発してきた。もちろん、効率的な管理を行うには、標準的な運用フレームワークを作り上げ、運用基盤を標準化するなど、全社横断的な活動を続けていくことも欠かせない」(石井氏)

IT部門は経営トップの期待に応えられる企業革新パートナーへの転身を

 6月17日に政府が発表した月例経済報告では、「悪化」の表現が削除された。このような状勢変化を受けて、「今だからこそ考えたい体力増強戦略〜景気回復後の飛躍に備えて〜」と題したセッションで講演した、産業ITコンサルティング部 上級システムコンサルタントの畑島崇宏氏は、「経済状況は、未だ予断を許さないものの、安定化の兆しが見えつつある。そろそろ経営者も“守り”から転じ“攻め”へ舵を切る時期」と語った。

NRI 産業ITコンサルティング部 上級システムコンサルタント 畑島崇宏氏

 「現在、多くの企業では、危機的な経済状況に直面し、とにかく会社や事業を守るべく必死にコスト削減を進めて切り抜ける“危機対応モード”に入っている。しかし、これから半年〜1年の間には、平時への回帰を考慮に入れた経営戦略へ転換していく必要がある」(畑島氏)

 “危機対応モード”のコスト削減圧力は、当然ながらIT部門に対しても厳しいものとなっている。だが実際には、日本の多くの企業において、不況以前からIT部門の存在意義が変わりつつあったと畑島氏は指摘する。

 「すでに情報化が一巡しており、ユーザーのITニーズには変化が生じつつあった。不況は、それに追い打ちをかけただけ。だからこそ、IT部門は受け身の姿勢から、経営トップの期待に応えられる企業革新パートナーへの転身を図るべき」(畑島氏)

 経済危機を契機に企業体力を増強した例として、畑島氏は韓国サムスンを挙げた。1997年にアジアの通貨危機が発生、韓国経済は史上最大の株価下落幅を記録するなど深刻な打撃を受けた。サムスンも経済危機に巻き込まれたが、以前から品質への強い危機感があって進めてきた業務改革を、一気に加速させていく。こうして、その後の10年間で売上高4倍という急成長を遂げるにいたったのである。さまざまな体力増強策の一環として、サムスンはITを積極的に活用し、業務プロセス革新を実施した。

 「例えば2000年度にサムスンが挙げた利益である1兆円のうち、4000億円分がITによる効果とみられている。このような業務改革を支援できるIT部門が、日本企業にあるだろうか」と畑島氏は言い、IT部門が採るべき方向性を3つのポイントとして紹介した。

 まず“基本に帰る”こと。IT部門自身の業務革新に取り組み、基礎体力を強化する。次に“変革を進める”。IT部門の構造改革を進め、既存IT部門の役割を超えて事業に貢献できる力を強化していく。そして“次の飛躍に備える”こと。業務部門と一帯となってオペレーション改革に取り組み、情報化を通じて前者オペレーションの立て直しに貢献していく。

 「例えば、『この厳しい経済状況は、むしろ改革に取り組む絶好の機会』として、IT部門とユーザー部門とが一体となって業務オペレーション改革を推進し、“次の飛躍に備えている”企業もある。あるいは、“変革を進める”“基本に帰る”の段階に取り組んでいる企業もある。このような取り組みを進めて、経営トップに認められるIT部門へと変身していってほしい」(畑島氏)

洪水のようなイベント、リリース作業、ジョブ登録に立ち向かう

 IT部門の基礎体力を高める施策として、IT部門自身の業務を効率化していくことは非常に重要だ。特にシステム運用において、その効率が悪ければ運用担当者のミスを招きやすくなり、また開発部門への問い合わせも増加して開発生産性まで低下してしまう。そうなれば当然、業務革新を支えるなど、考えている余裕もなくなる。

NRI 千手事業部 副主任コンサルタント 應和周一氏

 千手事業部 副主任コンサルタントの應和周一氏は、「NRIのシステム運用での品質向上とコスト削減」と題した講演で、NRIが自社データセンターを運用していく中で取り組んだ効率化の具体例について紹介した。

 NRIのデータセンターでは、石井氏が冒頭の挨拶で触れた通り、顧客企業数百社の、数千台ものサーバを運用している。その中で、運用担当者は月間数十万件にものぼる洪水のようなイベントと、月に数千件ものリリース作業に追われ、高い業務負荷を抱えていた。

 「1分に10件ものメッセージが上がってくるが、詳しく調べてみれば、このうち40%は開発者が念のためメッセージを出すようにと設定していたような“無視できる”もの。この対応手順は開発者の暗黙知のみであり、標準化や自動化がなされていないため、高負荷を招いていた。また、リリース作業に関しても、全体の14%あまりが実施スケジュールの調整などに費やされていた」と應和氏は話す。

 こうした課題を解決すべく、NRIではイベント管理や変更管理の改善、人材育成に取り組んだ。

 イベント管理では、無視すべきメッセージを監視コンソールでフィルタリングできるようにしたり、イベントの対応手順自動化を進めたりする一方、運用受け入れ基準の策定と徹底にも取り組んだ。変更管理については、ワークフローと進捗管理ツールを開発・導入し、ジョブ登録作業の自動化を実現した。そして人材育成としては、従来から使っていた教材をさらに充実させ、書籍のみならず、e-ラーニングでも利用できるようにしたほか、ヒューマンスキル向上のために語学などIT以外の分野についても研修を行うようにしたという。

 「イベント数は、2004年に比べて2006年約40%減少、変更管理の際の調整作業負担も半減した。そしてオペレーターの数も減らせるようになり、約25%を配置転換しつつ、さらにオペレーションの品質も向上した。例えば2008年には、オペレーターに起因するインシデントは1件もなかった」(應和氏)

イベント管理や変更管理を効率化する最新のツール群

 應和氏の説明にあった、NRIの社内で作られたツール群は、Senju Family Ver.10.0の新機能として盛り込まれている。NRIでは6月1日、「Senju Operation Conductor Ver.10.0」「Senju Service Manager Ver.10.0」の販売を開始した。Senju Familyを構成する4製品のうち2つだ。運用自動化推進部 主任システムエンジニアの勝崎繁氏と大平亮氏が、それぞれの新機能について、デモを交えつつ紹介した。

NRI 運用自動化推進部 主任システムエンジニア 勝崎繁氏

 Senju Operation Conductor Ver.10.0には、“無視できるメッセージ”の削減や、イベントへの対処を自動化するための各種機能が追加されている。イベントを分類してフィルタリングしたり、イベントへの自動対応スクリプトなど、既存のツールで実施できそうだとは誰でも思うところだが、それを実際に運用するには課題もあったと勝崎氏は話す。

 「同じ障害イベントでも、発生ノードによって対処が異なったり、平日と休日とで連絡先が異なったりするなど、柔軟な条件設定が必須だった。また、条件設定や対応手順書は、システムを熟知している開発部門主導で作成される。開発と運用の職務分離が進むにつれて、開発部門と運用部門の円滑なコミュニケーション作りが重要とになってきている」

 これらの課題を解決するために、Senju Operation Conductorでは2つの新機能を追加した。「メッセージアクション」機能、「ランブックオートメーション」機能である。

 「メッセージアクション」機能では、発生したイベントの切り分けを行い、切り分けた結果に応じたアクション(対応)を自動的に行うことができる。また、「ランブックオートメーション」機能では、手順書に従い実施するオペレーション(出力内容やタイミングなど人の判断を要する部分)を自動実行することができる。これにより、オペレーターが手作業で行っている、イベントの切り分け・対応業務を自動化することができる。複雑な手順であっても、ヒューマンエラーを起こすことなく、迅速な障害対応が可能となる。

 これらの設定は、千手オフライザというオフラインの自席PCで利用可能なツールで、作成・参照することができる。千手オフライザで作成した定義データは、運用部門で再登録することなく、そのまま本番環境に適用することができる。これにより、開発部門主導で切り分け条件・対応手順書の作成・リリースが可能になる。

 勝崎氏は最後に、イベント対応の自動化でコスト削減を目指す際のポイントを3つ挙げた。

 「まずは、“無視できるメッセージ”など効果の出やすいテーマから実施すること。そして運用管理ツールをフル活用する。最後に人的な面として、PDCAサイクルを回して改善を進めやすいような仕組み、仕掛けを作ること。システムは常に変化しているものだから、運用にも開発部門が関わるような形が望ましい」(勝崎氏)

運用自動化推進部 主任システムエンジニア 大平亮氏

 Senju Service Manager Ver.10.0開発担当の大平氏は、運用の負荷軽減や品質向上を目的として開発した変更管理ワークフロー機能を中心に、事例を交えて同製品の紹介を行った。

 このワークフローでは、申請者、承認者、変更作業者、変更作業のチェック担当といった役割に応じて、それぞれ行うべき業務フローを設定することが可能で、確実に手順を守って変更管理を進められる。これらの設定した業務フローに応じて、自由な権限設定を行うことが可能であり、多様化する変更申請を柔軟に実現することができる。もちろん変更管理の証跡を残すことも、その証跡を後で閲覧することも可能だ。また、変更管理の結果だけでなく、変更における業務フローで行われた全ての行為を記録する機能も有しており、関係者が進捗や経過を確認することも容易である。

 紹介したアプリケーション開発部隊の事例では、ユーザーからの変更申請が管理者の承認を経てアプリケーションの開発担当者に届き、この開発担当者の作業が終わったところで開発担当者のリーダーが承認、さらに受け入れる立場である保守リーダーが確認するといった業務フローであった。この業務フローを前述の変更管理を用いて実現している。この事例の中で業務フローに基づいて、権限に応じた機能や画面構成例について説明した。

 例えば承認権限を持つ「管理者」であれば、ログイン後の画面上にタスクとして承認待ち案件が出てくるので、確認漏れの心配がない。ほかにも、開発担当者のリーダーが変更申請を承認しない場合の対応として、変更申請そのものを棄却する「却下」に加えて、任意の担当者に業務フローレベルを戻す「差戻し」も実行できるよう権限を付与し、より統制の取れた変更業務を実現している。

 「変更管理に取り組む企業は増加傾向にあり、Senju Familyの出荷動向も、変更管理の割合は年々増加してきている。ITの品質向上に有効な手段である変更管理に対する取り組みの増加は、IT全般統制への対応がいよいよ発展期に差し掛かってきたということではないかと考える」(大平氏)

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NRIのITの運用と統制における「コスト削減」と「品質向上」の事例とその手法

NRIでの取り組みとその効果を紹介するとともに“Senju Family”の新バージョンを紹介する。

 ITコストの削減、特に割合の大きい運用コストの削減は、どの企業においても喫緊の課題だ。一方、IT統制という新たな業務が加わり、益々IT 運用の重要性が高まっている。その為、聖域なく一律に運用コストを削減することは、ITサービスの品質を下げ、企業業績に影響を及ぼすことから、避けるべきだと考える。

 NRIは、様々な取り組みを通じて、顧客システム運用や統制での品質を向上させながらの運用コスト削減を継続的に行っている。本セミナーでは、それら取り組みとその効果についてご紹介するとともに、取り組みで得られた経験をもとに開発したSenju Familyの新バージョンを紹介する。

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提供:株式会社野村総合研究所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2009年8月12日