第3回:マルチチャネル環境下でのデータ統合顧客データ活用のABC

消費低迷環境下において顧客からの支持を得るためには、自社の顧客を深く理解する能力が求められる。当連載「顧客データ活用のABC」では、顧客データを分析し、活用に導く枠組みを解説してきた。第3回目では、これを実現するためのデータ基盤を考察する。

» 2009年09月16日 10時00分 公開
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顧客データ活用のABC INDEX
第1回:顧客データのプロファイリング (別ウインドウで開きます)
第2回:分析でキャンペーンポイントを導き出す (別ウインドウで開きます)
第3回:マルチチャネル環境下でのデータ統合

 顧客に関する履歴データは全て、顧客と自社の間に起こった対話の記憶である。ヒトとヒトとのパーソナルな関係を考えた場合、記憶は頭脳の中に蓄積される。相手となんらかのコミュニケーションを図る場合には、それまでの記憶が想起され、それまでの記憶が円滑なコミュニケーションを支援する。

 しかしながら幸か不幸か、今日の企業は非常に数多くの顧客とコミュニケーションを図る必要があり、故にそれぞれの顧客との記憶を想起することが困難になっている。この記憶と想起を支援するのがデータウェアハウスであり、顧客との関係性を維持/拡大していく上で不可欠な存在となっている。

マルチチャネルデータの保持方法

 このような要件に対して、データが分散されて保持されていては、本来の役割を果たすことができない。ある顧客のデータがチャネルごと、もしくは契約商品ごとに分断され、さらには重複して別々の顧客として扱われていたなら、記憶として蓄積されていても、実質的に想起の役割は果たしていない。

 そして、マーケティング活動に関連するデータとして、最も分断されているケースが多いのは、チャネルに関するデータである。当然ながらチャネルごとに機能が異なるため、ある程度のデータ差異があるのは当然だが、単一の顧客をチャネル横串で把握するためには、データ保持方法に留意しなければならない。

 チャネルを横串で見る際、チャネルに対して顧客から接触をする「インバウンド」アクセスと、企業の側から顧客に接触する「アウトバウンド」アクセスが存在していることに着目すべきだ。当然アクセスの内容は、各チャネルの機能と顧客行動、企業行動によって異なってくる。従って、詳細レベルでのデータ管理は各チャネル特有の発生データに基づいて実施される。

 しかしながら各チャネルは、単一のチャネル階層内に位置付けられなければならない。これによって上位集計と同一階層内のチャネル間比較が可能となる。インバウンドアクセスの多いチャネルは「コールセンター」か「物理店舗」か、売上が多いのは「物理店舗」か「Webサイト」かを理解するには、各チャネルを階層管理することが求められる。

一度収集すれば、何度でも活用できる

 チャネルに限らず、このような統合的管理を実現するためには、想定されるデータ項目を全て洗い出し、サブジェクト(主題: チャネル、商品、顧客等)ごとにグループ化し、重複無く保持できるようなデータベース・レイアウトを有する必要がある。また、適切にデータ間のリレーションを設定することによって、データとデータを結合させ、自由に分析できる形式で保持することも必要だ。

 このような特性を持つデータ保持の形式を「正規形」と呼ぶ。詳しい説明は割愛するが、サブジェクトごとにデータを重複無く、適切なリレーション設定して管理すれば、どこにどんなデータ項目があるかが明確になり、柔軟にデータの集計や比較が可能となる。身近な例で喩えるなら、特定の目的に応じて作られたデータをカレーライスとすると、サブジェクトごとに管理されたデータはカレー粉、お米、ニンジン、タマネギ……といった素材のデータである。

 日本テラデータでは、このようなデータ項目を網羅し、かつ一元的に重複無く、そして適切なリレーションを設定したデータベースの論理モデルを、「Teradata Industry LDM(Logical Data Model: 論理データモデル)」として販売している。この論理モデルは金融、小売、通信、製造、旅行、運輸業界向けに用意されており、日本テラデータの長年のデータウェアハウス構築経験に基づいて開発されてきた。

 当然ながら、個別企業により保持したいデータ項目は異なるが、これを雛形として利用し、必要に応じて追加/修正/削除することによってデータモデリングを簡素化できる。何よりも、このような形式で管理することによって、データの重複管理をせずに済む点がメリットとして挙げられる。

 図1に示したのは、電話会社を想定した利用データ(横軸)と業務プロセス(縦軸)のマトリックス例だ。データが追加されれば適用できる業務プロセスも増加するが、管理すべきは横軸に存在している各データのみで済む。日本テラデータではこのようなコンセプトをLoad Once, Use Many (一度収集すれば、何度でも活用できる)と呼んでおり、このコンセプトが同社の標榜するエンタープライズ・データウェアハウスの根幹をなしている。

図1:利用データと業務プロセスの関係 図1:利用データと業務プロセスの関係

 一方、このような形式で保持した場合、個別の目的でデータを利用する場合のパフォーマンスや、データローディングの時間が気になるところだ。日本テラデータでは、同社のデータベースエンジン「Teradata Database」の高いパフォーマンスと拡張性によってこれを解決しているが、これにプラスして、以下の図2に示すようなアーキテクチャーを提案している。

図2:データベース内部の3階層構造 図2:データベース内部の3階層構造

 図2内の「Operational Image」層は、チャネルや基幹システムなどから、そのままの形式でデータをいったん格納する。Teradataのデータベース内部で必要な変換処理を施して、次の「Physical Data Model」層にデータを流し込み、その後削除される。「Physical Data Model」層は正規形で管理され、長期にわたる履歴データを有する。また前述した「Teradata Industry LDM」は、この層の設計図として利用される。

 そして実際に利用される分析アプリケーションの要件に応じて、「Semantic Layer」層が構築される。これは仮想的なデータマートと考えても良い。各アプリケーションがアクセスしやすい形式でこの層のデータは管理される。従ってこの部分は「Physical Data Model」層と一部重複することになるが、これによってパフォーマンスとアプリケーションアクセスを確保する。

 これにより、非定型的な分析を実施する分析担当者は「Physical Data Model」層にアクセスし、自由に分析できる。一方で定型レポートの利用者は、「Semantic Layer」層にアクセスするのみで済む。これによって、データ分析の自由度とパフォーマンスという、一見すると相反する要件を満たすことが可能となる。

 また、鮮度の高い、リアルタイムに近いデータを照会したい場合には、直接「Operational Image」層にアクセスすることも考えられる。これによって単一のデータウェアハウス環境下で、最新のデータから長期にわたる詳細な履歴データまで、透過的なアクセスが可能となる。

一元的に保持すれば、好きなように変換できる

 当連載の第1回でご紹介した「分析データセット」は、この中で「Semantic Layer」層に位置付けられる。図3にこれを再掲する。既に示したように、自由に変数を作成するためには、データを正規形で保持することが求められ、さもなくば多様な変数作成要求に対処できない。

図3:分析データセットの例 図3:分析データセットの例

 そしてこれは分析データセットに限らず、あらゆる分析で同じことが言える。例えば冒頭のチャネル統合されたデータを考えてみよう。以下の図4は、データマイニングツール「Teradata Warehouse Miner」の「アソシエーション分析」機能を、各チャネルへのアクセスデータに適用した結果である。

図4:チャネル間の親和性(アソシエーション分析) 図4:チャネル間の親和性(アソシエーション分析)

 この例では、チャネル間誘導の可能性を、顧客の各チャネルへのアクセス回数から読み取ろうとしている。赤色に近ければチャネル間の親和性が高く、緑色に近ければ親和性が低いことを示す(この例では、コールセンターと物理店舗の親和性が高いことを物語っている)。

 この分析は、各顧客がそれぞれのチャネルにアクセスした組み合わせをすべて吟味することによって成り立っている。このため、チャネル間でデータが統合されていなければ分析は難しい。

 チャネル統合されたデータ基盤を前提とすれば、このようなデータを利用して「分析する」ことに専念すれば良い。しかし分断されたデータ環境を前提にこのような分析を実施しようとするなら、まずデータを集め、データ間の体裁統一から始めなければならない。どのような環境を前提とするかで、スターティングポイントからして違ってしまうのだ。

差が広がる時代

 昨今の消費低迷期において、情報システムに対する投資も見直しを迫られる。このとき、自社にとって顧客データを蓄積し、分析/活用するためのシステムは、優先順位の低いプラスアルファのシステムと位置付け、投資対象から外されるだろうか? それとも競争上不可欠な投資として位置付けるだろうか?

 このいずれと判断するかによって、その後の競争力は大きく異なってくる。考えてみて欲しい。現在の企業経営環境を霧に包まれた視界の悪い状態に喩えるなら、前者はそんな中で目隠しをして走るのに等しい。後者を選択した企業と比較するなら、その差は好況時よりも広がってしまうことになる。

 また、自社に収益をもたらしてくれるのはほかの誰でもなく、自社の顧客である。この不透明な時期、もっとも視界を確保しなければならない対象は「自社の顧客」にほかならない。顧客データの分析と活用は、その視界を確保するために不可欠なプロセスなのである。

賢いCRMの3原則

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第2回:顧客リレーションシップの「強化」
企業が消費者向けのマーケティングを推進し、顧客とのリレーションシップを拡大するために、念頭に置くべき3つの原則が存在する。当連載「賢いCRMの3原則」では、この3原則に基づいたマーケティングキャンペーンの進め方を解説する。第2回目の今回は、顧客リレーションシップの「強化」を取り上げる。(09/27 10:00)

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第3回:顧客リレーションシップの「構築」
企業が消費者向けのマーケティングを推進し、顧客とのリレーションシップを拡大するために、念頭に置くべき3つの原則が存在する。当連載「賢いCRMの3原則」では、この3原則に基づいたマーケティングキャンペーンの進め方を解説する。第3回目の今回は、顧客リレーションシップの「構築」を取り上げる(10/18 10:00)


顧客データ活用のABC

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第1回:顧客データのプロファイリング
消費低迷環境下において顧客からの支持を得るためには、自社の顧客を深く理解する能力が求められる。当連載「顧客データ活用のABC」では、顧客データを分析し、活用に導く枠組みを解説する。第1回目の今回は、顧客データのプロファイリング方法を取りあげる。(08/03 10:00)

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第2回:分析でキャンペーンポイントを導き出す
消費低迷環境下において顧客からの支持を得るためには、自社の顧客を深く理解する能力が求められる。連載の第2回では、キャンペーン・アイデアを導き出すための分析例について解説する。(09/01 10:00)


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第2回:「データマイニング」──意思決定の究極指標、「確率」の算出
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これまでこの連載では、前回と前々回で、キャンペーン管理ツールとデータマイニングツールを利用した、知識の析出からキャンペーンのセットアップ、そしてチャネルへの連携に至るプロセスをさかのぼってきた。第3回では、これを下支えするデータウェアハウスの役割を解説する。(2008/11/19 10:00)


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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2009年9月30日