知の融合と超リアルタイム化が次なるイノベーションを生み出す特別対談 米倉誠一郎×SAPジャパン

バブル崩壊やリーマンショックがもたらした「失われた20年」の中、業績の回復に必死で取り組んできた日本企業。だが、総じて十分な成果を得られておらず、日本企業から自信まで失われつつあるように見える。日本企業が復活を遂げるためには果たして何が求められているのか。一橋大学イノベーション研究センター長の米倉誠一郎教授と、SAPジャパンでリアルタイムコンピューティング推進本部長 兼 Co―Innovation Lab Tokyo担当を務める馬場渉氏の対談から日本の進むべき道を探る。

» 2011年11月17日 10時00分 公開
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なぜ日本企業から活力が失われてしまったのか

photo 一橋大学イノベーション研究センター長の米倉誠一郎教授

馬場 今、日本企業を概観すると、総じて活力を失っているように感じられます。個人のレベルでは高い目的意識を持つ人も少なくありませんが、企業全体としては自信を喪失している印象があるのは否めません。こうした状況に陥ってしまったのはなぜでしょうか。

米倉 海外に目を転じると、日本の元気のなさをより顕著に感じることができます。例えば、急激な発展を遂げているシンガポールの新しいカジノ施設には、SamsungやLG Electronicsをはじめとする韓国企業などが拠点を構え、存在感を増している。中国人の海外旅行ブームが起こるだろうとみて、膨大な旅行客を当てにしているわけです。しかし、日本企業の旗艦店はほとんど見当たらないのが実情です。では、なぜこれほどの「差」がついてしまったのか。その原因は、日本企業が成長に向けた確固たる指針を失ってしまったことにあるのではないでしょうか。

 日本は第2次世界大戦の終戦から4年後の1949年、商工省を通商産業省に改組しました。資源の乏しいわが国の復興に向けて、加工貿易による通商の振興を図ったわけです。この戦略が功を奏し、日本は輸出をテコに奇跡の復興を遂げたわけですが、その過程で、グローバル化による現地生産が急速に進み、単純な加工貿易の重要性が急速に薄れてしまった。これは、それまでの戦略がもはや通用しなくなったことを意味します。そして今も、次なる成長への道筋を見出せていない――これが停滞感の大きな要因ではないでしょうか。

 事実、通商産業省はその後、経済産業省へと再び改組されたものの、成長への明確なメッセージは何も伝わってきません。これと対照的に韓国では、2008年に「知識経済部」という行政機関を新たに設置し、国家の成長戦略に「知識」を中心に位置付けています。こうした違いが、国の勢いの差として表れているわけです。

東日本大震災は日本復活への"指針"

馬場 では、成長への指針を取り戻すことさえできれば、日本は停滞感を払拭できるということでしょうか。

米倉 その通りです。日本は近現代において、鎖国から開国、第2次世界大戦での敗戦、オイルショックなど、幾度か危機的状況に直面してきました。しかし、実は危機をバネにして成長を遂げてきた面があるのです。

 現在、日本は東日本大震災の被害によって未曾有の危機に直面しています。しかし、その一方で震災を機に、従来型のエネルギー消費のあり方を疑問視する声が着実に高まりつつあります。幸いなことに、日本は脱炭素社会への脱却に必要な省エネ分野の知識やノウハウを豊富に有しています。それらの知見を基に、元々の日本のお家芸だったエネルギーマネジメントや素材開発の分野で腕を振るうことで、日本は再び世界へ打って出ることができるでしょう。

 例えば、光の反射率が非常に優れた画期的な反射板を作ってLEDと組み合わせ、消費電力を従来の10分の1にまで抑えた照明器具などを作り出せれば、新興国の発展に伴う世界的なエネルギー不足が深刻さを増す中、日本の独壇場になる可能性もあるのです。

 このように、国として危機感を共有すれば、自ずと指針を手に入れることができるでしょう。ひいては、新たな成長軌道を歩むことも可能なはずです。

グローバルでの知の融合がイノベーションを創出

馬場 企業が新たな成長産業を創造するためには、他社から学ぶという姿勢も大切ではないでしょうか。例えば米AppleがiPod向けの楽曲配信という新市場を創出できたのも、音楽産業で一般的に行われていたロイヤリティ計算の仕組みをSAP ERP導入の過程で学んだからこそです。また同社は、通信業界の請求業務に関する知識を応用し、iPhone用アプリの料金を請求する仕組みも整えました。このように決して先進的ではない、他の業界では一般的に行われていることを真似て、画期的な事業を立ち上げているわけです。

米倉 他業界の常識を自社の業界に取り入れることで、何が可能になるのかを見極めているということでしょうね。確かにそれは重要なポイントです。

 例えば、SAPの小売流通業向けソリューションが、どの商品がどこで売れたのかまで細かくトレースできるこの技術を用いて、計測可能なものはほぼ可視化できるということです。つまり物流業界では一般的な「流通の可視化」という仕組みを他業界の企業が取り入れることで、既存の常識を打破するビジネスモデルを構築できる可能性もあるわけです。

photo SAPジャパン リアルタイムコンピューティング推進本部長 兼 Co―Innovation Lab Tokyo担当の馬場渉氏

馬場 われわれの技術を応用すれば、どこでどれだけエネルギーが消費され、足りない場合にはどこから融通すればよいかまで把握できます。同様に、英国やドイツ、南アフリカなどにおいても、SAPは他の分野に強みを持つ地域企業と連携しつつ、エネルギーマネジメントに関する課題解決に取り組んでいます。

米倉 今後もし日本企業が省電力産業に力を入れていくならば、日本の強みとする家電、とりわけエアコンなどにおいて、日本企業が一致団結して「スマートメーター」を組み込めば、スマートグリッドの実現に向けて大きな一歩を踏み出せるはずです。

 ただしこうしたプロジェクトでは、日本企業はすべての技術を国産で調達しようとしがちです。自前主義にとらわれすぎず、もっとグローバルな視野で各分野の有力企業と手を携え知識の融合を図ることが、イノベーションを具現化するためにも必須と言えるのではないでしょうか。

1万倍の動作速度を実現した「SAP HANA」

馬場 スマートグリッドなどを推進する上では、スマートメーターによって取得するデータの膨大化も見込まれます。そうした中で、大量のデータをいかに使いこなすかということもイノベーションにとって大きなテーマになると言えるでしょう。

 コンピュータは過去、情報を保存し、処理することを目的につくられてきましたが、ITの進化と市場の成熟を背景に、もっと情報を集め、そして「活用」するといううねりが顕在化しつつあります。こうした中、企業の情報活用を支援すべくわれわれがリリースしたのが、インメモリーコンピューティング技術を活用した「SAP HANA」です。

 ハードディスクとメモリーは記録媒体である点は同じですが、読み書きに必要とされる時間は、メモリーはハードディスクの100万倍以上も短いという点で大きな違いがあります。そこでSAP HANAではメモリー上で全情報を管理することで、データベース(DB)処理の最大の問題となっていたハードディスクのボトルネックを解消し、一般的なDB製品よりも1万倍も高速な処理を実現しました。東京―大阪間を移動するには新幹線で2時間40分ほどかかりますが、これが1秒にまで短縮されたと表現すれば、そのインパクトの大きさを理解してもらえるでしょう。

米倉 それは従来の技術の延長とは全く異なる、まさにパラダイムシフトと言えますね。インメモリーDBの利用が進めば、社会構造まで大きく変える可能性を秘めています。しかし、なぜそれほどの高速処理を実現できたのでしょう。

馬場 要素技術が出そろったことが最も大きな要因です。とりわけDB分野では、米Googleが2000年代半ばに公開した検索エンジン用インフラのアーキテクチャに関する論文が大きなパラダイムシフトをもたらしました。同社は検索エンジンの性能を高めるため、従来のリレーショナルデータベース(RDB)とは全く異なる設計思想を持つDBを自社で開発していたのです。

 論文の公開以来、DBを自前で開発する企業が相次いで登場したほか、インメモリーコンピューティングを手掛ける新興企業も登場し、この分野の技術の成熟度が増していきました。SAPはそのうちの1社である韓国の新興企業を2005年に買収し、そこで得られた技術がSAP HANAの主要な構成要素になっています。

ITのさらなる進化に欠かせない高速データ処理基盤

photo

米倉 つまりSAPにとって、買収が1つのチャンスとなったわけですね。

馬場 買収当時、30年前に生み出されたRDBとは全く異なるメモリー一体型のDBをつくろうとしているメガベンダーはSAPだけでした。そして現在、インメモリーコンピューティングは将来的な普及が確実視されており、あとはその普及の波がいつ来るか、誰が普及させるかというだけの状況になっています。SAPは元々DB事業者ではないし、インメモリーの専門企業でもありませんが、創業時からERPパッケージの提供を通じて業務システムのリアルタイム化を推進してきた「リアルタイムの専門家」なのです。

米倉 情報を保存したり蓄積するのではなく「利用する」という観点で見れば、最も重要なのはリアルタイム性です。こうした発想の転換こそが、次世代の主流を生み出す上で求められるわけですね。

馬場 クラウドやモバイルコンピューティングの普及も、インメモリーDBの重要性を高めると考えています。クラウドが今後普及すれば、それを支えるデータセンターなどのインフラはさらに集約される可能性が高い。一方で、モバイルデバイスのインタフェースは利便性をより高めるために、より分散指向のアーキテクチャへと進化するでしょう。つまり、"超集中型"と"超分散型"という相反するキーワードを両輪にITは進化すると考えられるわけですが、実は両者には共通点があります。それは、いずれの方向に進化するにせよ、より多くのデータを管理し、高速に処理しなければならないということです。

米倉 SAP HANAを用いて大量データを活用すれば、これまで思いもよらなかったアイデアも実現できるはずです。例えば、大型タンカーの航行に必要なエネルギーを今よりさらに削減するということは、エンジンや船体構造の改善だけでは難しい。しかし、気象や海流など既に計測されている膨大なデータをリアルタイムに活用し、航行ルートの選択をより厳密に行えば、この目標は現状でも十分に達成できると言われています。

 こうしたアイデアを実現しながら日本企業が新たな市場を切り開いていくためには、ビジネスマンや企業家が1度や2度の失敗で挫折することなく何度もチャレンジできる社会的な仕組みの整備も欠かせません。そして、こうした課題を克服できた暁に、復活を遂げた日本企業が新たな活躍のステージを獲得する――このシナリオは、決して「夢物語」ではないはずです。


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提供:SAPジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2011年12月31日


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データ量の急激な増加を受け、企業はその膨大なデータ管理と活用に悩みを抱えている。今後一層、業務システムに対して、経営層から現場の管理職、ユーザーまでの全員が、Google検索のようなレスポンスの速さを求めるようになる。その処理速度を実現するのが、インメモリーコンピューティングテクノロジーである。

本調査は、オックスフォード・エコノミスク社が2011年3月に、世界13カ国の525名のビジネスリーダーを対象に実施したものである。

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