グループウェア大手のサイボウズが先週発表したクラウドサービスは、企業向け情報共有ツールをめぐる新たな戦いの始まりを告げるものといえそうだ。
サイボウズが12月5日、エンタープライズ向けのグループウェアサービス「Garoon on cybozu.com」の提供を開始したと発表した。従来のパッケージ版「Garoon」を機能強化し、独自開発のクラウド基盤「cybozu.com」から利用できるようにしたサービスである。
最大の機能強化点は、組織横断型プロジェクトを支援する「スペース」と呼ぶ新機能を搭載したことだ。
新機能は、業務遂行に必要なディスカッションスペース、ToDoリストの共有、ファイルの共有、同社のPaaS「Kintone」で作成した業務アプリケーションなどを1画面(スペース)に集約。プロジェクトに関連する情報を1カ所に集約できるため、業務の効率化を図れるとともに、ノウハウを着実に蓄積・伝承することもできるのが特徴だ。
同社の青野慶久社長は発表会見で、「新サービスのコンセプトは、チームコラボレーションの実現。企業がたゆまぬイノベーションを起こしていくためには、従来のトップダウン型コミュニケーションだけではなく、情報伝達もタスク進ちょくもプロジェクトメンバーにフラットに相互に伝達できる組織横断型コミュニケーションが必要だ」と説明。それを実現するのがスペース機能だと強調した。
また、ユーザーインタフェースの改善では、どの画面からでも自分宛ての通知を確認できる「固定ヘッダ」を搭載。250以上のアイコンも変更するなど、全画面のデザインを刷新している。
さらに、スマートフォンやタブレット端末も利用可能。ログイン時のセキュリティをより強固にするために、IPアドレス制限やユーザー個別のクライアント証明書による接続元の認証と、IDやパスワードによる認証を組み合わせた「2ファクター認証」を採用している。
新サービスの利用料金などについては、関連記事を参照いただくとして、ここからは会見での説明を聞きながら、筆者の頭に浮かんだことを述べておきたい。
それは、今回の同社の新サービスは、企業向け情報共有ツールをめぐる新たな戦いの始まりを告げるものではないかということだ。
あえて企業向け情報共有ツールと表現したが、今回のサイボウズの新サービスは、同じグループウェアサービスだけでなく、このところ企業向けにも注目度が高まっているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も強力な競合相手になるのではないか。
もちろん、グループウェアとSNSにはさまざまな違いがあるが、ともに情報共有ツールとしての要素が大きいのは確かだ。
今回のサイボウズの新サービスにおいて目玉となるスペース機能の説明を聞いていると、プロジェクト管理機能とともにSNSの要素を取り込もうという意図が強く感じられる。
グループウェアと企業向けを中心としたSNSが、いずれ競合するようになるとの見方は以前からあったが、今回のサイボウズの新サービスをみると、競合ではなく連携・融合していくのが新たなトレンドかもしれない。
ただ、連携・融合が今後のトレンドになるとしても、グループウェア陣営とSNS陣営のどちらが主導権を握るのか。その意味で、今回のサイボウズの新サービスは、グループウェア陣営の宣戦布告とも見て取れる。
話の脈絡は異なるが、青野社長が会見でこんなことを語っていた。
「資本力を持つ外資系の大手ソフトウェア会社などはこれまで、買収によって自らの事業ポートフォリオを埋めてきた動きが目立った。しかし、クラウド時代になるとインタフェースがオープンであれば、容易に連携できるようになる。買収より、そうした連携のほうが主流になるのではないか」
これはすなわち、垂直統合型か水平分業型かというビジネスモデルの違いだが、青野社長の見方とは裏腹に、SNSを運営する外資系大手は精力的に買収戦略を展開し、垂直統合型ビジネスを目指しているように見受けられる。
いずれにしても、今後、SNSの要素を取り込んだグループウェアサービス、一方でグループウェアの要素を取り込んだSNSが増えていくのは間違いないだろう。それが単一サービスかクラウド連携か、どちらが主流になるかは分からない。ユーザーにとって、どちらが使いやすいものになるのか。
まずは、今回のサイボウズの新サービスがどのようにユーザーに受け入れられるか、注目しておきたい。
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