「ラッパのマークの正露丸」のグローバル戦略現地最適化とイノベーションで海外展開を加速

家庭の常備薬として広く知られる正露丸。その製造元である大幸薬品は、日本企業でもいち早く海外市場の開拓に乗り出した。50年以上前に輸出を開始し、現在では中国、台湾、香港に販売拠点を構える。同社はいかにして海外進出を推し進めてきたのだろうか。

» 2012年02月29日 10時00分 公開
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戦後間もなく輸出業務を開始

 「消費者の方々に対して、“健康”という大きな幸せを提供したい」。大幸薬品は、終戦直後の1946年に創業者である柴田音治郎氏のこの強い“思い”を具現化すべく、大阪府吹田市で産声を上げた製薬会社である。看板商品の「ラッパのマークの正露丸」は発売以来、多くのファンを獲得し、同社はビジネスを順調に拡大させてきた。

 成長の原動力の1つに位置付けられるもの。それが、正露丸の医薬品としての機能性の高さである。その主原料である日本薬局方木(もく)クレオソートは、下痢や食あたり、歯痛など幅広い薬効があり、そのことはすでに医学的にも証明済みだ。正露丸の独特の匂いを改善すべく、正露丸を糖衣加工することで匂いを抑えた「セイロガン糖衣A」を製品ラインナップに追加するなど、より多くの消費者に受け入れてもらうべく、商品の見直しも継続的に続けてきた。

大幸薬品 代表取締役会長の柴田仁氏 大幸薬品 代表取締役会長の柴田仁氏

 このような製品そのものの良さに加えて、同社の成長を語る上で外すことのできないのが、医薬品市場おけるひと足早い海外展開である。実は正露丸は日露戦争開戦前の1902年に発売され、その後、1946年に同社が製造販売権を継承。その間、アジア圏の消費者や海外在住の日系人にその良さが広く認知されたことで、終戦後、海外から多くの引き合いが寄せられた。そこで、大幸薬品では1954年から輸出を開始し、ハワイや香港、台湾、ベトナムなどにも販売エリアを拡大。

 大幸薬品で代表取締役会長を務める柴田仁氏は、「海外拠点の設立は現地での販売強化を考えれば必然ともいえ、当社でも1996年には台湾に初の現地法人、大幸薬品股份有限公司を設立しました。今では中国や香港にも拠点を構えています」とこれまでの経緯を説明する。

現地での業務の最適化を最優先に

 もっとも、海外進出にあたっては苦労も少なくなかった。まず、各国ごとに薬事法が異なるため、正露丸を販売するには各国の法律にのっとった製品を用意し、審査をパスする必要があった。また、言語や文化、さらに商慣習も日本と大きく異なった。

 これらの問題の解決に向けた大幸薬品のアプローチ――。それは、海外法人のスタッフをすべて現地の人たちで固めるなどして、現地で業務プロセスの最適化を図るというものである。

「この手法であれば、スタッフが皆、現地に精通しており、進出にあたって市場のリサーチに長い時間を割く必要がありません。また、現地の流通関係者との信頼関係も築きやすく、ビジネスの早期立ち上げが見込めるのです」(柴田氏)

 現地採用したスタッフは皆、現地の薬事法に精通した医師や薬剤師、マーケティングや流通関係者など、その道のプロ。その中に日本人スタッフは今でも一人もいないという。宣伝広告においても現地の俳優を起用し、その国々での事情を考慮した服用シーンを提案している。つまり、日本の成功事例を基に、ローカルでの業務の最適化に徹底的に取り組んでいるのである。

 一方で、海外市場において売り上げを拡大するためには、現地での正露丸のさらなる認知度向上のみならず、新製品の投入を通じた新市場の開拓も欠くことができない。同社がその切り札に位置付けているのが、ウイルス除去製品「クレベリン」をはじめとする感染管理製品である。

 クレベリンの主要成分である二酸化塩素には、特異な分子構造により菌を酸化させ、その機能を低下させる効能がある。そのため、空気中に浮遊するウイルスや細菌を除去したり、カビの生育を抑制したりすることができる。従来、二酸化塩素ガスは溶液の中で長期保存することが極めて困難だった。大幸薬品はこの課題を独自の特許技術によって克服し、2006年の本格展開にまでこぎつけた。その成果は2009年に新型インフルエンザが発生した際、クレベリン特需という形で明確に表れることになった。

「クレベリンの例から言えるのは、各国の市場変化をいち早くとらえ、迅速に対応策を講じることは確かに大切であるものの、イノベーションを起こせる製品の市場投入はそれに勝るということです。変化を起こす側になれば、変化に対応する必要がなくなるわけです」(柴田氏)

 そうした武器を手に同社がグローバル展開を進めていく上で、まずは資金管理を目的にしたシステムの整備に着手。その後、メールや社内資料のシェア、電話会議などの情報系システムの導入も急ピッチで推し進めている。その手法は、利用するアプリケーションの選定も含めてシステム整備を海外拠点に一任するというもの。日本と海外では当然、システムを利用する環境は大きく異なる。そうした中、日本から特定のシステムの利用を強制した場合には、逆に業務効率が低下し、社員の士気の低下も招きかねないからだ。

 今や情報系システムは海外拠点と日本本社が意思疎通を図る上で必須の存在となっているという。利益を極大化するためには、どう販売すれば良いのかを適確に見極めた上での販売戦略の立案が不可欠。情報系システムはそのための基盤にも位置付けられるわけだ。

情報連携のためのハブを整備し、会計情報の一貫性を確保

 ただし、各国のシステムに一貫性を持たせるべき部分も存在する。大幸薬品は上場企業であり、毎年、連結決算書の作成が義務付けられている。その作業を円滑に進めるためには、各国の会計システム間で、勘定科目の分類などについて情報の整合性がとれていなければならない。

 これに対して、同社では国内の財務部門とのシステム連携のための、いわゆる“ハブ”を整備。ハブを介して各国の会計データを連携させるための仕組みの構築をすでに完了させている。「業務で必要なシステムは、できる限り導入を現場に任せ、本社側は法令順守やセキュリティの視点から国内外を問わず現場をしっかり指導する。こうした、ゆるやかな統制が現場の力を最大限に発揮させる上で有効ではないでしょうか」と柴田氏はグローバルでのシステム整備における同社ならではの秘訣を話す。

 もちろん、海外拠点は距離的に日本から遠く、法令順守やセキュリティ面でシステムに万全を期すにも、困難な面が多々あることは否めない。

グローバルでの情報共有を目指しクラウドに着目

 柴田氏がシステム面に関して今後の課題に位置付けるのが、情報系システムのグローバルでのさらなる利用促進である。グローバルで一貫した考えや意思決定を示すためには、海外拠点を含めすべてのスタッフが同社の経営理念を深く理解する必要がある。そこで同社ではかねてから、海外スタッフを日本に招いて研修を行うとともに、日本人スタッフを現地へ出張させ、現地と密にコミュニケーションや情報共有を行ってきた。ただし、「海外のスタッフと意思疎通を図るにあたっては、常日頃からのコミュニケーションに勝るものはありません」と柴田氏は強調する。

 その実現に向け、同社が注目するテクノロジーがクラウドコンピューティングだ。社内会議などで利用したプレゼン資料から学会で発表した論文、販促資料までの多様な情報をグローバルで共有するための仕組みをクラウドによって整備すれば、従来と比べて効率的な情報共有が可能となるほか、コスト面でのメリットもあるという。

「このプラットフォームが構築できれば、例えば、日本で作成した最新資料をすぐさま海外スタッフに提供し、販促活動などに取り組めるようになります」(柴田氏)

海外の消費者にも対応していく

 今後、事業のグローバル展開がさらに進めば、業務プロセスにおいてもグローバルで共有できる割合が確実に増すというのが柴田氏の考え。共通業務を支えるシステムをクラウドで整備することで、システムを集約でき、システム運用にまつわる手間と時間を大幅に削減することも可能になる。このメリットは、日本ほど多くの人材を抱えていない海外拠点において、より大きなことは容易に想像がつく。

 ITの使い方も今後見直しを進める考えだ。大幸薬品本社には日々、電話やメールによる消費者からの問い合わせが多数寄せられているという。同社はそれらに対して、基本的にすべて電話で対応している。これはメールの文面だけでは消費者が何を問題ととらえているのかを正確には把握しにくく、薬を安心して服用してもらうために専門のスタッフがカウンセリングをしながら質問に答え、安全・安心を担保する。

「グローバル化を進めれば、必然的に日本語以外での質問も増えることになります。その場合にどう対応するのかも考えておく必要があるのです」(柴田氏)

 こうしたさまざまな課題の解決に向けて大幸薬品が期待するのが、中堅・中小も含め、日本企業の海外進出を総合的に支援する日本IBMの取り組みだ。同社では、現地法人を持つ日本のパートナー企業およびIBMグローバルでのネットワークを生かし、中堅企業の海外進出を支援する専門窓口“コンシェルジュ”を開設するなど、その支援活動は幅広い。

 大幸薬品では、今後さらなる海外展開を推し進めていく上で重要になるであろう、「グローバル全体での内部統制に必要な決裁システムおよび会計システムの構築や、学術情報、製品情報、マーケティング、宣伝広告、販売促進に関する情報共有の仕組み作り、IBMのコンサルティングネットワークを活用した各国の薬事法制度、医薬品・健康食品の流通制度、有力販売パートナー、商習慣といった各国の現地情報の提供」(柴田氏)などの支援について、日本IBMに相談してみたいとしている。

 柴田氏によると、日本企業の中には、国際的に高い競争力を備えた商品を手掛けている企業が少なくないという。それらの企業にとって、海外展開は市場拡大の点で大きなチャンスにほからなない。では、どうすれば成功の“果実”を手に入れられるのか。残念ながら明確な成功のための法則は存在しないものの、大幸薬品のこれまでの取り組みなどからそのヒントを探れるはずだ。

 市場の成熟が進み、今後、右肩上がりの拡大を望めない日本市場に対して、アジア市場はますます経済発展していくことが予想される。将来にわたって事業を継続し、次なる成長軌道を描く上で、海外展開は現実的な“解”といえよう。

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