クライアントPCのOS移行は頭の痛い問題だ。だが、コストや手間を理由に先延ばししていると、取り返しのつかない事態を招くことも……? Windows XPのサポート期限を目前にした、ある企業での事例をシミュレーションしてみよう。
時は2013年10月某日。ある商社の情報システム部で働く新藤 蒼(しんどう そう)は入社4年目。今日も朝から社員が使うクライアントPCのサポート対応に追われていた。社員数約1000人の規模だが、IT企業ではないため情報システム部といってもわずかメンバー10人強の小さな所帯だ。その中で彼女に与えられた役割は、社内に約800台あるクライアントPCの運用管理である――。
朝から次々に寄せられる問い合わせの対応に追われていた蒼。「間違ってファイル消しちゃったんだけど?」「このアプリ、どう使うんだっけ?」「ファイルが見つからないよ!」……ようやく一息ついたときには、もう昼休みも終わろうとしていた。
蒼 はあ、今日もランチをとれなかったわ。コンビニでサンドイッチでも買ってこようかしら。
急いでオフィスを出ようとしたその時、上司である情報システム部長に呼び止められた。
部長 新藤君、ちょっといいかな?
蒼 何でしょう?
椅子の上で大きく伸びをした後、気だるそうな調子で続ける部長。
部長 自宅のPCを買い替えたんだけどね、Windowsも新しくなっていて、まだ使い慣れないんだよねえ。
蒼 そうですね。社内のPCはまだWindows XPですものね(早くしてくれないかしら、昼休みが終わっちゃうじゃないの……)。
部長 ま、いずれは慣れるんだろうけどさ。ところで、会社のPCのWindowsは大丈夫なのかね?
蒼 どういうことですか?
部長 Windows 7がリリースされてから長いし、そろそろWindows XPのサポート期間も終わっちゃうんじゃないの?
(なーんだ、そんなことで呼び止められたのか)と営業用の笑顔を作って部長に答える蒼。
蒼 その件について調べて、追ってご報告しますね。では失礼します(さてコンビニ、コンビニ!)
これはちょっと面倒なことになるかもしれないわね――軽い気持ちでWindows XPのサポート切れについて調査を始めた蒼だったが、事態は甘くないことが分かってきた。サポート期間が終了してしまうと、OSの更新プログラムが提供されなくなるらしい。つまり、新たな脆弱性が発覚しても、それを修正する術がなくなってしまうわけだ。
蒼 でも、アンチウイルスソフトが対応してくれれば大丈夫かしら?
淡い期待を抱いた蒼だったが、調べてみると、対応が保証されているわけではなかった。アンチウイルスソフトだけでなく、他のアプリケーションベンダーやPCメーカーの中にも、サポート期間終了後はWindows XPへの対応を打ち切るところが多いようだ。
それにIT系の情報サイトをのぞいてみたところ、世間の企業の大半は、既にWindows 7への移行を終えていることも分かった……。
蒼 ウチはちょっと乗り遅れちゃったけれど、まだ間に合うわよね。それより問題は予算かも。早めに部長に根回ししておかなくちゃ……あ、部長!
会議から戻ってきた部長を呼び止め、調査結果を手短に報告する蒼。
蒼 とまあ、こういう状況ですので、早めにWindows 7に移行した方がいいですね。XPのサポート期間は2014年の4月までですから、まずは予算を……。
部長 来年の4月!?
部長の大声にびっくりして、思わず後ずさりする蒼。
蒼 申し訳ありません。わたしが早く気付いていたら、予算も申請できていたはずでした……。
部長 いや、カネの話ではないんだ。うーむ。
腕組みをしてじっと下を向き、考え込んでいた部長だったが、やがて顔を上げた。
部長 クライアントOSの移行は、そう簡単にはいかないんだよ。キミはまだ入社していなかったから知らないだろうけど、10年前にWindows 2000からXPへ移行した時には、丸1年がかりのプロジェクトだった。当時より会社の規模は大きくなっているし、PCを使う業務も大幅に増えた。そもそもPCの台数もかなり増えているだろう? これはかなり時間がかかるプロジェクトになるぞ……。
蒼 大変なことになりましたね(どうしよう……)。
ここで挙げたシナリオはあくまでもフィクションだが、多くの企業にとって他人事ではないだろう。Windows XPのサポートが終了するのは、2014年4月。本稿掲載時点(2012年5月)ではあと2年弱の猶予があるが、決して余裕があるタイムスパンとは言えない。Windows XPの寿命が長かったため、クライアントOSの移行にどれだけの手間や時間がかかるのか、多くの人が実感を失いつつある。
中には、「サポート期間が切れても、何とかなるのではないか?」と考える人もいるかもしれない。しかし、OSのサポートが切れるということは、新たな脆弱性が発見されてもそれを修正する更新プログラムがマイクロソフトから提供されないということだ。つまり、セキュリティホールがそのまま放置されてしまうのである。企業システムの一部としてPCを運用する場合、これは看過できない。
あるいは、OSの更新プログラムが供給されなくても、セキュリティソフトウェアである程度カバーするという考え方もあるかもしれない。しかし、セキュリティベンダーが自社製品を、未来永劫にわたってWindows XPに対応させ続けると考えるのは、やはり無理がある。さらに言えば、Microsoft Officeをはじめとする業務アプリケーションも、いつかはWindows XPへの対応を打ち切るだろう。そうなれば、アプリケーションの脆弱性や不具合に起因するリスクも抱え込んだまま、PCを使い続けるはめになる。
こうしたリスクを回避するには、早めにWindows 7への移行に着手するべきだ。Windows 7へ移行すれば、Windows XPを使い続けることによるリスクを回避できるだけでなく、Windows 7独自の機能を活用することで、より強固なセキュリティ対策を実現できる。
例えば、HDDや外部記憶メディアに保管されたデータを暗号化できるBitLockerを活用すれば、PCの紛失や盗難に伴う情報漏えいリスクを大幅に低減できる。またAppLockerという機能を使えば、セキュリティリスクのあるアプリケーションのインストールに制限を加えることができるので、ウイルス感染のリスクが大幅に減らせるだろう。
同じことは、代表的な業務アプリケーションであるMicrosoft Officeについても言える。Windows XPとともに使われているOffice 2003やOffice 2007から、最新バージョンのMicrosoft Office 2010に移行することで、更新プログラムの長期提供が担保されるとともに、新機能の活用やユーザビリティの向上、ドキュメントのルック&フィールの改善によって、大幅な生産性向上が見込めるのだ。
事実、Office 2003からOffice 2010へ移行することで、移行コストを含めたとしても5年間でTCOが20%削減されるという調査もある。
では、いざWindows XPからWindows 7へ移行するとなった場合、具体的にどのような作業が必要になり、どんな点に留意すべきなのだろうか? もちろん、OSそのものの移行にもある程度の工数がかかるが、作業に要する時間とコストの大半を占めることになるのが、「アプリケーションの移行」だ。これまでWindows XPに直接インストールして利用していたアプリケーションや、IE6で利用していたWebアプリケーションが、果たしてWindows 7やIE8/9の上でも動作するのか。これを検証し、必要に応じてアプリケーションを修正しなければいけない。この作業に掛かるコストを嫌い、Windows 7への移行を先延ばしにしている企業も決して少なくないだろう。
しかし、もしWindows 7で動作しない、あるいは動作しない恐れがあるアプリケーションがあったとしても、アプリケーション自体には手を加えることなく、極力時間と手間を掛けずにWindows 7環境に移行できる方法も存在する。最も良く知られているのが、Windows 7に用意されている「Windows XP Mode」だろう。これは、Windows 7環境上にWindows XPの仮想マシン環境を構築し、その中でアプリケーションを動作させるという方法だ。特殊なデバイスやドライバを利用していない限り、大抵のWindows XP向けアプリケーションは、この方法で問題なくWindows 7上で利用できるはずだ。
ただし、Windows XP Modeは各PC上にスタンドアロンの仮想マシン環境を構築するため、クライアント環境を集中管理できなくなるという欠点もある。これは、ある程度以上の規模の企業の場合、ITガバナンス上の問題を引き起こすかもしれない。そもそも数百台規模のPCにWindows XP Modeを構築していくのはかなり手間がかかってしまう。
そこでお勧めしたいのが、MED-V(Microsoft Enterprise Desktop Virtualization)と呼ばれる仮想化技術だ。MED-Vは、Windows XP上にアプリケーションやIE6をインストール/セットアップした仮想マシンイメージをあらかじめ作成しておき、これをサーバからクライアントPCに配布するというソリューションだ。こうした方法であれば、IT部門によるガバナンス化も同時に進めることができる。
ただ小規模な企業(クライアント数が数十台程度)では、MED-Vのようにサーバを立てる大掛かりなソリューションを導入するのが困難な場合もあるだろう。その場合には、先に紹介したWindows XP Modeや、あるいはもっと手軽な方法としては、Windows 7上でWindows XPの動作モードをエミュレートする「アプリケーション互換モード」を試すこともできる。Windows XP Modeほどの高い互換性は期待できないかもしれないが、この方法だけでWindows XP向けアプリケーションをそのままWindows 7上で利用できるケースも多い。
マイクロソフトからは、こうした各種のアプリケーション移行方法に関する情報や、アプリケーションの互換性検証を効率的に行うためのツールなどが無償で公開されている。Windows XPからWindows 7への移行を検討する際には、ぜひ参照したい。
Office 2003用に作成したドキュメントやアプリケーションをWindows 7/Office 2010環境に移行する際にも、前項で紹介した方法がそのまま使える。Office 2003とOffice 2010では、ドキュメントのルック&フィールやマクロの動作が若干異なるため、そのままOffice 2010環境で利用すると、見た目や動作に問題が生じる可能性がある。そんな場合でも、Windows XPとOffice 2003の仮想マシン環境をMED-VやWindows XP Modeで作成し、その上でアプリケーションを動作させればよい。
ただし先にも述べたように、Office 2010環境へ移行することで、生産性やTCOの大幅向上が期待できる。そのため、できれば既存のOffice 2003ドキュメントとアプリケーションを修正した上で、Office 2010環境に移行するのが理想的だ。
もちろんこの移行作業に関しても、マイクロソフトからさまざまな情報が無償で提供されているが、ほかにも同社のパートナー企業からは移行作業の支援サービスも提供されている。それが「Office 2010 互換性検証サービス」だ。これは、ユーザーがOffice 2003で作成したファイルに対してOffice 2010上での動作検証を行い、もしドキュメントのレイアウトやマクロの動作に問題が生じた場合は、その内容と改修方法をレポートにまとめてユーザーに提供するというサービスだ。
また、互換性チェックだけでなく、実際のファイルの改修作業を支援するサービスや、エンドユーザーのトレーニングコンテンツのサンプル作成の支援サービスも提供される。Windows 7とOffice 2010へのスムーズな移行を実現するためには、こうした支援サービスの活用もぜひ検討してみるべきだろう。
Windows XPからWindows 7へ──大規模企業向け移行ガイド
Windows XPを現在利用している大規模企業のために、マイクロソフトが提供するWindows 7移行ガイド。Office 2010とOffice 2003を1台のPCで同時に利用する(App-V)、Windows Server 2003 R2のターミナルサービスを利用したIE 6の利用といった、大規模企業が移行時に押さえておきたいポイントが網羅されている。
Windows XPからWindows 7へ──小規模企業向け移行ガイド
Windows XPを現在利用している小規模企業のための、Windows 7移行ガイド。マイクロソフトが制作した資料のため、移行時に注意すべきポイントが網羅されている。
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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2012年6月30日
Windows XPを現在利用している大規模企業のために、マイクロソフトが提供するWindows 7移行ガイド。Office 2010とOffice 2003を1台のPCで同時に利用する(App-V)、Windows Server 2003 R2のターミナルサービスを利用したIE 6の利用といった、大規模企業が移行時に押さえておきたいポイントが網羅されている。
Windows XPを現在利用している小規模企業のための、Windows 7移行ガイド。マイクロソフトが制作した資料のため、移行時に注意すべきポイントが網羅されている。