シトリックス・システムズ・ジャパンが開催したプライベートカンファレンス「Citrix iForum 2012 Japan」の中では、資生堂やNTTコミュニケーションズが、クラウドやデスクトップ仮想化の導入における成功の秘けつを活用実例とともに紹介した。
企業のクラウド利用は加速する一方だ。いつでも、どこでも、どんなデバイスからでもオフィスと同様のIT環境を実現できるクラウドを活用すれば、従来からの“場所”にとらわれがちなワークスタイルを抜本的に変革でき、生産性の向上を見込むことができる。また、堅牢なデータセンターによる情報の一元管理を通じて、セキュリティレベルの向上やBCP対策が可能な上、各種リソースの迅速かつ安価な調達によって、システム整備に要する時間とコストも大幅に削減できる。
ただし、クラウドの利用は実のところまだ緒についたばかり。それゆえに、メリットをいかに引き出すのかに頭を悩ませる企業も少なくない。そうした企業を支援すべく、シトリックス・システムズ・ジャパンは7月17〜18日、クラウドの理想的な活用にフォーカスしたカンファレンス「Citrix iForum 2012 Japan」を開催した。「広がるクラウドサービス、加速するモバイルワークスタイル」をテーマに、資生堂やNTTコミュニケーションズのシステム担当者が自社のクラウドに対する取り組みを紹介。デスクトップ仮想化製品「Citrix XenDesktop」やクラウド管理ソフト「Citrix CloudPlatform」を活用した次世代のワークスタイルが示された。
「当初からクラウド環境の整備を目指していたわけではありません。運用管理の効率化やガバナンスの強化、ITコストの削減など、既存のクライアント環境の課題とその解決策を検討する中で、必然的に導かれた“解”が、クラウドによるデスクトップの一元管理だったのです」
資生堂の情報企画部で課長を務める毛戸一彦氏は、セッションの冒頭でこう強調。その上で、グループ企業の1社である資生堂販売で用いられていた3500台ものクライアントPCをDaaS(デスクトップ仮想化サービス)環境に移行させた狙いと、環境整備におけるポイントを解説した。
1950年代半ばからIT化を推し進めてきた資生堂では、業務アプリケーションの拡充を進めるとともに、社員へのPCの配布も積極的に推進。その数は現在、関連会社を含めると1万1000台に上るという。
そんな同社が、PC配布の過程で直面した課題の1つが、管理業務の煩雑さであった。同社では環境の変化に応じて事業を継続的に見直し、事業所の移転や統廃合を実施してきた。ただし、その都度、PCの移動や再設定などの作業が発生していた。加えて、現場にパッチファイルの適用を任せていたために、徹底されていないPCが散見されたほか、業務効率に直結するPCのパフォーマンス低下も顕在化し始めていた。「今後、PC管理の効率化を図っていく上で、USBポートの利用の可否などセキュリティを担保しつつ、クライアント環境を見直すべきだと考えました」と毛戸氏は振り返る。
従来のこうした課題を解決すべく、資生堂が着目したのが社内PCのデータなどをデータセンターのデスクトップ仮想化環境で集約管理し、シンクライアントによって社内PCの遠隔アクセスを実現したDaaSである。この環境であれば、セキュリティパッチの適用といった運用業務を一元的かつ効率的に実施でき、データを端末に置かないことから情報漏えいなどのリスクも防げる。
資生堂では2010年末に要件を取りまとめて、複数のITベンダーに提案を募るとともに、約3カ月を費やし既存の業務アプリケーションや周辺機器の対応状況に関する検証作業を実施した。その結果、最終的に同社が選択したDaaSサービスが、XenDesktopによるデスクトップ仮想化を実現した新日鉄ソリューションズ(NSSOL)の「DaaS@absonne」だった。
「全業務アプリケーションへの対応は必須でした。XenDesktopではそれらすべての稼働を確認できたほか、DaaSはわれわれにとってまったくの新技術だったものの、NSSOLは各種課題への対応も素早く、円滑に利用できるようになると判断しました」(毛戸氏)
資生堂がDaaSの導入に着手したのは2011年3月のこと。ただし、作業は一筋縄ではいかなかったという。2011年10月からクライアントPCの移行を段階的に進めたものの、その最中にクライアントが稼働しないとの声が現場から寄せられたのである。問題の原因は特定のアプリケーションの不具合や、仮想デスクトップのログオン時における想定を超えたインフラへの負荷集中など、複数の要素が複雑に絡みあったものだった。そこで資生堂は2011年にプロジェクト体制を刷新し、NSSOLとともに課題解決に尽力した。
「インフラのサイジングを再度NSSOLに行ってもらうことで、インフラ面の問題は抜本的に解決できました。業務に欠かせない各種デバイスのドライバの不具合についても、業務側に手を加えることで対応できました。ユーザー部門との密なコミュニケーションはDaaSの利用においても非常に大切なことを、このトラブルを通じて改めて認識させられました」(毛戸氏)
現在、資生堂販売のDaaS環境は問題なく稼働しており、当初の狙い通り、端末管理やセキュリティなどの問題は一掃されている。今後は本社や工場などにも展開するとともに、BCPやワークスタイル改革にもつなげる考えだとしている。
続いて、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)のクラウドサービス部 グローバルクラウドタスクフォースで担当部長を務める奥平進氏が、同社のパブリッククラウドサービス「Cloudn」(クラウド・エヌ)の概要と、同サービスのプラットフォームとしてクラウド管理ソフトウェア「Citrix CloudPlatform powered by Apache CloudStack」(CloudStack)を採用した背景などを説明した。
Cloudnは同社のクラウドサービス「Bizホスティング」に続き、2012年3月より提供を開始したIaaS型サービスだ。約150種類もの豊富なAPIや、月額上限945円からの従量制課金プランによる安価な料金、使い勝手の高いコントロールパネル「カスタマーポータル」などの特徴を持ち、SaaSプロバイダーのインフラ整備や各種開発におけるコスト削減策として大きな注目を集めている。
NTT Comが同サービスを開始した背景には、IaaS型サービスに対するニーズの急激な盛り上がりがあったという。「サービス内容について社内で議論したところ、共通アーキテクチャによるマルチロケーションへのサービス提供や、低価格を実現するためのオープンソースの活用などに加え、高い安定性と拡張性の実現といった要件を満たす必要があるとの結論に至ったのです」と奥平氏は述べる。
NTT Comがそれらをすべて満たしたサービスの開発に着手したのは2011年9月のことである。その開発方法として候補に上ったのが、「独自開発」、オープンソース技術である「OpenStackでの開発」、「CloudPlatformでの開発」という3つであった。それらを比較検討した上で、同社が最終的に採用したのがCloudPlatformだった。独自開発ではグローバル標準での商用サービスの早期提供が困難であり、OpenStackは開発実績が乏しい点が問題視された。対して、CloudPlatformでの開発実績は存在し、要件を満たすサービスを短期間に実現できると見込まれたからだ。
「CloudPlatformでは、セルフサービスによる仮想サーバの立ち上げが可能です。また、Amazon Web Services(AWS)との連携など豊富なAPIが利用でき、拡張性が高かった。しかも、開発者向けコミュニティーが存在し、安心して開発に乗り出せる環境が整っていることが決め手となりました」(奥平氏)
Cloudnの提供開始からまだ半年も経っていないにもかかわらず、すでに多くの企業が同サービスの利用を表明している。その1社であるスマイルワークスは、クラウド型統合業務システムサービス「ClearWorks」をCloudnの基盤上でパッケージ化し、ビジネスパートナー各社にOEM提供することを明らかにしている。また、伊藤忠テクノソリューションズやNTTデータをはじめとするSIer各社も、同サービスを活用したシステムインテグレーションを積極的に推し進める考えだ。
奥平氏によると、Cloudnの活用を通じて、次のようなメリットが見込まれるという。まず、SIerなどでは、Cloudn上で既存の開発物をテンプレート化することで、開発工数の削減や納期短縮などを実現できる。また、Cloudnをアプリケーションに組み込み、OEM提供することで、Cloudnの従量課金のメリットを生かし、低コストでサービスとして提供することも可能になるという。
NTT Comでは今後、トラフィックの負荷分散機能やデジタルコンテンツの保管に適したオブジェクトストレージの提供など、Cloudnの機能拡張を推し進める考えだ。これらの先進的な取り組みを、CloudPlatformが支えていく。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2012年9月7日