「モバイル」「ソーシャル」「クラウド」「ビッグデータ」といったキーワードが企業のビジネスと結び付きを強くする中、それらの基盤となるデータセンターへの要求が大きくなっている。ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」をはじめ大規模なインターネット事業を展開するヤフーは、まさにデータセンターのヘビーユーザーといえよう。同社がデータセンターに求める要件とは何か。ヤフーで代表取締役社長を務める宮坂学氏と、同社を主要顧客に持つブロードバンドタワーの代表取締役会長兼社長CEOである藤原洋氏の対談から、企業がデータセンターを効果的に活用する上でのヒントを探る。
ブロードバンドタワーは、産学連携のベンチャー企業であるインターネット総合研究所と、ソフトバンクが出資するアジア・グローバル・クロッシングの合弁企業であるグローバルセンター・ジャパンを前身に設立。2002年にブロードバンドタワーへ商号変更。以来、ヤフーのサービスを支える各種システムをブロードバンドタワーのインターネットデータセンター(iDC)で運用することで成長を遂げ、2005年には大証ヘラクレス市場へ株式を上場。「Yahoo! BB」への資金調達需要の高まりを受け、ソフトバンクは、一度はブロードバンドタワーに株をすべて売却したが、2009年にヤフーは現IDCフロンティアの子会社化を機にブロードバンドタワーへ再度資本参加。高信頼なiDCでの低コスト運用という命題に一貫して取り組むことで、IDCフロンティアと共同でヤフーのビジネスを側面から支援するとともに、iDCの新時代の創造に精力的に取り組んでいる。
藤原 ヤフーはインターネット企業の先駆者として17年前に設立され、ポータル事業を柱にWeb広告事業やEコマース事業にも乗り出すなど、今なお業容を拡大されており、日本の経済・文化の発展にも大きく寄与されていると感じています。また、宮坂さんが社長に就任した2012年6月からスマートフォン(スマホ)やタブレット端末の普及に対応すべくサービスの再構築を急ピッチで進め、その転換の速さから「爆速経営」と注目を集めています。まずはスマホやタブレット対応に注力された狙いを教えていただけますか。
宮坂 背景には、インターネットへアクセスするデバイスの多様化があります。また、何台ものデバイスを使い分けるようにもなっています。中でもスマホの普及は急速で、PCよりもはるかに頻繁に利用され、利用時間も長い。こうした変化に対応し、次なる成長軌道を描くためにも、スマホ対応は不可欠だと考えています。現在、そのための企業文化や意識の変革に全力で取り組んでいます。
藤原 ヤフーはニュースやファイナンス、スポーツなどを幅広く取り扱っており、日本や世界で起こっていることが手に取るように分かるWebメディア事業を提供されていますね。
宮坂 そうですね。私はヤフーに入社してからWebメディアに一貫して携わってきましたが、開始当初はテレビや新聞などの既存メディアと比べ、速報性や情報の質などにおいて劣っている点がいくつもありました。しかし、その悔しさをバネに見直しを繰り返すことで、今では決して見劣りしないレベルまで到達したと自負しています。
ただ、そこで満足していては、さらなる発展は期待できません。では、次に何をすべきなのかについて考え、たどりついた結論が、ネットだからこそ可能なユーザー参加型メディアの創出です。
ブログの登場を機に、世の中への情報発信が個人レベルでも容易に行えるようになりました。その結果、今ではネットで多彩な意見が交わされていますが、民主主義の観点から見て、非常に素晴らしいことは間違いないでしょう。
この状況をさらに発展させる上で、スマホは強力な武器です。外出先でも気軽にメディアにアクセスできるとともに、デバイスで撮影した写真などを交えながら、ちょっとした情報発信にも活用できるのですから。スマホはまさに“Power To The People”のためのツールともいえるのです。
藤原 ヤフーは自社を「マルチビッグデータカンパニー」として、ビッグデータ活用に精力的に取り組んでいるとお聞きしました。具体的には、どのように活用しているのでしょうか。
宮坂 ビッグデータ活用でわれわれが目指しているのは、「世界で一番、日本に精通した会社になる」ことです。そのために、日本人はもとより、日本を訪れたり、日本で働いたりする外国人についても深く理解すべきだと考え、そのためにビッグデータの収集と分析に取り組んでいます。ヤフーは現在100種類以上のサービスを展開する、世界でも稀な会社です。そのためデータの種類も多岐にわたります。
藤原 日本のすべてが把握できる膨大かつ有用な情報を集め、ビッグデータ分析によってさらに有用な情報を発信される企業を目指しておられるわけですね。
宮坂 確かに情報量は膨大ですが、まだまだ不足しています。われわれは長年のポータルサイト運営を通じて、例えば、ニュースや天気予報など、収集する情報の種類と量を増やし、ユーザーに対する「回答力」の向上に取り組んできました。しかしながら、まだ現状では、駐車場の場所は検索できても、空き状況まではリアルタイムに把握できません。ユーザーの利便性をもう一段階高めるためにも、さらなるデータ収集が求められています。
一方で、同一キーワードで検索しても、人によって求める「回答」は当然ながら異なります。このギャップを埋めるためにビッグデータは大きな価値をもたらします。年齢や性別、嗜好などの切り口から、ユーザーが欲している情報の傾向を把握できれば、検索結果の精度もさらに高められるはずです。
藤原 ブロードバンドタワーは、ヤフーにもご利用いただいているEMCのスケールアウトNAS 「Isilon(アイシロン)」を2006年に取り扱い開始したことをはじめ、京都大学等学術研究機関とビッグデータの共同研究にも取り組んでいます。衛星情報ビッグデータというテーマで、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などが打ち上げた人工衛星から送られてくる観測結果を蓄積・分析する技術を確立するとともに、分析結果を基にした情報サービスの開発を目的としています。
研究が実を結べば、太陽フレアの予測や地磁気の乱れによるGPS測位精度の劣化などを高い精度で予測できると期待されています。将来的にこれらの予測を基にした「宇宙天気予報」をヤフーのサイトに掲載してもらうことも決して夢物語ではなさそうです。
藤原 ビッグデータの活用が進む中、iDCの重要性が急速に増しています。とりわけヤフーでは手掛ける事業の性格からもiDCの重要性は高いと考えるのですが、いかがでしょうか。
宮坂 その通りです。われわれが管理するデータは爆発的な勢いで増加し、サイトへのアクセス数も増え続けています。既に述べた通り、デバイスの多様化などによって、SNSで情報発信が頻繁に行われるようになるとともに、動画投稿サービスも当たり前に使われるようになっていることがその理由です。
これらの膨大なデータを適切に管理し、活用を可能にするiDCはヤフーのビジネスの根幹とも呼べる存在です。そこでの障害はビジネスの停止に直結します。そうした事態を回避するためにも、われわれはiDCに対して「安定稼働」を一番に求めています。
安定稼働に必要とされる仕組みはさまざまです。急激なアクセス増に対してシステムが不安定にならないよう、簡単にスケールできることもひとつの方法ですし、日本が地震国であることを考えれば、どこで地震が発生しても業務を継続できるようiDCを分散させておくことも重要です。既にヤフーでも東北や中部、九州にiDCを分散配置しています。どんな事態に見舞われても稼働し続けるiDCをわれわれは求めているのです。
藤原 ブロードバンドタワーはこれまで、障害発生時に現場へ即座に駆けつけられるよう、都市型iDCの提供に力を入れてきました。しかし、地震などの自然災害やエネルギー問題を考慮すると、都心だけにiDCを集中配置することはリスクでもあります。
そこで、ブロードバンドタワーが新時代のiDCとして提案を積極化させているのが、各地域に設置したiDCと連携した「都心・地域連携型データセンター」です。われわれがヤフーグループのiDC事業者であるIDCフロンティアと協業し、同社の「福島白河データセンター」および「アジアン・フロンティア」(北九州)を利用したiDCサービスの共同事業に乗り出したのも、まさにそのためなのです。白河iDCは関東圏からのレイテンシー(遅延)がとても低いですし、北九州iDCはアジアへのゲートウェイとしても絶好の場所にあると考えています。
従来、地方のiDCは遠方にあるため、メンテナンス面で難があるとされてきましたが、最近のiDCは運用の自動化を目的に機器が構成されており、緊急メンテナンスのための要員を近隣に配置する必要はほとんどありません。また、技術革新の結果、既に高い水準でのリモートメンテナンスも可能になっています。加えて、地方でもネットワークの強化が進み、レイテンシーの問題にも目途がついてきました。こうした背景から、リスク対策のためにも都心・地域連携型iDCが今後主流となっていくと考えているのですが、宮坂さんはこのコンセプトをどう評価されますか。
宮坂 地方にiDCを分散させることは、リスク分散の第一歩として高く評価できます。その点で、都心・地域連携型iDCは極めて有望なコンセプトでしょう。ただし、ただやみくもに分散させても問題が発生します。今後は都市型と地域型のiDCを最適に組み合わせていくことが重要になりそうですね。
藤原 モバイルやソーシャルが広く普及するなど、「ビジネスのデジタル化」がさらに進展する中、一般の事業会社でもiDCを利用する意義はますます大きくなっていきそうです。
宮坂 それは間違いありません。今後はテレビやラジオ、目覚まし時計や体重計など、あらゆる家電の「スマート化」が進み、それらが発するセンサーデータをiDCに集約して活用する動きが盛り上がるはずです。近い将来、電気が通るものすべてが「スマート化」していきます。むしろ社会全体の「スマート化」することからは逃れることができないでしょう。その意味で、iDCをどれほど活用できるかが、企業の競争力を大きく左右するはずです。「iDCを直接見ること」も重要な視点です。私自身、iDCの現場に行ってみると、「いつの間にこれほど巨大なものになっていたのか」ということを実感します。一方で確実に社会を支えるインフラであるiDCは、社会のスマート化と連動して巨大化していっているということを知ることができるのです。
このことを踏まえ、ヤフーは事業会社のiDCの活用を支援すべく、IDCフロンティアを通じてiDCやクラウドのサービス提供にも力を入れています。ヤフーも利用するそれらのサービスは、他社のサービスと比べ、価格やパフォーマンス、安定性などで決してひけをとりません。加えて、都心・地域連携型iDCの利用を検討するのであれば、IDCフロンティアとブロードバンドタワーという強力タッグが現実的な選択肢となるはずです。
藤原 今回のヤフーグループ・IDCフロンティアとの都心・地域連携型データセンターに関する共同事業の開始は、ネット企業のみならず一般企業にとっても大きなメリットをもたらすと感じています。何よりも長年にわたって築き上げてきた、高品質で低コストのヤフーのデータセンターを一般企業の方々が利用することにより、ヤフーとの連携サービスの創出を含め、さらなるパフォーマンス向上が実現できると確信します。レガシーITのサービスを急激に変化させるのは難しい部分もあります。しかしながら、レガシーをレガシーのまま利用できる場所がiDCにはあります。そこには最新の設備とネットワークの安心感、最新の運用体系、そして既に社会基盤となったヤフーのサービスが整っているのです。
宮坂 一般の企業にとっても「ビジネスのデジタル化」は避けて通れません。ならば、メイフラワー号に乗るのと同じです。理由はありません。スマホやクラウド、ビッグデータといったテーマはチャレンジのしがいがあり、いち早く成功を収められれば、大きな成果も得ることができます。われわれは高品質なiDCの提供を通じて、あらゆる企業のチャレンジを力強く支援します。
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提供:株式会社ブロードバンドタワー
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2013年10月18日