デジタルサイネージを活用する札幌市交通局、業務可視化で価値創出人口減少時代に備えたビジネス変革

少子高齢化で人口減少が進む今、生活に欠かせない社会インフラである鉄道がビジネスモデルの変革を迫られている。乗車料金以外の収入源として着目するのは広告。デジタルサイネージに注力する札幌市交通局は、クラウドやBPMといったITの力を使い、広告価値の向上に挑んでいる。

» 2016年03月10日 10時00分 公開
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 移動手段として欠かせない社会インフラである鉄道。一時期は景気の停滞で収益が落ち込んでいたが、近年は景気の回復に伴い、鉄道各社の業績も回復に向かっている。

 とはいえ、長期的な視点で見ると、人口減少という大きな課題がある。今後、乗車料金の収入が大きく伸びることは期待しにくく、問題は深刻だ。こうした状況下で、鉄道各社は新たな収益源を模索し、さまざまな取り組みを行っている。その1つが交通広告だ。

 交通広告というと、電車内の“中づり広告”を思い浮かべる人が多いかもしれないが、実は駅構内にあるポスターや窓に貼ってあるステッカー、車体広告などさまざまな種類がある。中でも最近注目されているのが「デジタルサイネージ」だ。車内ドア上部のディスプレイや駅構内に設置されている柱など、さまざまな場所でデジタルサイネージを活用した情報発信が身近な存在になりつつある。

デジタルサイネージに注力する「札幌市交通局」

photo 札幌市交通局 事業管理部 営業課長 木村武資氏

 北海道札幌市で3路線の地下鉄や路面電車を運営する札幌市交通局も、デジタルサイネージ広告に注力している事業者の1つだ。「広告料収入は、全収入のうち15〜16%を占める第2の収入源」――。こう話すのは、札幌市交通局 事業管理部 営業課長の木村武資氏だ。同局もまた、広告収入の向上を狙ってサイネージを導入したという。

 「一時期は広告収入が20億円を超えていたのですが、リーマンショックと東日本大震災の影響で7割程度まで落ち込んでしまいました。この流れを止めるため、経営計画にデジタルサイネージの導入が盛り込まれました。現在は大通駅に6台設置していますが、2016年2月からは12台体制で稼働する予定です」(木村氏)

 もちろん、現在は中づり広告などの車内広告が広告料収入の大半を占めるが、デジタルサイネージには、人目を引きやすく、時間や天気によって表示させる広告を変えられるといったメリットがあるため、今後はデジタルサイネージが交通広告の中心になると木村氏はみている。

広告受付、管理のフローに多くの課題

photo 札幌市交通局 事業管理部 営業課 資産活用係 藤田大介氏

 しかし、デジタルサイネージを本格導入する際に問題になった点があった。広告の受付管理システムだ。デジタルデータを扱うサイネージには、中づり広告などとは異なるシステムが必要になる。

 さらに従来の広告受付管理にも課題があった。広告空き枠の問い合わせや掲出の申し込みを、電話やFAXで受けていたため、ミスを犯すリスクが高かったのだ。同局の広告事業を担当する藤田大介氏は、当時の運用を「非効率的な面があった」と振り返る。

 「地下鉄の全線全車両における広告は全部で440面あります。広告媒体ごとに申込期間も掲載期間も、そして料金も異なります。これを全て表計算ソフトや手書きのメモなどで管理していたため、作業のミスがあったことは否めません。PCで入力する際に誤って打ち込んでしまったり、ほとんど同じタイミングで電話を受けて広告枠がバッティングしてしまったり。広告物のデザイン審査にも時間がかかり、掲載が遅れてしまうこともありました」(藤田氏)

 また、電話やFAXで問い合わせを受けないと空き枠状況を申込者に伝えられないことから、出稿の機会を損失しているという問題もあったという。こうした課題を解決するため、広告受付システムを刷新し、デジタルと紙の広告を一本化して管理することに決まった。

photo 札幌市営地下鉄の車両。全線全車両における広告は全部で440面あり、広告ごとに掲載の期間や料金が異なり、管理が大変だったという

システム導入と共に、BPMで業務フローを見直し

photo 札幌市交通局 事業管理部 営業課 資産活用係長 中村保司氏

 札幌市交通局は公営であるため、システム構築の契約は入札で行われる。2015年4月に要件を提示して入札を行ったところ、名乗りを上げたのが日本IBMだった。

 「デジタルサイネージが稼働し始めるのが10月だったため、とにかく短期間でシステムを仕上げる必要がありました。全ての広告枠を一元管理できるという点でも、条件は厳しかったと思います。このシステムを構築する中で、IBMには基盤の強さや安定感があると感じました」(同局事業管理部 営業課 資産活用係長 中村保司氏)

 しかし、システムを導入するだけで業務課題が解決できるとは限らない。そこで受注後にIBMが提案したのがBPM(ビジネスプロセス管理)だ。業務プロセスを可視化し、問題点を洗い出して、最適な業務プロセスを模索するシステムは、アナログからデジタルへ移行しようとしている広告管理業務に対して高い効果を上げた。

 「業務を“見える化”することで、ミスを招く原因が分かりました。中でも、自分たちが定めたルールを守り切れていなかったことを再認識したのは大きかったです。BPMを適用する際は、業務の期限を管理することが大事なのですが、今までは業界の慣習などで“なあなあ”になってしまっていた部分があり、それがミスを招いていたのだと認識しました」(藤田氏)

 この結果を受け、藤田氏は新たなシステムを構築する際に、出稿を依頼する広告代理店も巻き込む必要性があると感じ、新システムの説明で12社を回って理解を求めた。このようにステークホルダーも巻き込んでプロセスを改善したことが、プロジェクト成功につながったといえる。

 そして、今後広告の仕様や業務が変わったときにも、その都度最適な業務プロセスを導き出せる点もBPMの大きなメリットだ。

構築期間は約4カ月、現場のユーザーを巻き込んだ開発手法

 広告受付管理システムの導入は、他の事業者も巻き込む大きなプロジェクトとなったが、期間内にしっかりとシステムを構築できたのは、IBMの力量によるところが大きいという。

 「多種多様な広告の種類や、煩雑な業務に合わせてソリューションを当てはめていくのは難しかったはず。電車は絶えず動いているので、掲出するタイミングや作業時間などは、時々われわれでも分からなくなってしまうことがあったほどです。コミュニケーションを取り、お互いの意識にズレがなかったために開発のスピードを確保できたのが、プロジェクト成功の大きな要因だと考えています」(藤田氏)

 IBMは開発を効率的に行うため、BPMツールを利用して、業務プロセスが正しく流れているかどうかを確認しながら、修正や追加、実行を繰り返す「プレイバック」と呼ばれる手法を用いた。現場のユーザーを巻き込んだプレイバックを2カ月で3回実施、得られたフィードバックを基に開発の優先順位を決めたという。課題であった現場への指示も、新システムでは自動で文書にまとめられるようになっている。

 また、クラウドでシステムを構築したのも開発期間の短縮につながったポイントだ。IBMはクラウドでBPMサービスを提供しており、サーバやソフトウェアの調達・導入・構築にかかる時間を大幅に短縮している。「行政は割と自前でサーバを持って管理していくというケースが多いのですが、管理システムをクラウドにすることで、セキュリティ管理やデータ連携、他のシステムとの連携なども短期間で構築できました」(木村氏)

業務効率化とビジネス創出の両面で効果

 新たな広告受付システムが稼働して約3カ月。現場では、業務効率化とビジネス機会の創出、2つの効果が上がっているという。

 業務効率化の面では、広告の申し込みを全てWeb上で行えるようにしたことで、業務の抜け漏れといったミスがほぼなくなった。人力による空き枠確認もなくなり、その時間を広告の“広告物デザイン審査”に充てている。

 「公営の企業として、広告物のデザイン審査は時間をかけるべきポイントですが、今までは他の業務に追われて、審査に十分な時間がかけられているとは言えない状況でした。特に広告受付業務を外部に委託して以降、私たち交通局がデザインを見るのに大きな労力がかかっていたのですが、新システムを導入してから、デザインの最終確認が容易にできるようになったのは大きいですね。デザインの確認までシステムで行うのは、革新的な事例といえるでしょう」(藤田氏)

 また、広告枠の空きを可視化したことで新たな案件を受注するようになったのも大きな変化だ。同局の交通広告には比較的低価格の商品もあるが、この少額枠の発注数が増えたという。

 「今まであまり申し込みのなかったような企業からの広告掲載が増えました。特に札幌市内で展開している小さな会社からの出稿が増えたのはうれしいですね。今まで広告代理店も全ての空き枠を把握できていなかったのだと思います。空き枠が可視化されたことで、提案の幅が広がった結果ではないでしょうか」(藤田氏)

今後はデータ活用を通じ、広告価値の向上へ挑戦

 新システムでさまざまな効果を上がっているが、今後はシステムにたまったデータを利用し、さまざまな分析へと手を広げていく構えだ。

 「今までは広告の分析と言っても、広告料全体の増減くらいしか意識していませんでした。各広告主にどんな傾向があるのか、札幌市交通局はどのような広告主に強いのかといったことを、出稿や掲出の実績をもとにさまざまな視点で分析したいですね。これから人口減少時代を迎え、乗車料金での収益が厳しくなる中で、広告の価値をいかに高めていくかが課題だと捉えています」(藤田氏)

 デジタルサイネージ広告の市場は、東京オリンピックが開催される2020年までに、現在の4倍以上の規模に拡大するといわれている。札幌市交通局も中期経営計画において、今後5年間でデジタルサイネージの広告売り上げを3億円にすると宣言しており、同局がIBMに寄せる期待は大きい。

 「デジタルサイネージは札幌市交通局の目玉事業と言えます。システムの素人であるわれわれとは異なる視点でデジタルサイネージ広告の受注、管理を拡張する提案や問題提起をしてほしいと考えています。デジタルサイネージは始まったばかりで、まだまだ伸びしろがあるはず。また、いろいろな事業者がこのシステムを採用してくれれば面白いですね。クラウドなので他の交通局との連携や、交通以外の広告ともつながることができますし、そこからまた、新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません」(木村氏)

 交通広告で先進的な施策を行っている札幌市交通局。業務の可視化を通じて、課題解決や業務効率化、そして新たなビジネスモデルを模索していく――。人口減少や技術革新など、外的要因が激しく変化する時代の中でビジネスの革新を生み出す方法として見習うべき点は多いはずだ。

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提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2016年3月30日

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