成功の秘訣は寸劇? ANAエアポートサービスのビジネスチャット導入事例から学ぶ

せっかくシステムを作ったのに、誰にも使ってもらえなかった……。そんな経験のある情報システム部門は少なくないだろう。真にユーザーに使ってもらえるシステムを作る手法として、菱洋エレクトロが進める「デザイン思考」を、ANAエアポートサービスの導入事例から見てみよう。

» 2018年03月01日 10時00分 公開
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 長い時間をかけて構築したシステムなのに、稼働したら誰も使ってくれなかった――。そんな経験をした情報システム部門は少なからずいるのではないか。システムとしては完成していても、当初のもくろみ通りに利用されていないシステムは案外多い。それではプロジェクトは成功とはいえない。ユーザー部門や経営陣からすれば、「使われないシステム」は単なるお金と時間のムダなのだ。

 ビジネス環境の変化が激しい昨今、開発初期にシステムの要件定義を行っても、リリース時には要件やユーザーのニーズが変わってしまうケースも少なくない。そこで、最近では、徹底してユーザー視点を取り入れる「デザイン思考(Design Thinking)」という手法が注目されている。

 エレクトロニクス商社の菱洋エレクトロもこのアプローチを実践する一社だ。商社ではあるものの、近年ではITサービス事業も行っているという。同社で、デザイン思考を取り入れたソリューション導入を進める志村幸洋さんは次のように話す。

 「商社とはいえ、単にライセンスを販売して『後は使ってね』というスタンスでは、システム導入は上手くいかないですし、お客さまの満足度も上がりません。他社との差別化のためでもありますが、システムを使って効果が出るまでをサポートする必要がある。そのために、デザイン思考は有効なアプローチだと考えています」(志村さん)

飛行機の定期運航を支えるANAAS、情報共有に3つの課題

photo 菱洋エレクトロ ICT営業第2本部 マーケティング部 マーケティンググループ 主任 志村幸洋氏

 同社が最近、デザイン思考のアプローチでシステム導入を支援した企業にANAエアポートサービス(以下、ANAAS)がある。ANAASは羽田空港における旅客サービスや運航支援のオペレーションを行っているが、菱洋エレクトロに「組織体制の変化に合わせて、業務効率を改善したい」と相談があったという。

 「まずは、『コミュニケーションツールを入れれば、何か変わるのでは』というところからのスタートでした。ユーザー方々の前で、ひとまずいわゆる一般的な提案をさせていただいたのですが、これが全く共感を得られず大失敗でした。その後、「まずは現場を見よう」ということになり、ANAASにご協力いただき、チームメンバー7人で丸一日かけて、羽田空港で働く皆さまを間近で見学させていただきました」(志村さん)

 羽田空港では3チームに分かれ、搭乗口や機側(駐機中の航空機のそば)、オペレーションを行っているエリアなどを回り、それぞれが集めた情報を集約した。彼らが日々どのような仕事をしているのか、課題はあるのか。ツールを利用する時間はあるのか……。「会議室で話したり、考えたりしているだけでは、絶対に分からないことだらけだった」と志村さんは振り返る。

photophotophoto ANAASでは、航空機の定時運航やサービス向上を目指し、航空機のそばやゲートにいる担当者、そしてオペレーターなどが連携して動いている

 その後、集めた情報を基に業務の流れを可視化した。ANAASでは1つのインシデントへ対応するために、多くのプレイヤーが関わることになる。例えば、飛行機に乗り遅れそうな顧客がいれば、グランドハンドリングにおけるゲート担当者や機側の担当者が連携しなければならない。しかし、その情報共有のツールは手持ちの無線機や電話であるため、志村さんのチームは、以下のような課題を見いだしたという。

  • 聞き間違いや聞き漏らしによる聞き直しの防止
  • 呼び出し応対による作業の中断の軽減
  • 情報伝達の確実性の維持

 「こうした課題は、ANAAS内でも認識されていたとは思いますが、非常に苦労していた部分があったと思います。細かいことだと思うかもしれませんが、飛行機を1便飛ばすために行われる作業というのは、大体40分程度で完了させる必要があります。聞き間違いや伝達ミスによる30秒や1分のロスが積み重なれば、定時運航に影響を及ぼす可能性が出てくる。そう考えれば、決して小さな問題ではありません」(志村さん)

 コミュニケーションツールの導入において、業務の可視化は不可欠ともいえる作業だが、意外と簡単ではない。通り一遍のヒアリングでは、ユーザーが“当たり前”だと思っていることは話してくれないためだ。志村さんたちは、業務上のコミュニケーションのフローを可視化し、ユーザーとイメージを共有しながら、ヒアリングやアンケートを繰り返し、気付きを得ていったという。

photo 志村さんのチームは、業務のフロー図をホワイトボードなどでまとめていった

「寸劇」がシステム導入成功の秘策?

 業務課題が明確になれば、ITによる解決方法も見えてくる。一般的な導入事例であれば、ここから一気にツールの導入を進めていくところだが、菱洋エレクトロが次に行ったのは、なんと「寸劇」だった。

 「ツールの方向性も決まってきたので、本当にそのツールが使われるのかをUX(ユーザーエクスペリエンス)の点から検証しようと考えました。例えば、やりとりに使う定型文は最初200ほど候補がありましたが、そんなにあってもユーザーは使いこなせません。利用シーンに即した、本当に使われる言葉だけを選ぶために、業務フロー図を基に現場を模した寸劇を行いました。その結果、定型文は17個にまで絞ることができたのです」(志村さん)

 利用シーンのシミュレーションとはいえ、あくまで会議室の中で行うため、ゲートを長机で再現するなど、完全にアナログなものだという。大の大人が集まって、真剣に寸劇をする様子は異様に映るかもしれないが、早い段階でシーンまで含めたプロトタイプを提示することで、実利用に向けたフィードバックが得られるともに、現場の人間も巻き込むこともできるのだ。これもデザイン思考で重要なポイントの1つといえる。

photo ビジネスチャットツールの「direct」。ユーザーに合わせたカスタマイズがしやすいのが特徴だ

 こうしたステップを経て、菱洋エレクトロが提案したのはビジネスチャットツールの「direct」だった。音声通話による同期的なコミュニケーションではなく、非同期型のコミュニケーションにすることで、個々のタイミングでメッセージを処理できる上、内容をアーカイブできるため、聞き間違いによるロスも防げる。

 トライアルも合計3回実施するなど、入念に行った。最初はカスタマイズを行わない状態でフィット&ギャップを行い、出てきた課題を解決する施策を講じて再度トライアルを実施。最後の1回はカットオーバーに向けた“慣れ”のためのトライアルだ。全社員に使ってもらうという方針のもと、1500人程度に使ってもらったそうだ。トライアル後には、必ずアンケートという形で、それぞれユーザーの感想を集めたという。

 「トライアルを行う前は『スタンプを使っていいかどうか』といった議論もされていましたが、実際に試してみると、ユーザーが積極的に使っていたり、普段は手袋で作業するような機側担当者の方もスマホを手に取ってくれたりと、トライアルで初めて分かったことも多かったですね。

 ANAASの方々はトライアルに非常に協力的でした。新しいものを積極的に受け入れる企業風土に加え、チャットツールに対する親和性が高かったように思います。現場発でツールを改善するアイデアが出てきた例もありました」(志村さん)

 こうして2017年7月にdirectが本稼働。気軽に連絡が取れるようになったことで、コミュニケーションが円滑になった。これまで相手を気遣って連絡していなかったことや、無線がつながらなかったために伝えきれなかったことも話せるようになり、コミュニケーションの量も増えているそうだ。菱洋エレクトロでは、継続的な活用のためにデータ分析サービスを提供しているが、その中で分かったこととして飛び交うメッセージの量が利用開始から半年ほどで約2倍になったという。directがANAASの文化として根付いた証拠だろう。

徹底的な現場主義――デザイン思考は「古くて新しいアプローチ」

 ユーザーの課題を綿密に調査するところから出発し、時にアナログなプロトタイピングを繰り返しながら、ユーザーと共にプロダクトやシステムを作り上げていく――。デザイン思考は、一見、非効率的に見えるかもしれないが、真に使われるシステムにするためには、避けては通れないプロセスだといえる。

 「寸劇などもそうですが、やはり、われわれがどれだけユーザーの皆さまと同じ視点に立てるかということが大切だと思います。“IT屋”という立場ではダメで、例えば、ユーザーの皆さまが話す言葉を理解するために用語集を作ってみるとか、彼らの業務を肌感覚で理解するということが必要なのだと思います。私たちはもともとSIerではないので、自然とそういう手法を採るようになったように思います。

 また、常にアウトプットを重視することが大切です。順番や手法が明確にきまっているわけではないので、議事録を始め、必ず議論や行ったことが蓄積していくようにしなければいけません。アウトプットも硬いものばかりではなく、ビジュアル的なモノだったり、プロトタイプやモックなどを作ると、イメージ合わせや議論が進みやすくなると思います」(志村さん)

 菱洋エレクトロでは、他社でもデザイン思考を用いたシステム導入を進めているほか、組織的にデザイン思考を進める部署を強化している。営業だけでなく、マーケティングや技術部門なども巻き込み、同社ならではの新しいデザイン思考プロセスの確立を目指している。

 「デザイン思考自体は、手法を知っていれば他社もできることですが、菱洋エレクトロは、エレクトロニクス商社としての幅広い製品やサービスのラインアップと、多様な販路を開拓しています。調査やヒアリングで得た気付きを、正しく具現化するための手段や技術を持っているということです。

 弊社のICT部門には『フィールド&モバイルワーク・イノベーション』という活動コンセプトがあります。現場に着目して、彼らの業務をよりよくしていきたい。もちろん、従来型のシステム導入の進め方をないがしろにするわけではないですが、やはり課題解決のカギは現場にあります。現場のニーズを的確に把握し、適切な製品・サービスを導入することで、大きな効果が生まれます。われわれとしては、現場を元気にしたいと考える企業のお手伝いができればと考えています。そういう意味で、デザイン思考は古くて新しいアプローチなのだと考えています」(志村さん)

ANAエアポートサービス 業務室主席部員 松村有資氏のコメント

 われわれ、ANAエアポートサービスは、安全と定時の運航を一便一便を積み重ねております。

 一便にはさまざまなスタッフが連携しています。スタッフ間の情報共有、引き継ぎ、指示などのコミュニケーションの機会は多岐にわたります。確実性や効率性が求められるため、コミュニケーション基盤として、今回のdirectおよび菱洋エレクトロが提供するサービスは重要な役割を担います。今後も、継続的な業務プロセス改革を遂行していく上で、サービスのさらなる発展と充実を期待しています。

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提供:菱洋エレクトロ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2018年3月31日

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