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» 2018年12月11日 10時00分 公開

その“過剰な保守”は本当に必要なのか 脱“ベンダー丸投げ”で生まれ変わる日本郵便、IT改革の舞台裏

コスト削減の文脈で語られがちな第三者保守サービスだが、日本郵便のCIO、鈴木義伯氏は、IT部門に誇りを取り戻し、新たな挑戦につながる道を切り開くものだと話す。いったいどういうことなのか。

[PR/ITmedia]
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 システム保守にかかるコストの負荷は、多くの企業が頭を悩ませている問題だ。それが新たな戦略投資の足かせとなっているケースも少なくない。その原因の1つとして指摘されているのが、いわゆる“ベンダーへの丸投げ”による過剰な保守サービスだ。

 この問題の解決に真っ向から挑んでいるのが日本郵便だ。同社は、欧米では既に一般的な第三者保守の活用を決断。日本郵便で専務取締役兼CIOを務める鈴木義伯氏の指揮の下、グローバルで豊富な実績を誇るカーバチュアを一部採用することで、保守コストの削減に舵を切った。本記事では、その取り組みの背景と舞台裏について同氏に聞いた。

Photo 日本郵便で専務取締役兼CIOを務める鈴木義伯氏 (C) JAPAN POST Co.,Ltd.

新たな時代の郵便事業を“自らの手で”創出するために

 雨の日も風の日も、預かった便りを確実に送り届ける――。そんな人と人との心をつなぐ郵便事業を国内で一手に担っているのが2007年に発足した日本郵便である。日本初の「郵便役所」が1871年に設置されて以来、その前身の時代も含め、日本の郵便と物流を長きに渡って支え続けてきた。

 そんな同社が今、取り組んでいるのが、IT化の進展によるニーズの変化を踏まえた新たな事業モデルの構築だ。日本郵便のCIOを務める鈴木氏は、「SNSや電子メールなどの普及に伴って郵便の数が漸減する一方、引き受ける荷物の数は、ネット通販の普及などによって急激に増加しています。こうした変化を踏まえ、広大な郵便ネットワークを持つ当社ならではの強みを生かし、より時代に合った効率的で高品質な商品、サービスの提供に向けた事業モデルを、ITを駆使して創出していく必要があります」と意気込む。

 無論、その道のりは簡単なものではない。業務にITを活用するには、ITにまつわる知識や経験、アイデアを備えていることが前提となるが、日本郵便はシステムの構築から運用までの多くを長らく外部企業に委託してきており、ナレッジを蓄える機会を喪失していた。

 鈴木氏は2017年のCIO就任以来、さまざまなIT施策を矢継ぎ早に展開してきた。その代表格が、自社開発の布石となるEA(Enterprise Architecture)の策定だ。

 「IT活用を推進するには、新たな開発プロジェクトに挑戦できる環境づくりが必要です。そこで“作る喜び”を実感して初めて、社員にやる気が芽生えるのです。その上でEAを土台に業務部門とIT部門が協力することで、開発したシステムが『自分たちのものだ』という“当事者意識”が醸成されます。その過程において、必要な知識や技術の蓄積も進むとともに、自らの手で責任を持ち、システムをより良くしていこうという気概も生まれるはずなのです」(鈴木氏)

 こうした大きな目的の達成に向け鈴木氏は、ある業務の改善に着手する。それが、多くの企業と同様、外部任せとなっていたハードウェア保守業務の見直しであった。

保守の見直しを宣言、ベンダーからの思わぬ回答とは

 日本では、IT機器の調達から廃棄までの一連の業務を、調達メーカーやその関連企業に任せることが一般的だ。製品に精通し、交換部材の調達も容易なため、万一の際にも迅速な復旧が見込めるのがその理由だ。こうした中、鈴木氏が注目したのが「ベンダーの保守業務に必要以上のサービスレベルを強いていたこと」(鈴木氏)である。

 「そもそも論でいえば、保守のサービスレベルはシステムが求める可用性、重要度などを基に決定すべきです。しかし、当社は長年、保守をいわば丸投げしてきたことで、安定を必要以上に求め、さらに保守品質も必要以上に高レベルで求めていた。この状況を是正し、保守品質レベルを適正化すれば当然、保守コストは削減できると考えたのです」(鈴木氏)

 この方針の下、日本郵便では自社システムの調査を実施。その結果を基に、障害時に業務を継続できるシステムについては「24時間365日、故障後4時間以内に修理を完了」から「1週間以内、平日の日中修理」へと保守サービスレベルの見直しを求めた。しかし、保守ベンダーからの回答は予想とは異なるものだった。

Photo 日本郵便が行ったハードウェア保守形態の見直し

 「提示した条件でも約1.5割しかコストは下がらないと報告を受けました。私は東京証券取引所のCIO時代にも保守サービスレベルを切り下げたことがあり、その経験に照らしてみると、削減レベルは腑に落ちないと感じました。保守料金は実交換作業の人件費、交換部材費、作業員の交通費、その他諸経費の積み上げで算出されます。よって、本来なら作業頻度が減ればそれに応じて保守コストも減るはずの構造なのですから」(鈴木氏)

 こうした苦い経験から鈴木氏が紆余曲折を経てたどり着いた策が、第三者保守である。第三者保守とは専業ベンダーがメーカーに代わって保守業務を行うサービス。一般に料金はメーカー保守の半額以下に設定されており、保守コストを削減するための施策として欧米ではすでに広く利用されている。日本でもリーマンショック以来、大量のIT機器を抱える金融機関などでの利用が広がっている。

 ただし、実際の利用は日本郵便にとって初めてのこと。そこで、まずは世界12カ国でサービスを提供する第三者保守大手のカーバチュア・ジャパンを含めて2社に対してサービス内容についてのヒアリング調査を実施。その後、総勢4人の専任チームを組織し、導入の検討を本格化させた。

「責任は俺が持つ」に込められた思い

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 第三者保守への切り替え対象となったのは、先に保守サービスレベルを切り下げ、2018年3月で保守サポート契約が満了を迎える629台のIT機器だ。内訳はサーバが405台、ストレージが95台、ネットワーク機器が129台である。

 検討当初、専任チームは第三者保守に対して漠然とした不安を感じていたというが、IT機器の故障回数と故障部位を改めて確認したところ、実はそれほど大きなリスクはないと分析。日本郵便 IT企画部にて第三者保守専任チームリーダーを務める柳田智彦氏は、「全てのハードウェアは冗長化されているため業務は継続でき、また、これらのハードウェア修理作業のほとんどは、ディスク等の交換機構が付いた部品の交換による復旧と比較的簡単なものでした。リスクとコスト削減の効果をはかりにかければ、負えるリスクと判断したのです。加えて、『責任は俺が取る』という鈴木の一声が決め手となり、第三者保守への切り替えを決定しました」と当時を振り返る。

 そこには次のような鈴木氏の思いもあった。

 「グローバルの視点で企業のITコストを比較すると、日本は米国よりも高い傾向にあります。その大きな理由は、日本の場合、“外部ベンダーに任せるシステム運営作業の割合が大きいこと”なのです。無論、先進技術をいち早く取り込むには、外部の専門家に作業を委託するのも1つの手でしょう。しかし、今やIT技術の多くはコモディティ化が進み、企業のIT担当者が自身で扱えるようになってきています。ならば、ITを外部に任せるのではなく、自ら主体的にハードウェアを選択し、開発できる体制を整え、スピードとコストの両面でグローバルで競争できる状況にしなければなりません」(鈴木氏)

Photo 従来は企画段階でサービスレベルを決定していたことから過剰な仕様になっていた
Photo 今後は重要度と可用性を見極めた上でサービスレベルを決めるように変更する

浮かび上がった「責任分界点のあいまいさ」

 第三者保守への切り替えを決断したのは2017年12月である。これを機に、翌年3月に一般競争入札を行い、同4月に切り替えを行った。最終的に落札したのは最も安価な価格を提示したカーバチュアだ。

 そして4月、いよいよ一部の保守業務がカーバチュアに引き継がれたが、切り替え当初は幾つかトラブルに見舞われたという。

 一つ目が日本語によるコミュニケーションの問題だった。入札の公告では「込み入った作業はない」との判断から作業員の日本語の習熟度は特に要求していなかった。だが、カーバチュアの機器交換作業の事前チェック時にコミュニケーショントラブルが生じたのである。「もっとも、その点についてカーバチュアに相談したところ、日本語を理解できる作業員に迅速に交代してもらえました。以後、問題は発生していません」(柳田氏)

 二つ目が「保守契約の責任分界点のあいまいさ」だった。IT機器は部品とそれを制御するファームウェアで構成され、部品は第三者保守で稼働が保証される。しかし、ファームウェアについては、従来のベンダーに復旧作業を断られてしまった。対策として、日本郵便が自前で作業を行う体制を整えて対応したという。2019年度からは、ベンダーとの分掌も整理でき、協力を受けられることとなった。

保守コストを8割減 “+α”の効果も

 それから約7カ月――。効果は保守コストの8割減という数値として明確に表れ、副次的な効果ももたらされた。

 「第三者保守に切り替えた後、これまでに発生した障害件数はサーバで3回、ストレージのディスクで42回、トラブルに至ってはゼロです。障害状況の報告を現場のエンジニアから直接受けるようになり、われわれの認識よりIT機器の信頼性が上がっていることを実感しています。それに伴って、システムにまつわるさまざまな判断の精度が確実に底上げされつつあります」(柳田氏)

 日本郵便はこうした成果を踏まえ、第三者保守への移行を加速させることを決めており、現在、2019年春に向けて準備を進めている最中だ。その規模は今回の2〜3倍になる予定であり、柳田氏はプロジェクトを進める上で、「カーバチュアが開催するユーザー交流会が、大いに役立ちました」と話す。

 また、その先には、調達するハードウェアの保守事業者を1年ごとに見直すことで、さらなる保守コストの削減に取り組むことも計画している。

 第三者保守への切り替えは、コスト削減だけでなく、「社内でIT部門が存在感を示すための絶好の手段でもある」というのが鈴木氏の考えだ。

 「第三者保守は、成果が“コスト削減額という数値”で明確に表れます。しかも、新たにシステムを構築するよりも着手しやすく、成功の可能性も高い。そこで成果を上げればIT部門の社内的立場が上がり、社内の協力も得やすくなります。事実、当社でもコスト削減が評価され、他部署との連携が従来にも増して密になりました。つまり、第三者保守はコスト削減だけでなく、IT部門による新たな挑戦の第一歩ともいえるのです」(鈴木氏)

 コスト削減という文脈で語られがちな第三者保守サービスだが、IT部門に誇りを取り戻し、新たな挑戦につながる道を切り開く効果もあるというのは見逃せないポイントといえそうだ。

Photo 日本郵便で専務取締役兼CIOを務める鈴木義伯氏とカーバチュア・ジャパンの村田達哉氏 (C) JAPAN POST Co.,Ltd.

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提供:カーバチュア・ジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2019年1月19日