オムロンが開発した無停電電源装置(UPS)用の新しいネットワークカード「SC21」は、HCIのデファクトスタンダードとして知られるNutanixに対応するもので、国産メーカーとして初めて「Nutanix Ready」の認証を取得した。この電源ソリューションの開発には、どんな思いがあったのか――。
「Nutanixを安全にシャットダウンできない!」
HCI(ハイパーコンバージドインフラ)が注目を集める中、導入を検討する企業の中からは、そんな声が上がっており、それが失注につながることすらあった――。SB C&SでHCIの営業を担当する萩原隆博氏は、そう、当時を振り返る。
時を同じくして、「今後のUPS事業展開をどう進めていけばいいか」と、UPS事業の今後に思いをはせていたのが、当時、オムロンの営業を務めていた服部貴明氏だった。
UPS事業の今後に危機感を持っていた服部氏と、よりよいHCI製品を提供したいと考えていた萩原氏。この二人の出会いが、よもや国産メーカー初の「Nutanix Ready」認証取得商品を生み出すとは、誰が思っただろうか――。
本記事では両氏に、「Nutanixを安全にシャットダウンするための製品」が生まれるまでの紆余曲折と試行錯誤の課程を聞いた。
―― Nutanixに対応したUPS用のネットワークカードを開発するにあたり、オムロンと SB C&Sが協業することになったきっかけを教えてください。
服部: オムロンでは350VA〜5kVAのUPSをラインアップしていますが、これまではPCやNASに製造業を中心とする産業向けを主なターゲットとしており、仮想化やHCI化が進むITの世界のお客さまのニーズを取り込めていない側面がありました。
もちろん、そこに積極的にアプローチしていきたいという思いは持っていたのですが、何から始めたらいいのか分からないというのが率直な事情でした。そうした中、2016年に当社が出展したある仮想化ソリューションのイベントでSB C&Sの萩原さんから声をかけていただき、私たちが何をすればよいのか、どんなものを作ればよいのか教えてくださいと、腹を割って相談を持ち掛けたのがそもそものきっかけです。
萩原: オムロンに限らず当時のUPSは物理サーバにしか対応しておらず、NutanixをはじめとするHCIに適用できるソリューションがありませんでした。具体的には停電などで電源供給がUPSに切り替わった際に、HCIに統合された仮想サーバ群を設定時間内に安全な手順でシャットダウンすることができず、それを実現するために個別対応の膨大なSI工数がかかっていたのです。
そんな大変な手間やコストがかかるなら、今まで通りの3層構造の仮想基盤でいいよと、Nutanixの商談そのものが立ち消えになってしまうケースもあり、私たちディストリビューターにとっても切実な問題でした。その課題解決に並々ならぬ意欲を示し、食らいついてきてくれたのが服部さんでした。
服部: 私としても、「仮想化やHCIに関して分からないことは、どんなことでも全て教えます」と萩原さんに言ってもらえたことは、とても心強く感じました。
萩原: もっとも、ディストリビューターの立場から本音を言えば、私たちが望むUPSを作ってくれるのならメーカーはどこでも良かったんですけどね(笑)
服部: 冷酷だなあ(笑)
萩原: 私たちの要望を率直に聞き入れ、真剣に対応してくれるメーカーのオムロンと出会えたことは幸運でした。
――両社が解決すべき課題とはどのようなものだったのか、もう少し詳しく教えていただけますか。
萩原: HCIに垂直統合された仮想サーバを問題なく停止させるためには、その筐体の外からシャットダウンのスクリプトを送り込んで実行する必要があります。ただ、そのためだけに、別サーバを立てるとなると、お客さまは「せっかくHCIにサーバもストレージも全て統合したのに、なぜわざわざ新しいサーバを置かなければならないのか」と、不満を覚えるでしょう。要するに、この機能をUPS自体に持たせたかったのです。
服部: とはいえ、当社がラインアップしている47機種のUPS製品の全てに、直接その機能を組み込むのはどう考えても無理です。そこで、これまでオプションとして提供していたネットワークカードを機能拡張し、Nutanixに対応させるという方法をとりました。
萩原: 開発の初期段階から、ネットワークカードの拡張ありきで臨みましたね。
服部: 振り返ってみて思うのですが、そうした課題認識やブレーンストーミングの早いタイミングで開発部門のメンバーを引き連れて萩原さんを訪ねたことが大きな転機となりました。
仮想化やHCIの市場がどれだけ急速に成長しているのか、そこに参入することはオムロンのUPS事業にとっていかに大きなチャンスなのか、技術課題を克服するためにどんな方法があるのか――。Nutanixのディストリビューターとして知名度の高いSB C&Sの萩原さんから直接お話を伺ったことで、皆の目の色が変わりました。
――ただ、以前からオプション提供してきたネットワークカードを機能拡張するといっても、決して簡単なこととは思えません。
服部: 一番苦しかったのは、ITの世界のスピード感に対応することです。新製品の開発となれば、マーケティング期間を含めて数年の期間がかかるのが一般かと存じます。これに対してITは1カ月単位でイノベーションが起こっている世界です。このギャップを埋めるのは本当に苦労しました。
萩原: のんびりしていると他社にあっさり巻き返され、市場を全て奪われてしまいますから――。
服部:そんなプレッシャーもあったからこそ、実質1年程度という当社としては画期的な短期間でNutanixに対応したUPS用ネットワークカードの新製品「SC21」を開発し、2018年7月にリリースすることができました。
開発陣は本当に頑張ってくれたと思いますし、モノづくりに対する社内の文化や価値観も、IT寄りの世界へと大きく変わってきたような気がします。現在は皆がITのイノベーションを強く意識したモノづくりに臨むようになりました。
――新ネットワークカード「SC21」はどんな特長がありますか。
服部: 何より訴求したいのは、SB C&Sさんの後押しもあって、国産メーカーとして初めて「Nutanix Ready」の承認を取得したことです。これはニュータニックスが各メーカーの製品に対して動作保証を認定しているもので、SC21を搭載したオムロンのUPSはお客さまのNutanix環境で安心してご利用いただけます。
萩原: これは本当にすごいことで、市場に大きなインパクトを与えたと感じています。なお、SC21を開発する過程ではオムロンに動作検証用のNutanixの実機を導入していただき、両社のエンジニアが共同して入念な動作検証を行ってきました。その詳細な結果レポートをホワイトペーパーとしてまとめており、SB C&SからNutanixとオムロン製UPSをセットで購入していただいたパートナー販社さまには、ご希望があれば無償で提供しております。
服部: そしてもう1つ、これも萩原さんから、アイデアをいただいて強くこだわった点ですが、Nutanixのシャットダウンを実行する標準的なスクリプトのパターンをオムロン側でいくつか用意し、最初からSC21に組み込んでいます。
もちろん、お客さまご自身でスクリプトを作成して実行することも可能ですが、その作業は技術的なスキルに依存してしまいます。このハードルを少しでも下げたいと考えたのです。メニューから任意のスクリプトを選択していただくだけで、すぐにUPSの運用を始められます。
萩原: この機能は、販社やその先のお客さまからも非常に好評で、Nutanixの商談を活発化させる材料にもなっています。
――今後に向けて、オムロンのUPSはさらにどんな進化が期待できますか。
萩原: 今回、新ネットワークカードSC21がリリースされたことでUPSのNutanix対応は実現しましたが、これからもお客さまのニーズは、より多様化していきます。そのニーズを満たすソリューションを展開していってほしい。
また、HCIのプラットフォームはNutanixだけではありません。HPEのSimpliVityやヴイエムウェアのHCI Powered by VMware vSANなどさまざまなソリューションがあり、対応を進めていく必要があります。
服部: SB C&Sさんが仮想化やHCI市場の最前線でキャッチアップしている、そうしたお客さまのニーズを真剣に受け止めつつ、オムロンとしてもUPS機能のさらなる改善を図り、便利にしていきたいと考えています。
また、HPE SimpliVityやHCI Powered by VMware vSANなど、Nutanix以外のHCIソリューションについても、動作検証を進めているところです。オムロンが今後より成長していくためには、お客さまのニーズに密着したスピード感を持ったモノづくりが、ますます重要となります。
萩原: 少し捕捉しておくと、UPSは今後の市場で急拡大は望めないというお話がありましたが、だからといって決して成熟した市場ではありません。例えばIoTの進展によって、社会の至る所にITが遍在するようになると、必然的に守らなければならない機器もどんどん増えていくからです。
そうした中で、広義の電源制御・管理のソリューションと捉えたUPSが担うべき役割も広がっていきます。ならば、そこに向けてどのようにアプローチしていくべきかというと、やはりお客さまが求めているのは使い勝手の良いシステムにほかなりません。
例えばNutanixは、「Invisible Infrastructure(インフラを気にしない)」というコンセプトを打ち出しています。同様にUPSも、お客さまに存在を意識させることなく、電源供給の安全性を提供していくソリューションに進化していく必要があります。概念的な話になりましたが、そうした世界を作っていきたいと考えています。
服部:これからもよろしくお願いいたします。
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提供:オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2019年3月31日