大企業を中心にRPAの導入が進んでいる。現在まさに過渡期といえる状況だが、トライアルを終えて本格展開をするにあたって、さまざまな企業で共通の課題が顕在化している。いち早く課題を乗り越えて、生産性の向上を実現するヒントとは。
現場がクライアント型のRPA(Robotics Process Automation)を導入し、個人レベルで業務の自動化ができたとする。「これはうまくいった」という報告を聞いた経営者は、「それなら全社展開して、企業全体の生産性を上げよう」と思うものだ。
そのとき、個人レベルで見えていなかった問題が顕在化し、担当者が頭を抱えることになる。例えば「野良ロボット対策」や「RPAを管理するための手動タスクの増加」「マルチRPA環境の運用」などだ。
競合他社が類似の課題に悩む中、それを乗り越え、頭一つ抜けた生産性の向上を実現したい企業は何をするべきか。本稿は、今まさに過渡期にあるRPAの本格導入をいち早く完成させるためのヒントを解説する。
「RPAが浸透し、本格展開していった結果『期待したほどの効果が得られない』『かえって煩雑な業務が増えた』と感じる声を聞いています」と語るのは、日立製作所の西部憲和氏(デジタルソリューション推進本部 ソリューション事業推進部 主任技師)だ。
業務自動化のニーズは、定型業務が中心の基幹業務から、多種多様な非定型業務を回すバックオフィス業務まで拡大している。しかし、西部氏は「RPA導入検討時に、実際の運用を見越した設計が不十分だと、期待する効果が得られないことがあります」と警鐘を鳴らす。同氏によれば、RPAの全社展開に伴うありがちな課題は以下の4つだ。
バックオフィス業務の自動化でやっかいなのが「ほぼ定型作業だが、ちょっとした判断が必要なタスク」の対応だ。
例えば「毎週月曜日に受信メールを確認し、特定の添付ファイルがあれば内容を読み取って帳票に転記する。月曜日が祝日の場合は、次の営業日に振り替える」や「5日ごとに実行する(五・十日)。ただし月末は30日ではなく、月の最終日とする」などだ。特に業界特有の商習慣に従うものは、RPAのためにルールを変更することは難しい。
「あるユーザーは、人間がカバーする前提で全ての営業日にロボットを稼働させてログをためておいたり、ロボットの稼働条件を判定するロボットを別に作り込んだりしていました」(西部氏)
前述したRPAの機能不足や現場の「ちょっとした不便」を小さなロボットで補助するならば、機動性の高いデスクトップ型RPAが向いている。業務に最も精通する担当者にとって「欲しいロボットがすぐに作れる」という利点があり、経営者にとってもスモールスタートで試験導入ができるためだ。
しかし、業務担当者が自分のためのロボットを無秩序に作ると、誰も管理できない「野良ロボット」が生まれたり、複雑に作り込まれすぎてブラックボックス化する「スパゲティコード」になったり、小さなロボットの集合によって自動化が細切れになったりして、結局全体の効率はさほど上がらない……といった問題が顕在化する。
「導入したRPAが継ぎはぎだらけになってしまうのは、ボトムアップで進めるときによくみかけるパターンです」(西部氏)
細切れになったRPAを運用しようとすると、自動化されたタスクの前後に「RPAのための手動タスク」が発生することがある。
代表的なものは、データの前後処理だ。システムが出力したデータを「RPAに読み込ませる」ための加工や、部署を横断する作業などで余分な工数が生じると「運用に手間がかかる」と判断され、結局は使われなくなってしまう。
「RPAで実行させた業務確認などはRPAが持つスケジュール情報と実行ログを抽出したのち、『Microsoft Excel』にコピー&ペーストで予実管理一覧をチャート形式で作成するなど手作業で対応しているケースがありました」(西部氏)。
極端な例になると、キチンとロボットが稼働しているかどうか「ロボットの稼働状況を見るために、定期的に人間が自社のサーバルームへ行く」ケースもあったという。
RPAベンダーは複数あるが、それぞれに得意な処理と不得意な処理がある。たとえIT部門が「統制しやすい中央集権的なRPAを導入したい」と思っても、業務部門は「OCRに強く、細かな変更にすぐ対応できるRPAを使いたい」と考えるかもしれない。各部署が自分の業務に適したツールを導入した結果、1つの組織で複数のRPAが使われる「マルチRPA環境」になってしまう。
西部氏は、「当社のクライアント企業に対してアンケートをとった結果、過半数が2種類、あるいは3種類のRPAを利用していました」と説明する。
これらの課題を解決するのが、日立製作所の「JP1/CPA(Client Process Automation)」と「JP1/AJS3(Automatic Job Management System 3)」だ。
JP1/CPAは、クライアントPCにおける自動化ジョブを管理するツールだ。西部氏が「RPAそのものではなく、RPAの実行順序や起動条件を管理する『補完製品』です」と述べる通り、クライアントPCに個々にインストールされたロボットを効率よく実行管理できる。
ジョブの実行条件は、日時や特定イベントなどを細かくつないで定義できる。例えば、標準で組み込まれたアイテムだけで、
といった処理が可能だ。
RPAが細切れになっても「間をつなぐ」作業に人が介在する必要がなくなるため、RPAの開発や利用のハードルが下がる。複数の業務に共通するプロセスを外に出してサブルーチン化したり、冗長なプロセスを見直したりといった個人の業務レベルでの改善が可能になる。
JP1/CPAは、西部氏の言葉を借りれば「小さく始めて大きく育てるための“スタータモデル”」だ。
RPAを動かすクライアントPCが増えてきたら、ある業務を完遂させるために「部門を横断したワークフロー」が必要になるだろう。そのような場合にジョブ管理ツールのJP1/AJS3が役に立つ。
個人や部門の中で個別に最適化されていた業務を自動化すれば、メッセンジャーツールや電話などでの業務連絡も不要になる。西部氏は「特にユーザー企業さまから、ジョブ運用全体の状況を一覧で確認できる『ロボットの予実管理』についての評価をいただいています」と述べる。
「JP1/AJS3でRPAも一元管理すると、ロボットを一連のフローとして自動化することになるため、フローに組み込まれていない『野良ロボット』を動かしにくくできます」(西部氏)。
西部氏は、RPAの実運用に際して「ちょっとしたことでロボットは止まります」と語る。例えば、OCRで読み取る帳票のフォーマットが変わった、機材のリプレースによってモニターのサイズが変わった、アクセス先の応答性能が悪く待機時間を過ぎてしまった場合などだ。
人間にとっては「ちょっと考えれば分かる変化」「もう少し待てば解決する問題」であっても、決められたプロセスに従って動くロボットにとっては異常終了となってしまう。
そのようなトラブルへの対処も関連ソリューションとの連携によって自動化できる。例えば「JP1/TELstaff」と連携すれば、終了予定時間の超過を検知した場合、システム管理者や業務責任者に対して自動的に通知される。
JP1/TELstaffには、「一日の業務がすべて正常に終了した場合は担当者にメールで通知、異常終了や緊急時には電話で通知」など、通知したい内容に合わせた柔軟な通報ができます。緊急性の高いトラブルには「担当者が電話に出ない場合、より上位の管理者にエスカレーションして通知する」といった設定も可能なので、外にいても誰かが必ずアラートを受信できる。
西部氏は、安心して自動化するためには、ここまでそろっている必要があると語る。
「RPAを活用した業務効率化と生産性の向上に注目が集まっています。しかし、全社規模で考えると、個人レベルの効率化のみでは高い投資対効果は得られません。RPAの効果は適用範囲を広げていってこそ出てくるものですが、そのとき発生する『新しい管理業務』が結局コストになってしまっては意味がありません」(西部氏)。
RPAは業務を自動化し、生産性を上げるためのものである。RPAを管理するために人の作業が発生したり、運用のために工数をかけてRPAを作り込んだりしていては、本末転倒になってしまう。そこで有効なのが、RPAの実行管理に特化したJP1の活用だ。運用をJP1に任せれば、ロボットそのものを小さくシンプルに作れるようになる。シンプルなロボットは、共通部品として他の業務でも使えるようになるだろう。小さく始めて大きく育てることが、RPAレベルアップ術といえる。
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